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2025/2/8~2/20 台湾地方創生グローカル演習レポート

プログラムの概要

2025/02/08~02/16の約9日間、高知大学、台湾の高岡科技大学が共同で主催する地方創生グローカル演習に参加した。実習のフィールドは台湾南部にある高雄(GaoSiung)と、台湾最南端の県である屏東県(PingDong)にある東港(DongGang)という街である。今回はそのプログラムで得た学びや経験を共有しようと思う。

台湾第二の都市「高雄」
高雄の様子。かなり都会
東港のすぐ南東部に位置する東港。
海に面している港町。魚介で有名。

実習のゴール

実習の最終ゴールは、東港における地方創生に寄与する5分間程度の動画を作成することであり、実習は日本人と台湾人の割合が半々の4人程度のグループに分かれて行われた。

実習の内容

実習の構成は、最初の3日間で台湾の地方創生や動画制作の手法について学習し、その後の3日間で東港に実際に行き、地方創生のプレイヤーの話を聞いたり、現地を練り歩き東港についてしっかりとリサーチをした後に、最後の2日間で高雄に戻り、動画の制作と発表を行うスケジュールだ。

実習では、基本的にグループで行動し、使用する言語は英語だ。個人的に中国語に興味があったので、英語と拙い中国語で意思疎通を行った。

実習初日は高雄科技大学にて台湾の地方創生に関する講義を受けた。高雄にはプログラム開始前に前乗りしていたので、自分が探索して感じた高雄の地方創生の萌芽についても絡めて台湾の地方創生の実態を以下にまとめる。

台湾の地方創生の実態とリノベーション

1. 台湾の地方創生の背景

台湾では、少子高齢化や都市への一極集中が深刻な課題となっている。台湾の総人口は2022年の2,318万人から、2070年には30%減少し1,622万人になると予測されている。出生数も同期間で約27%減少し、高齢者(65歳以上)の割合は17.5%から43.6%に増加する見込みだ。特に、台北や高雄などの大都市に人口や経済活動が集中し、地方の農山村地域では人口流出が加速。地域社会の維持が困難になりつつある。特に台北には人口の1割を超える250万人近くの人口を有しており、一極集中の影響が強い。

こうした課題に対応するため、台湾政府は2019年を「地方創生元年」と位置づけ、均衡ある発展を目指す政策を推進。特に、中南部や東部の人口減少地域を「地方創生優先推進地域」に指定し、産業活性化や移住促進、文化継承の支援を進めている(東港は、台湾の地方創生政策において地方創生優先推進地域に指定されている)。例えば、事業補助金である「地方創生青年培力工作站」(地域での若者支援プロジェクト)に採択された団体には、最大300万台湾ドル(約1,400万円)の助成金が支給される取り組みなど、資金面で幅広いサポートを提供している。

▼ 詳細はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arp/41/3/41_128/_pdf/-char/ja

2. 高雄におけるリノベーションを活用した地方創生

台湾の地方創生では、特にリノベーション(歴史的建築物の再活用)が重要な役割を果たしている。工業地帯や伝統的市場などを再生し、観光・文化・商業の拠点として活用することで、地域経済の活性化を図っている。高雄は、かつて工業都市として発展したが、産業構造の変化に伴い空き施設が増えた。その課題を逆手に取り、リノベーションによる地域再生が進んでいる。

(1)駁二芸術特区(駁二アートセンター)

駁二の外観
  • かつての港湾倉庫群を再生し、アートと文化の拠点へ

  • 1970年代まで貿易の拠点として使用されていたが、港湾機能の変化により放置されていた倉庫を2000年代以降、高雄市がクリエイティブ産業の振興を目的に再開発

  • 現在はギャラリー、カフェ、ライブハウスが集まり、若手アーティストの創作拠点に。アーティストインレジデンスを行っており、アーティストが居住をしつつ活躍している

  • 観光地化と地元クリエイターの支援の両立に成功

(2)鹽埕堀江市場(イエンツェン堀江市場)

  • 伝統市場の再生と新たな商業空間の創出

  • 1950年代に栄えた市場だが、大型スーパーの進出により衰退

  • 新旧融合の商業エリアとして再生

  • レトロな雰囲気を残しつつ、新しいブランドやカフェ、デザインショップが展開

3. まとめ

台湾の地方創生は、単なる地域活性化ではなく、「文化の継承と新たな価値創造のバランス」を重視している。高雄の駁二芸術特区や鹽埕堀江市場の事例は、歴史的資源を活かしつつ、新しいライフスタイルや経済活動を生み出す成功例だ。政府の支援と民間の創意工夫が結びつくことで、地域の特色を活かした持続可能な都市再生が実現している。

