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第31回「ゲストも豪華な"植木等ショー"後編」

植木等ショー」のディレクター砂田実さんは、TBSの社員にもかかわらず、クレイジーキャッツの出世作フジテレビの「おとなの漫画」の台本をてがけ、昭和38年(1963)内職で植木等さん出演のCM「なんであるアイデアル」を大ヒットさせた型破りなテレビマン。

砂田さんが著書「気楽な稼業ときたもんだ」(無双舎)で、植木さんと伴走できた幸せについて次のように語っています。
植木等さんとのことは是非語っておきたい。植木さんには特別な思いを持っている。大方の歌い手や役者と違い、植木さんは距離をきちんととりつつも、温かく付き合ってくれた。ある意味では、たいへんスマートな交友関係が成り立っていた。
昭和41年(1966)10月11日、CM業界のアカデミー賞とも言うべきACC賞の発表が行われた。パントマイマーの及川廣信氏を起用した「アイデアル」のCMで、スポット部門の金賞を受賞した回である。それからしばらくしてのこと。
「砂ちゃん、ちょっと僕に時間くれる?」植木さんは一言そう告げると僕を自分の車に迎え入れた。「どこへ行くんです?」「まあ、いいから、いいから」車はしばらく走り、日本橋三越の前で止まった。
植木さんは、店内をズンズン歩いていくと、時計売り場の前で立ち止まった。「砂ちゃん、お祝いにどれでもいいから選んで」植木さんは、ちょっと離れたテーブルセットに腰を下ろし、「植木等様ご来店」ということで、飛んできた外商と思しき男と雑談をはじめた。
正直言ってまず困ったのは、それまで僕は、役者とか歌い手に高価なプレゼントをされた経験がまったくなかったことだ。そのことに対する戸惑いがまずあり、さらに日頃けっして華美ではない、どちらかというとシックな植木さんのセンスを裏切ってはマズい。悩んだ揚句、セイコーのそれなりの品物を選んで店員に取り出してもらった。植木さんは「砂ちゃん、いいセンス」と言いつつ、同じようなデザインでもう一ランク上の品物を店員に包ませた。
植木さんのさり気ない気遣いが発せられた場面である。それに植木さんは、僕がプレゼントを何のてらいもなく受け取れる雰囲気を作ってくれた。僕は素直に感謝した。
タレントなりスター歌手なりと仕事をともにする場合、どうしても双方譲れない厳しい場面に遭遇し、それがもつれにもつれて感情のぶつかり合いとなることも多々ある。それがまるでないスタッフと演じる側の関係など、逆に価値がないと僕は思っている。ところが、植木さんとは何度も仕事をしてきたにもかかわらず、ぶつかり合いはただの一度もなかったのだ。

植木さんと砂田さんのコンビで、第1期「植木等ショー」終了の半年後、第2期が始まりました。

佐藤利明さん編著「植木等ショー クレージーTV大全」(洋泉社)からの抜粋を中心に紹介します。
第2期「植木等ショー」1968年7月〜12月(TBS系木曜21時から30分)
第1回「前夜祭」ゲスト吉永小百合、山本直純など
東宝映画のスター植木さんと日活映画のスター吉永小百合さんとの共演はこれが唯一無二。
第2回ゲストザ・ドリフターズ、小川知子など
いかりや長介さんがケガで出演できず、多々良純さんが代わりをつとめました。
第3回ゲスト倍賞千恵子、犬塚弘、wけんじ、益田喜頓など
松竹の山田洋次監督作品でハナ肇さんとの共演が多かった倍賞千恵子さんが出演し、花嫁のコントを。
第4回ゲスト梓みちよ、てんぷくトリオ、桜井センリ、宮川泰
三波伸介さん、伊東四朗さん、戸塚睦夫さんのてんぶくトリオが出演。梓みちよさんとジャズナンバーも披露。
第5回ゲスト鶴田浩二、かしまし娘、中村晃子、青空はるお、あきお
第1期にも出演した東映任侠路線の看板スター鶴田浩二さんが再び登場。江戸の長屋を舞台にしたコントを植木さんと展開。
第6回ゲスト谷啓、伊東ゆかり、wけんじ


夏にふさわしく谷啓さん作のシュールなお化けコントが秀逸。
第7回「藤田まこと、佐良直美と共に」ゲスト藤田まこと、佐良直美、小松政夫など
植木さんと藤田さんが、表では仲が良いが、楽屋では最悪の仲という漫才師コンビのコント。小松政夫さんが植木さんの付き人役。
第8回「ハナ肇、園まりと共に」ゲストハナ肇、園まり
無人島に漂着したハナさんと終戦後もジャングル暮らしの旧日本兵植木さんが美女園まりさんを巡って恋の鞘当て。

第9回「北島三郎、水前寺清子と共に」ゲスト北島三郎、水前寺清子
袴姿の植木さんと北島さんが、和風姿の水前寺さんの新曲「ひとりでよいしょ」を日本舞踊で盛り上げる。
第10回「越路吹雪と共に」ゲスト越路吹雪、フォーメイツ
ほとんどテレビに出ない越路さんが「植木等ショー」2度目の出演となったのは、植木さんと砂田さんへの信頼あってのこと。
第11回「クレージー・キャッツと共に」ゲストハナ肇とクレージーキャッツ
個々の活動が多くなっていたクレイジーキャッツが久々にユニフォームの白いスーツ、棒タイ姿で勢揃いして数々のヒット曲を披露。


