鍼灸病症的処置(3)耳鳴り


おことわり
・分類は独自に利便性向上のために行なっているものであり東洋医学は病名治療を目的とするものではありません。
・記載内容は効果を保証するものではありません。
・筆者は経絡治療を主としており前提として本治法が正当に行われているものとします。

鍼灸病症的処置(3)耳鳴り
風邪が入っているときの〔耳の痛み〕に使うのが《聴会》。耳が痛いのは風邪のためであり、寒邪ではない。ツボにあたるとスーッと鍼が入るが、ツボにあたらないと痛い。耳の疾患には《下関》を必ず使う。ここは胃経と胆経の交会穴。胃に熱を持つと耳が悪くなる。それを治すのが下関。〔耳ダレ〕には《耳門》と《下関》《聴宮》。『風は胆経にあり』と言って風邪が入ったために膿ができたと考える。

(考察)
内傷によっておこる積熱が癪や痞としてある場合は必ず症状として現れ、血や気にある場合も必ず上下の九竅が熱するとか臓腑や三焦が熱するといった明らかな徴候が現れる『景岳全書』

『柳谷一本鍼』によると耳鳴りなど耳の疾患には翳風、耳中痛は完骨を使うとあり臨床でも効果を感じるほど。ただし加齢や虚労で腎の影響が多分に考えられるので本治法を的確に行う(ただし腎虚の回復は簡単ではない印象。症状が九竅まで至るのだから当然といえば当然か。この辺り患者に説明しておかないと断念される恐れが多い。場合によっては他の症状を回復させ信用を得ておく必要がある。)

加齢や慢性症状では付随的に耳鳴りが散発する場合がある。そのため問診としても重要なヒントになりえる。

『啓迪集』に「腎虚して陰火上炎し、耳痒、耳鳴」とあり、基本的には腎虚を疑うもの。

『諸病源候論』「腎は足の少陰の経となす、而して精を蔵し、気、耳に通ず、耳は宗脈の聚まる所なり、もし精気調和すれば則ち腎臓強盛、耳に五音を聞く、もし労して気血を傷り、兼ねて風邪を受ければ腎臓を損じて精脱す、精脱する者は則ち耳聾す」とある。

胃熱であれ腎虚の虚熱であれ、熱は人体の上部に症状をきたしやすい。九竅のなかでも耳は熱にやられやすく、その代表的な症状が耳鳴りであろう。その点、熱を逃がす工夫、熱を作らない工夫が必要になるので耳鳴りを治すのではなく、耳鳴りになる状態を治すという意識で臨むべきである。

まためまいなど随伴症状を確認し肝経(胆経)との兼ね合いを予想しておくことも大切になる。

小児における中耳炎は間違いなく脾経が関与しているので、両親へ食生活まで言及して指導する。(当然、糖質過多を避け空腹時を保つ等)

若年層であればあるほど、また発症後の施術が早ければ早いほど耳のトラブルは解決しやすい。ただ鍼灸院を頼る場合は病院であきらめた人や高齢者が症状を長年放置した場合が往々にして多い。そのため回復する期間や変化を共有しないと断念されるケースもある。初診の段階で他の症状や病因的な説明を明確にして理解を得ること、またマイルストーンの設定を的確にし、着実に達成して信用を得ることなど、ちょっとした手間を惜しまないようにすることも必要である。

ちなみに耳鼻科でも耳鳴りは難症に属すものが多く、軽減、回復すると信用を得て医院からの紹介が増えた過去がある。病名ではなく東洋医学的な病因という原理的なものまで含めて対処し、難症は難症として尽力する旨のコミュニケーションは必須であろう。(昨今のHPの宣伝に治ることの一覧として提示するのはどうかと思う点でもある。だいたい鍼灸院は無理難題の症状を任されることが多いのだから来院前に期待を高めすぎないよう鍼灸師も患者も冷静に症状に向かい合うべきだと思う)



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