4. おまけ

その日の夜は、台湾の現地の学生とともに高雄で有名な夜市「瑞豐夜市 Ruifeng Night Market」に。

高雄にはたくさん夜市があるのだが、ここは人気な夜市のひとつで、観光客と地元客で賑わっていた。台湾の夜市は食べ物はもちろんのこと、日本の屋台の射的のようなゲームが豊富に取り揃えられている。

わたしは夜市で、台湾名物「臭豆腐」にチャレンジしてみた。日本料理で言う納豆枠を確立しており、もの好きな旅人がチャレンジしては撃沈することで有名なのだが、わたしも例外ではなく、臭豆腐の店の半径5メートル圏内に入ると、臭いでかなりやられそうになった。

臭豆腐の写真

しかし、わたしが食べた臭豆腐は当たりだったのか、意外や意外あまり臭みを感じず、むしろ美味しくたべることができた。後から調べたところ、臭豆腐には2種類あるそうで、これは揚げた臭豆腐だったそう。揚げ臭豆腐は厚揚げに似ており、とても美味しく食べやすいのだが、揚げてないタイプのタレに浸ってある臭豆腐のほうは臭いがかなりキツいそう。

また、蚵仔煎(オアチェン)と呼ばれる、牡蠣と卵とレタスがもちもちの生地に包んで焼く台湾の屋台の人気グルメ。噛むとあふれる牡蠣のジューシーなうまみと甘辛いタレが合う料理で、とても美味しかった。

動画制作に関する講義

2日目~3日目からは、台湾で動画制作を仕事にしている方を講義に招き、最終的に制作する動画制作のテクニックや動画に必要な素材の取り方について教わった。

以下が実際に制作した動画である。動画については、インターネットから引用したフリー素材もあるため、すべて自分たちで撮影したものとはならなかった。

動画制作は行ったことがなかったが、基本的な動画制作の監督は自分が務めた。他のグループは実習で行った場所の写真を音楽をつけて紹介するスタイルの動画を作成していたが、わたしたちの班は明確にターゲットを「都会に住む生産年齢人口もしくは高齢者のうち田舎暮らしに憧れている人」とした。

動画を見れば分かる通り、字幕を全編中国語にしており、台湾に住む人が東港で都会の喧騒から離れた穏やかな生活をイメージできるようにしている。地方創生グローカル演習という名であるためか、海外の人に向けたPRをする動画を最初に要求されていたが、経験上外国人旅行客が特徴が少ない地方に来ることはまず殆ど無いし、そういう人が来るような動画を仮に作る場合、制作費と時間を投下してハイクオリティな画質と著名人を起用した動画もしくはドラマを作るか、TikTokなどで流行りそうな癖の強めな動画を作るかの二択がかたい。

たとえば、前者で言えば、下のCMの動画では、台東に観光客を呼び込むために作られた動画であり、台湾で非常に有名な俳優を起用しており、CMに登場した緑の豊かな田園風景の中に佇む一本の新緑の木は、このCMをきっかけに人気が高まり、わざわざこの木を見るために観光客が殺到したそうである。

しかし、ほとんど時間も機材も金もない、スマホ一台で素材を撮ってくる環境では前者は無理なので、後者の路線で頭でイメージを組み、癖になる軽快なリズムと共に、誰でも真似できそうな特徴的な振り付けをあわせて、東港の様々なロケ地で撮影する案をひそかに考えたが、それであればうまくいったとしても一過性のある地域活性にしかならないので、取りやめた。

そもそも情報の少ない地域を活性化するのであれば、まずは国外に目を向けるよりも、国内でその地域に感心をよせる関係人口にフォーカスし、適切に東港に関する情報をまとめ発信し、移住のきっかけを与えることが重要であると結論づけるため、このような動画になった。

