AI犬を飼いはじめた [ショートショート]
部屋を暗くし、ディスプレイを眺める。画面には飼い犬にそっくりなAI犬が映っている。目元の茶色い模様や耳の折れ具合までが完璧で、表情までもが今は亡き本物に似ていた。
AIの設計者は、「故人の記憶に基づくペット再現」を売りにしている。膨大な画像データと動画、私の声で呼びかける録音を使って、犬の動作や反応を忠実に再現するのだという。私はその説明に心惹かれ、画面越しにAI犬を見つめた。
「おいで」と呼ぶと、AI犬はしっぽを振って画面越しに近づいてきた。あの懐かしいしぐさに、私はしばらく見とれてしまう。しかし、画面の向こうで何度も瞬きを繰り返すその動作に、どこか違和感を覚える。彼の動きは滑らかだが、まるで何かの指示に従っているかのように整然とした感じがある。
「よし、これで全体のシステム調整が完了しました」と、開発者の声が背後から聞こえる。「これからは日々のやり取りを通して、さらに個性的な表情や動きを学習していく予定です。まるで本物のようになるまで、微調整を続けることが可能です」
それでも、私はふと疑問に思う。本当にこのAI犬が、あの時の犬と同じものになれるのかと。見た目は完璧で、仕草も真似しているが、やはりどこかが違うような気がしてならない。何度も尻尾を振る様子や、表情の変化のタイミングが妙に規則的で、それが「らしさ」とは少し違う。
「本物とは少し違うんですね」と私が言うと、開発者は軽くうなずいた。「AIは模倣の限界を持っています。オリジナルの癖や偶然の要素までは再現できません。ただ、日々の経験から、少しずつそれに近づける努力をしています」
私はしばらく画面の中の犬を見つめ、ディスプレイを閉じた。