Day 1
2021年12月31日(金)
大晦日
12月28日に仕事納めを終え、冬休みに入っている。この日は群馬に帰省の予定。
前の晩23時に寝落ちしてしまったため、am4時ごろ起きる。1階のお店のテーブルで今月のレシート処理や周りの片付けなどをしてから、いつも通りYouTubeなどを観ながらのんびり過ごす。
am6時ごろトイレに行った時に、急になんとなく首がダルくなり少し頭が痛くなったことに気付き、トイレから出て少し首回しのストレッチなどをするが、頭全体を締め付けるような、
今までに経験したことのない頭痛が襲ってきた。
「これは何かおかしいかも…」と嫌な予感がしはじめる。
2階に上がり、起きていたkanaちゃんに
「ちょっと頭が痛くなってきた…ロキソニンってあったっけ?あれば飲みたいんだけど…」
と言いながら、すでに立っていられないぐらいの頭痛が襲ってきていた。
膝まずきながら薬と水を流し込む様子
に異変を感じたkanaちゃんは、
「すぐ救急車呼ぼう‼︎」
と叫んでいた。
そのまま布団に倒れ込み、2回嘔吐する。頭を押さえながら
「い、いてぇ…」とボヤく。
遠くに救急車のサイレンが聞こえ近づいてくる。救急隊の方が2階に駆け上がってきた。何かを聞かれて、何かを答えた気がするが覚えていない。
上の子が隣で起きてきて
「どうしたの?」とママに聞いていた。
「ちょっとパパが大変になっちゃって、ごめんね…」と話しかけるkanaちゃんの声は明らかに動揺して震えている。そのまま階段のところまで引きずられる。〈60kg以上ある人間を
階段から下ろすのは大変だろうな〉と思い、
「あ、歩けます」と言ってみたが制止され、そのまま引きずられながら1階へ下される。途中2階ぐらい床に置かれた時、下半身がめちゃくちゃ寒くて
「さ、寒いっす…、さ、寒いっす…」
と何度も呟く。そして救急車に運ばれる。〈きっと藤沢市民病院だろうな〉
とぼんやりと思いながら、ズンズンと音を立てて痛む頭を押さえる。カーテンの向こうで「しょうかま…」という
救急隊の方の声が聞こえ、〈ん?しょうかま…湘南鎌倉かな?どこにあるんだっけ?〉と思い巡らしてみる。救急車の揺れが頭痛に響き〈早くついてくれー〉とばかり考えていた。
そのまま湘南鎌倉総合病院へ救急搬送される。救命救急センター内の賑やかな人の声は記憶にあるが、そこからの時間経過はあまり記憶にない。服を脱がされ、紙おむつと治療用の浴衣のようなものに着替えさせられ、僅かに恥ずかしい感じだけはうっすら覚えている。沢山のスタッフの方に色々な質問やら説明やらの声をかけられる。次から次へと人が入れ替わる。〈やれやれ…そういえば今日は大晦日じゃん…〉とぼんやりと思う。遠くでスタッフの方々の談笑している声も聞こえてくる。これから運び込まれることを
知らせる救急のアナウンスなども何度も聞こえ、〈こんな日なのにめちゃめちゃ忙しそうだな…みんな大変だな〉と他人事のように考えている。その後検査が続き、CT検査からカテーテル検査へ。何時間ぐらい経っているのだろうか。〈kanaちゃんや子供たちはどうしているんだろうか?すでに病院に来ているんだろうか?〉
しばらくすると、主治医らしきA先生からこう説明があった。
「くも膜下出血です」
ん?聞いたことあるけど結構重たいやつ…生死に関わるやつじゃなかったっけ?心拍数が急激に上がるのを感じる。
「ただ、今回の場合は幸い静脈瘤によるもので軽度な出血の可能性があるので、出血したところが消えて綺麗になるまでおよそ2週間ぐらいの入院になると思います」と告げられる。〈2週間か…ちょうど正月休みだし、タイミングは良かったのかな〉時計を見ると
多分昼の12時ごろだった。
その後ECUへ移動。点滴や心電図モニター、パルスオキシメーターが両腕につけられている。こうして人生初の入院生活がこの大晦日から始まろうとしている。頭の激痛は落ち着いているがずっとどんよりとした鈍痛が全体を覆っている。目を瞑ってみるが、痛みのせいで寝る感じではない。ECU内の様々な機器の音やスタッフの方の声がせわしなく響く。〈まぁ2週間安静にすれば1月中旬からお店は稼働できそうかな…〉と冷静に考える。その後ECU内の奥にあるパーテーションや
壁によって仕切られた個室のようなスペースへ移動する。相変わらず寝れないのでぼぉーっとしながら過ごす。
〈12月頑張りすぎたからその皺寄せがきたんだろうな…〉トイレに行きたくなったが身動きが取れない。ナースコールを押しその旨を伝えると、
「下部に管を通すか、尿瓶にするかどちらにしますか?」との説明。
〈尿瓶かぁ…恥ずいけど仕方ないか…〉女性の看護師さんだがそんなことは言ってられない。心を無にしてお願いする。数時間が経ち、状況は何も変わらない。2時間おきに点滴のチェックと血圧測定と体温測定。頭はずっと痛い。寝たいが寝れず。お腹が空いてきた。そういえば早朝に運ばれてから何も口にしていない。この雰囲気だとご飯も無さそうだ。ひとまずお水を用意してもらい飲んでみる。こんなに美味しいと思ったお水はこれまでにない。こうして2021年大晦日が終わろうとしている。とんでもない年越しになった。本当なら午前中にkanaちゃんの実家のある群馬に年始を過ごすために車で向かう予定だったのだ。もしこの頭の激痛がその道中だったら…
群馬に着いてから、救急で運ばれたら…と考えるだけでゾッとする。逆に早朝のタイミングで良かった。
そして年が明けた。
測定で来てくれた看護師さんが
「年が明けましたよ」と声をかけてくれた。
「おめでとうございます… こんな状態ですけど…(笑)」と返事をすると
笑ってくれた。もちろん医療スタッフの方には年末も年始も関係ないんだろうな。ただの一日にすぎない。その後も体勢を変えてみたり、目を瞑ってみたりするがしっかりとは寝付けず。なんとなく朝を迎える。今いる場所には
窓らしきものがないので外の光は届かない。携帯もないので連絡も出来ず。
壁にかかる時計で今の時間を確認するだけ。こうして2022年は幕を開けた。