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万能ではないスプーン [ショートショート]
昼休み、私は社員食堂の片隅でスープをすする。使い捨てのスプーンが手元にあるが、どうにも使いづらい。プラスチック製で軽く、すくうたびに安定しない。スープの熱で少し反り返っている気もする。
「万能」と書かれた調味料の小袋が目に入る。醤油と出汁が合わさった液体らしい。試しにスープに垂らすと、さっきまで物足りなかった味が引き締まった。万能、か。確かに便利だ。でもこのスプーンはどうだろう。
私は子供のころ、金属のスプーンを振り回して母に叱られた記憶がある。丈夫で、熱にも負けず、すくいやすい。あれはまさに万能だった。でも今の私は、使い捨てのスプーンを使うしかない。
スープを飲み終え、スプーンをゴミ箱に捨てる。金属のスプーンなら洗ってまた使えたのに、これはもうおしまいだ。世の中には「万能」と呼ばれるものが多いけれど、本当に万能なものなど、存在しないのかもしれない。