帰り道の守り神 [ショートショート]
帰り道、商店街を抜けたあたりで、視線を感じた。ちらりと振り返ると、いつもより早歩きで近づいてくる男の姿が見える。顔は暗く、距離も少しずつ詰まっていた。私は心臓が跳ね上がるのを感じながら、無意識に足を早めた。けれども男も同じように歩調を合わせてくる。遠くにあるコンビニの明かりが、心なしか頼もしく思えた。
ふと、自分の横に誰かが並んで歩き始めた。若い男性だった。気づかれないように盗み見ると、整った顔立ちのその人は、真剣な表情でまっすぐ前を見つめていた。私は何も言えず、そのまま彼に歩調を合わせた。
男は近づいてくる様子もないが、後ろからの気配は消えていない。何度か振り返ろうかと思ったが、横の男性が気づかせまいとするように私の手首を軽く押さえた。「大丈夫ですよ」と彼は小さな声で言った。その一言が、どこか心にしみた。
コンビニの明かりが目の前に迫ると、彼はさりげなく私と距離を取った。追ってきていた男は、コンビニの角を曲がる直前に立ち止まったが、結局、背を向けて去って行った。
私は安心して、何度も息を吐き出した。しかし、さっきまで隣を歩いていた男性の姿は見当たらない。探し始めると、遠くで一瞬だけ彼が振り返り、何も言わずに手を軽く振った。その瞬間、彼の足元には、まるで忍者のように音もなく動いているのが見えた。
静かな夜道に一人立ち尽くしながら、私はその不思議な「守り神」のことを思い浮かべた。
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