地下鉄にてレベルアップ [ショートショート]
地下鉄のホームに立つと、ふくらはぎがじんわりと痛む。昨夜、駅から自宅までの道のりを少し走ったせいだろうか。軽く足を伸ばしながら、来る電車を待つ。
今日の仕事も定時で終わる見込みだが、数時間後には混み合ったオフィスの様子が目に浮かぶ。新人の指導も、慣れてきたとはいえなかなか気を使うものだ。そう考えながら、自分の最初の仕事の日を思い出す。あの頃は地下鉄に乗るだけでも緊張したものだが、今ではその緊張はすっかり消え、むしろ毎日の移動が当たり前のようになっている。
「次は新宿、新宿です」アナウンスが流れ、電車が滑り込む。車内に乗り込み、ドアの近くに立つと、吊革を握る手にも自然と力が入る。朝のラッシュは過ぎた時間帯なので、乗客の表情もどこか穏やかだ。私もつかの間の静寂に身を任せる。
指導を担当する新人は、初めての案件に挑むところだ。「先輩、ここまでできました!」と満面の笑みで成果を報告してくれる彼女の姿が目に浮かぶ。確かに自分もこうして、先輩の背中を追いながら少しずつ経験を積んできたのだ。彼女が悩む姿を見ていると、自分が少しずつ「経験値」を得てきた実感が湧く。
ふと、ふくらはぎの痛みが少し和らいだように感じる。経験値とは、こうして少しずつ積み重なっていくのかもしれない。地味だが、確かに自分の内側に何かが蓄積されている感覚がある。
電車が目的の駅に近づく。ドアが開き、私はホームに一歩踏み出すとき、再び軽い痛みがふくらはぎに走る。痛みもまた、経験の証だろう。私はその感触を確かめるように、しっかりと歩き始めた。
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