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旅38-カルタゴのディド

パレルモから夜行フェリーでアフリカ大陸に上陸。約11時間。アイネイアス達は嵐に遭い、流されアフリカ大陸に漂着した。それがカルタゴ。まだ若い国。初代女王ディドの時代。ディドはフェニキアの国ティロスを追われ、この地に辿り着いた。建国を果たしたディドと建国に向かうアイネイアス。これも長い目で歴史を追うと悲劇の出会いである。

カルタゴはチュニジアのチュニスからTGMという電車で20分。今は郊外の町、である。海辺の田舎町と言うべきだろうか。TGMの駅は綺麗に白と青に塗られていてめちゃめちゃ美しい。そんなカルタゴ・ハンニバル駅から東へ登ったとこにあるのが、「牛の皮一枚しか上げられない」と原住民に言われたディドが牛の皮を紐にして囲い手に入れたというビュルサの丘である。

聡明な女王ディドの名前の由来は“放浪者”の意であり、本名はエリッサと言うらしい。ビュルサも“牛の皮”の意である。しかし、ディドに関する遺跡はほとんど残っていない。その後の繁栄の歴史を物語るものが多い。ローマ、アラブ…。後代の建造物の合間に現れるポエニ(アフリカ・フェニキア人)遺跡。

ビュルサの丘から海が見える。アイネイアスが漂着したのはどこだろう。もっと北だろうか。僕の好きな小説では、ディドはアイネイアスに一目惚れしている。ディドの願いで一夜を共にする。されどアイネイアスは感謝しつつも新トロイア建国のため船出。隣国の王との結婚を強いられていたディドは彼らの船を見ながら自分の胸をアイネイアスからもらった短剣で刺し、絶命した。

アイネイアスにとって来る予定のなかったカルタゴで起きた悲劇。悲劇は繰り返される。彼が古代ローマの始祖であることは以前書いたことであるが、そのローマはカルタゴとポエニ戦争を戦い、徹底的に滅ぼした。国土に塩をまき、作物を採れなくしたというエピソードもある。アイネイアスとディド、トロイア/ローマとカルタゴ。歴史は繰り返されてしまった。

人を傷つける気がなくても、結果的にそうなってしまうことがある。人を傷つけたくない。僕はそう思うからロジックに物事を考える。なるべく避けたい。では、どうすればいいのか。考える、考える。そのためには、自分のできることをし尽くす。言葉で表現するのではない。実行する。相手が僕の気持は間違いないと理解できる事実を、痕跡を示す。でも、相手はそれを理解してくれないことも多く、僕がしたのと同様に僕のことを考えてほしいと願うのは無理である。自分の正義を貫くと、自分にとって負担になることがある。相手の行動が不十分に感じてしまうことがある。自分がホントに潰れてしまいそうになることがある。そんな時、最大の恐怖、孤独感と人間不信の波が両側から訪れる。誰かに心底愛されることは、最高の喜びと心強さを受けることだ。

チュニジアを、チュニスを離れる前にやり残したことがある。バルドー美術館へ行くこと。ここにはヴェルギリウスに関するものがあるのだ。ヴェルギリウスはアイネイアスの物語を詠んだ詩人である。

トラムでバルドー駅へ行き、そこから歩く。久しぶりに入場料を払って入館した。だってヴェルギリウス…。しかし、そこで見つけた彼に関するものは一枚のモザイクのみ。

解説も何もない。けれどまあいいか。。。そんな中、1つ見つけた! 何と、アイネイアスが描かれた彫刻!

右手に息子のユールスを連れ、左腕には父のアンキセスを抱えている。アイネイアスの足跡をテーマに旅をしているがほとんど彼に関するものと出会っていない。想像するのみだった。だから、尚のことうれしい。僕が参考にしている『新トロイア物語』の作者阿刀田高氏もこれについて書いていない。

ちょっと満足。チュニスには泊まらず、今夜のフェリーでパレルモに戻るのだ。さて、終点ローマが見えてきた!

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