第12回「ザ・ドリフターズと共に」ゲストザ・ドリフターズ、木の実ナナ
約1ヶ月後の10月28日から、TBSでクレイジーとドリフが共演するドラマ「ドカンと一発!」(月曜夜8時〜)がスタートするタイミングでの出演。

第13回「ザ・ピーナッツと共に」ゲストザ・ピーナッツ
ザ・ピーナッツが初出演。歌とトークで笑いに繋げていき、植木さんと息の合ったところを見せる。

第14回「植木等の大恐妻」ゲストミヤコ蝶々、南都雄二、安藤孝子、桜井センリ
ミヤコ蝶々さん南都雄二さん出演の人気テレビ番組「夫婦善哉」(ABC/TBS系)のセットで、植木さんとカップルに扮した安藤孝子さん(日テレ系深夜番組「11PM」で司会の藤本義一さんのアシスタント)と共にトーク。
第15回「植木等の大ズッコケ!」ゲスト西郷輝彦、中尾ミエ、中野ブラザーズ
60年代サイケ・ムードの中で、華麗なタップダンスも登場するお洒落なショー。
第17回「植木等の大カマトト!」ゲスト青島幸男、由美かおる、原田糸子、なべおさみ、世志凡太
由美かおるさんはじめ西野バレエ団の人気者や参議院選に初当選したばかりの青島幸男さんと共に、カマトトをテーマにしたコント、ミュージカルを展開。

第17回「スパイダースの大バラエティ」ゲストザ・スパイダース、高橋レナ、ザ・ストレンジャーズ
タイトルにスパイダースを掲げ、若者に人気のGSグループ、「11PM」のカバーガールとしても人気のあったエレクトーン&ハモンドオルガン奏者高橋レナさんと共演。
第18回「植木等の大インチキ」ゲスト水原弘、犬塚弘、デューク・エイセス、四方晴美など
チャコちゃん」シリーズ(TBS)で人気の子役四方晴美さんも加わり、全てにインチキくささ満載の30分。
第19回「植木等の大ロマンス」ゲスト鶴田浩二、浅丘ルリ子、小松政夫
鶴田浩二さん3回目の番組出演。どれだけ植木さんのことが好きだったか。しかも、平安時代の貴族のコントで白塗りで登場したのにびっくり。映画では絶対に見れない鶴田さんの一面。
第20回「植木等の大ハレンチ」ゲストジェリー藤尾、伊東きよ子、トリオ・スカイライン、宇野亜喜良、コシノジュンコなど
イラストレーターやファッション・デザイナーなどアート・芸術分野で最先端の方々が登場。伊東きよ子さんは、浜口庫之助さんが植木等さんのレコードアルバム「ハイお呼びです!」のために作った名曲「花とおじさん」をシングルカバー。
第21回「植木等の大ハッスル」ゲスト森光子、坂本九、牟田悌三
森光子さんがコント、ショート・ミュージカルにも挑戦し、コメディエンヌとしての魅力を発揮。植木さん、九ちゃん、森さんによる「ウンジャラゲ」(作詞藤田敏雄、作曲宮川泰)は聴きもの。

第22回「植木等の大ショック」ゲスト九重祐三子、三遊亭歌奴、水垣洋子
「シェルブールの雨傘」「パリのアメリカ人」「運が良けりゃ」などのミュージカルナンバーを使った歌あり、ダンスあり、コントありのお洒落なショー。
第23回「植木等の大カンチガイ」ゲスト加山雄三、飯田蝶子、安田伸、矢島正明(ナレーション)
海外ドラマ「逃亡者」のナレーションにのせて医師リチャード・キンブルに扮した加山雄三さんと彼を追う警部役の植木さんによるコント。ルイ・アームストロング風に歌う加山さんに「恋の季節」を歌い二重唱で加わる植木さんなど。


第24回「植木等の大はみ出し」ゲストザ・ドリフターズ、イーデス・ハンソン
ドリフは4回目の登場。この放送の前週から公開バラエティ「突撃!ドリフターズ」(TBS火曜夜7時半〜)がスタート。
第25回「植木等の大オワカレ」ゲスト浜美枝
最終回のゲストは植木さんの指名で、数々の東宝クレイジー映画での相手役、浜美枝さん

植木等ショーのラインナップを改めて見ると、植木さんが映画、テレビ、舞台と超多忙の中、毎回豪華なゲストと共に、よくこれだけ練り上げ、趣向を凝らした内容のものを手間暇かけ毎週作り上げたものと感心します。「植木等ショー」1期、2期合わせた全51回中、映像が残っているのは植木さん自身が保存していた17本のキネコだけです。今のようにビデオが発達していたらと、残念でなりません。


ディレクターの砂田実さんとは、2013年「最後のクレイジー犬塚弘〜ホンダラ一代、ここにあり!」(犬塚弘・佐藤利明著、講談社)が出版された時、佐藤さんのセッティングでお祝いの食事会が開かれ、参加した際に少しお話しする機会がありました。砂田さんは、「植木さんとの仕事は刺激的で本当に楽しかった。クレイジー・キャッツの植木さんではない、一流エンターテイナーとしての植木等を表現できたと思う」と語っておられました。
植木さんはその後、徐々に個人活動中心となっていきますが、平成に入り、「スーダラ伝説」の大ヒットで第二次黄金期が到来、再び砂田さんと組んで冠番組「植木等デラックス」(TBS系、日曜夜11時から30分)を持つことになります。
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