動画編集では、CapcutやAdobe Premiere、Canvaなどがおすすめされていたが、今回はCanvaを活用した。

東港における現地実習

高雄での講義を終え、4日目~6日目は実際に東港の地へ。まずは、東港を視察してわかった、簡単な東港の情報から紹介する。

東港について

1. 概要
東港は、台湾南部の屏東県に位置する沿岸の町で、漁業や海鮮、祭りで有名な地域である。屏東県の南西部に位置し、台湾海峡に面しており、高雄市から南へ約25kmの距離にある。

2. 人口と経済

  • 人口:約5万人(2023年時点)

  • 主要産業:水産業、食品加工業、養殖業

養殖業が盛んであり、大学とも連携して養殖業に力をいれている

東港は台湾屈指の漁港であり、特に黒マグロ(本マグロ)の水揚げで有名です。東港には東港三寶と呼ばれるマグロ、サクラエビ、からすみが特産品になっている。また。毎年開催される「東港黒鮪魚文化観光祭(黒マグロフェスティバル)」では、新鮮なマグロを楽しめるイベントが開催され、多くの観光客が訪れる。

東港にある華僑市場の様子

実際に東港で、海鮮料理をいただいた。台湾の人も刺し身をたべるそうで、特にマグロは新鮮でとても美味しかった。

また、海が近いためビーチも存在し、東港からフェリーがでている「小琉球」という島は、台湾全国的に有名なリゾート地である。海の透明度が非常に高く、スキューバダイビングやウミガメ観察が楽しめる場所になっている。

引用:https://trip.settour.com.tw/taiwan/product/GRT0000004194

また、「大鵬灣」と呼ばれる大きな湖があり、そこではカヤックなどの水上アクティビティを楽しむことができる。

実習でもカヤックを行った

3. 歴史・文化

  • 漁業の町として発展し、台湾でも有数の漁獲量を誇る。特に遠洋漁業が盛ん。

  • 宗教文化も根付く地域であり、「東隆宮」という廟では3年に1度(旧暦9月から10月)、「東港迎王平安祭典」という伝統的な宗教儀式が行われる。

東隆宮

この「東港迎王平安祭典」は、この日のために職人によって作られた巨大な船を大勢の人が担いで街を練り歩き、最終的には燃やすというとても迫力のある祭りであり、これを見るために遠くからやってくる観光客も多い。次回の開催は2027年だそう。
明の時代(約300年前)に福建省から台湾に伝わったとされており、疫病が流行した際に、疫病を鎮める神「温王爺」を迎え、王船と共に災厄を祓う儀式として始まった。

また、東港は美しい廟が多い。廟とは、道教における礼拝を行う施設であり、仏教における寺院に当たる。台湾では人口の30~40%が道教であり、廟をよく見かける。日本で見る寺との違いは、その台湾らしい極彩色のデザインであろう。これは民俗信仰の影響も受けているそうで、すべての廟がそういうわけではないが、台湾の廟はとにかく色彩が鮮やかで、造りが非常に精巧である。色彩のシャワーと神秘の金色につつまれ、目の置く場所が定まらない。とにかく美しい空間に目を奪われる。廟本体の美もさることながら、廟に安置された、無数の仏像や仏具などの無名の天才たちによって創り出された民芸には、神を信じる人々の心の美しさを感じた。

東港鎮海宮はおすすめ
東港鎮海宮

道教はベジタリアンの人が多く、台湾では「素食」という看板をよく見かける。これはベジタリアンメニューを提供しているお店であり、東港では特に多くみかけた印象がある。美しい数々の廟があることや、東港迎王平安祭典に多くの職人たちが関わっていることを考えると、この街には豊かな信仰文化が根付いているかもしれないと感じた。

4.居住の視点

私達の動画のターゲットを「東港に居住したい人」をターゲットにしているため、実際に生活をするときの視点から東港を見つめてみた。

まず驚いたのがその利便性であり、市内中心部半径100m程度のところにバスターミナル、総合病院、市役所、高校など生活で必須のサービスを提供する施設が密集している。

バスターミナル。高雄からはバスで1時間ほどで来れる。
総合病院

また、中心部は再開発がすすんでおり、下図の屏東縣王船文化館は、東港迎王平安祭典の歴史や文化を伝えるミュージアムとして去年建設された。ホテルなどの建設もすすんでいる。

引用:https://maps.app.goo.gl/u74NM7o3wpK2p2k86

また、市内にはレンタサイクルの駐車場が多く、自転車で街を巡ることも可能である。台湾にはUbikeと呼ばれるレンタサイクルがあり、台湾のIDを持っている人しか乗車することができないのだが、IDと紐づいたSuicaのような電子マネーをかざせば30分無料で使うことができるそうだ。

