愛してるの裏側 [ショートショート]
試験当日、私は教室の一番後ろの席に座っていた。前日、ほとんど勉強せずに眠った結果、目の前の問題は全く解ける気配がなかった。ちらりと隣を見ると、優等生の竹内さんが静かに答案を埋めている。私はふと、彼女の答案用紙に目をやった。
カンニングなんてするつもりはなかった。そう思いながらも、目は自然と竹内さんの手元に向かう。彼女の書いた数字や記号が鮮明に見える。反射的に、自分の答案に鉛筆を走らせた。「これくらいなら大丈夫だろう」そう心の中で言い訳をした。
試験終了の鐘が鳴った。解答用紙を提出したあと、私はほっと息をついた。しかしそのとき、ふと教室の前方にある鏡が目に入った。その鏡に映る自分の姿は、冷や汗をかきながら、竹内さんの答案を盗み見る私だった。
その日の帰り道、偶然竹内さんと一緒になった。「試験、どうだった?」と彼女は微笑む。私はぎこちなく「まあまあ」と答えた。そのとき、彼女がふと立ち止まり、真剣な顔で言った。「知ってるよ、あなたが見てたこと」
心臓が跳ね上がった。言い訳しようとしたが、言葉が出てこない。すると、竹内さんは続けてこう言った。「でも、私も同じだよ。見てたから。あなたの後ろの窓に映る、"好き"って書いたメモを」
彼女の顔が少し赤くなった。私はその意味をすぐに理解し、全身が熱くなるのを感じた。「え……?」と返すのが精一杯だった。竹内さんは照れ隠しのように、「今日はこれで」と早足で去っていった。
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