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旅序02-ダイアス

彼とはパナハチェルから湖の対岸へ向かう船の上で顔を合わせた。彼女と一緒にいて、もじもじ照れた顔をしてたことしか直接の印象はない。でも、彼は僕が初めて会った『レインマン』だった。イワユル、超天才『サヴァン症候群』なんだろう。
これはそのガールフレンドの日本人女性から聞いた話である。


彼の感覚というのは僕らとは違う。まず、入ってくる情報量と質が違う。僕らはモノを見て、綺麗だなあと思う。でも、詳細に語ることができない。というか、『視覚の詳細』なんて考えたことがないのが普通だ。
僕らの目は、眼球がカーブしていて光が屈折しモノを認識する。だから同じモノも違う角度から見ると本当に同じ色には見えない。けれど、その差は僕らには理解し得ない。彼は、色の違いやコントラストの違いを認識してしまう。そして、緑に囲まれている時、「あそことあそこの色が今、この角度から全く同じ色になった」ことを『美しい』と感じ、急に行動を止めてしまう。
音楽もそうだ。彼に聞こえるのはリズムや音階ではなくコードと波形、スーパーデジタルだ。

彼の能力を示す最たる話が『37,000,000』だ。彼は某大手外資証券会社に未来の株価推移を計算するソフトを売った。そのソフトについた値段が『37,000,000』だった。最初は「3,700万円ってすごいなあ」と思ったけれど、実際は円じゃなくてUSD、『37億円(37million dollar)』のようだ。金額に実感を感じ得ない額だ。

でも一般的に彼のような人の平均寿命は45歳くらい、余命は約10年。その脳力に耐えられないのだそうだ。年間3億円くらい使っても余る。そして、これからもその額は増えていく。彼は脳力を楽しんでいるから。ただし彼、今も1ヶ月に数回は発狂するらしい。PCは再起動すればフレッシュになるからなぁ。薬を使えば症状は軽減される。けれど、同時にその脳力も薄れる。彼は薬を飲みたがらないそうだ。どっちがいいのかわからない。それを判断するのは彼で、その彼の頭の中は僕の理解力を超えているのだから。

彼だけでなく、僕の見てている景色はだれかと同じなのだろうか?

#グアテマラ #2008年5月

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