動画を見ればわかるのだが、実際に東港に居住している方2名にもインタビューを行い、地域の魅力や住心地についても調査した。
印象的だったのが、「都会すぎず、かといって田舎すぎないため、都会の喧騒を避けたければ海などの自然に浸ってのんびりすることもできるし、普段の生活や仕事に関しては市街地で不便なく過ごすことができる」といっており、この部分は我々がターゲットにしている「都会に住む田舎の穏やかな暮らしを求めている人」にマッチするため、動画内でもアピールを行った。

まとめ

東港は、漁業が主要な産業であり、新鮮な海鮮料理や伝統文化が魅力の地域であった。地方創生優先推進地域としても、選定されており、水産業のブランド化を中心としたまちづくりが行われている。居住の視点から見ても、基本的なサービスが整っており、生活に不便がなく、海や自然が近いことが魅力になっている。

実習を振り返って

東港での現地実習を終え、最後の2日間は、高雄に戻り動画制作を一日かけて行った翌日に最終発表をおこなった。

他班の発表の様子

最終発表では、グループごとに動画を紹介して、なぜその動画をつくるにいたったのかをスライドを活用して英語でプレゼンをした。フィードバックとしていただいたコメントで印象的だったのは、「どうしてそんなにシブい動画を作れるんですか」と言われたことだ。そのときの文脈からは、いい意味のほうの「シブい」で評価しており、このコメントをいただいたということは自分たちが狙ったターゲットの年齢層が上の人がしっくりくるような動画が作れているということでもある。

実習を終えて感じたこととしては、動画というメディアの持つ力が最も大きい。わたしはよく文章を書くので、なにか魅力を発信するときは文章になりがちなのだが、デメリットとして読むハードルも高いし、作るハードルも高い。一生懸命時間をかけても、まったく読まれないことは往々にしてある。その点動画は、動画編集ツールのUIの向上のおかげで、編集するのも簡単だし、素材をとるのも、技術さえ覚えればスマホ一台でそこそこよいものを入手でき、雰囲気にあう音楽と合わせれば、あまりこらなくてもなかなかな出来栄えの作品が短時間でできる。何より、見るハードルが文章より圧倒的に低いので、「なんか見てしまう」という軽さがある。伝えるという意味でかなりハードルの低いメディアであることに気が付き、地域の魅力を動画で表現する可能性に気づいた。

また、グローバルの研修ということで、異文化理解力や異文化コミュニケーション能力、語学力があがったとも書きたいところだが、普段生活している場所がゲストハウスであり、ひっきりなしに海外のお客さんがくることや、留学を1年間経験していたこともあり、そこに関してはむしろ日常に近い部分であったので、特に成長は感じなかった。代わりに、日本人の中で、わたしはプログラムの中で唯一高知大学の学生でなく、しかも高知大生がみんな1年生だったので、3年生のわたしは先輩の立場であり、そっちのほうが日頃味わうことができない新鮮な体験だった。残念ながらわたし大学の学部では、縦の繋がりが非常に少なくなってしまう仕組みになっており、わたしはほとんど後輩を関わったことがなかったため、今回のプログラムを通じていかにして後輩とフラットな関係性を保ち、忌憚なく意見を言い合える関係性を作れるかに尽力した。うまくいかない部分も多かったが、年齢や立場の全く違う人に囲まれたアウェーで生き残る生存戦略として、自分が培ってきた経験や成果から生じるプライドを捨て去り、教えるというより教わる姿勢をもつことの大切さを知った

地方でガイドさんによる解説もうけつつ、街をしっかり眺める時間があったため、台湾の文化理解も進み、台湾の地方のうまみも味わうことができたのは非常に貴重な体験だったと思う。これまで地方創生に2年近く携わってきたが、やはり地域活性において重要なこととして「その地域を深く理解し、深く愛する人をどれだけ増やせるか」が最も重要な部分と、東港を奥深くまで体験することで再認識することができた。これからも地方創生に携わるプレイヤーとして現場を第一に考え、現場を理解し、愛し、その魅力を伝える媒体として、動画を活用したり、ツアーを企画してみたりすることにもチャレンジしてみようかなと感じた。


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