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時計台の午後 [ショートショート]

時計台の前は観光客で賑わっていた。紅葉の季節ともなると、週末のこの場所は特に混み合う。私はそんな人波をかき分けるようにして、目の前のベンチを確保した。

冷たい風が頬をかすめ、赤や黄色に色づいた葉が足元に積もっている。私はカバンから本を取り出したが、文字を追う気になれず、時計台の針をぼんやりと眺めた。あの針は何百年も休むことなく、時を刻み続けているのだ。

「写真、撮ってもいいですか?」
ふと声をかけられた。振り向くと、若い女性がカメラを持って立っていた。私は少し驚きながらも頷いた。彼女は「ありがとうございます」と言い、私の背後の時計台にレンズを向けた。

撮影が終わると、彼女は再びお礼を言って去って行った。私は気まぐれに立ち上がり、時計台の真下まで歩いていった。巨大な針が頭上で動く音が微かに聞こえ、空を仰ぐと、青い空を背景に紅葉が揺れていた。

「時が止まればいいのに」
誰かが呟く声が聞こえた。私の心にも同じ感情が一瞬浮かんだが、それはすぐに風に流されていった。時計台の針は動き続けていた。

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