営業のプロが見せた、商談開始35秒。
X(旧Twitter)をしていると、日本国内のトップセールスの発信を見ることができる。地方にいる私にとって、こういった発信を見ることが非常に有意義であり、良い事例があったらすぐ地方の事業者に落とし込みたいと考えている。
先日営業支援をしているセレブリックス今井さんが、とても参考になる動画を投稿していた。
この今井さんの動画は、
「初対面の方との初回商談」の、
とても美しいお手本だと思う。
商談というものは「プレゼンの時間」だけを指すのではなく、
その前後のコミュニケーションを含めて完成させる「芸術作品」だということがよく分かる。
営業マンの目的は「成約すること」。
「マナーとして正しいか」でこの動画を見るのはズレている。
「商談として美しいか」で分析するほうが良い。
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私はコカ・コーラボトラーズジャパン株式会社という清涼飲料の営業会社で、10年、法人営業のマネージャーを勤めた。
大手小売(スーパーやコンビニ)が顧客であり、競合企業(サントリー・アサヒ・キリンビバ・伊藤園)から売場を奪取する、陣地取りの戦争みたいなBtoB営業だ。
差別化した新商品で商談したい。
でも、数え切れないほど新商品が毎月出るような業界。
「差別化した商品」などほとんどないのが実情であり、そこは営業マンの「商談スキル」で差別化するしかない。
花形の部署に異動した際、トップセールスの先輩から「これだけ何度も読んでおけ」と手渡されたのがD・カーネギーの「人を動かす」だ。
この書籍を1テーマずつ徹底した結果、競合からの売場奪取事例で営業MVPをいただくことができた。
後輩にも勧め、彼もこの書籍を愚直に実践して社内表彰を獲得した。
今井さんの所作ひとつひとつが、「人を動かす」ための原理原則とリンクしている。
初対面から、たった35秒。
「人を動かす」ための職人技が詰まった35秒だ。
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【1】演出を考える
「人を動かす」の【人を説得する原則】に、こんな教えがある。
営業マンの商談に置き換える。
「派手な演出」が必要なのではない。
「気持ち良く商談を受けていただく」ための演出が必要だ。
美しい商談は、受け手にストレスがない。
流れるように成約に導かれる。
顧客は、気持ち良く契約してしまう。
・名刺を出すのに、まごつく
・資料をカバンから出すのに、まごつく
・パソコンを起動するために、まごつく
営業マンの動作が「まごついている」と、受け手はストレスを受ける。
「スムーズじゃない」ことは絶対に避けるべきものだ。
ここで、今井さんの名刺交換の動画に戻る。
冒頭の名刺交換のシーンに注目。
あらかじめ、名刺を出しやすいように人数分挟んでいる。
名刺を名刺ケースから出す際の動作が非常にスムーズだ。
今井さんのXの投稿にも記載されていたが、「まごつく」ポイントを極限までそぎ落とし、スムーズで美しい商談を目指しているように思う。
「相手を気持ち良くする」ための細かい演出は参考にすべきだ。
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【2】名前を尊重する
「人を動かす」の教えには「名前」に関するものもある。
「人の名前を大切にする」
この一見当たり前のテーマに、カーネギー先生は10ページ弱の説明と、いくつもの具体的な事例を交えて説明している。
今井さんの動画を見てほしい。
お相手 「石田と申します」
今井さん 「石田さま!よろしくお願いします」
相手の名前をハッキリと復唱する。
これは意外とできない。
とても細かい。とても大切だ。
初回商談は相手も少なからず緊張している。
心理的安全生は高くない。
自分の名前をしっかりと復唱してくれるとそれだけで安心感がある。
名前を覚える、だけでなく「声に出してあげる」。
これも、相手を気持ち良くするための小さな工夫だ。
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【3】重要感を持たせる
名刺交換を終え、着席。
会話を始める冒頭。
営業マンは「アイスブレイク」を意識する。
「天気の話」「昨日のプロ野球の話」、
他の営業マンと差別化するアイスブレイクはできないだろうか。
さて、今井さんはどんな口火の切り方をするのだろう。
「お会いできることを楽しみにしておりました」
「あなたと会話ができて、私は本当に嬉しい」
という気持ちをしっかりと言葉にしている。
「商談」を単なる「こちらが商品を説明する時間」から、「お互いに価値のあるディスカッションの時間」に昇華させる、魔法の一言だ。
「人を動かす」にはこういう教えがある。
営業マンの中には、相手が決裁者(キーマン)ではないと分かるや否や、
「決裁者の方にお会いできると思っていましたが・・」
「次回は是非決裁者にお会いさせてください!」
などと「相手の重要感を損ねる」発言をしてしまう人もいる。
(冗談みたいな話だが実際にある。)
今井さんのようにキリッとは難しいかもしれない。
でも「あなたに会えて私はとても嬉しい」は必ず伝えるべきだ。
***
最後に
3つとも「当たり前の事」のように感じる。
でも実際に自分(や部下)の商談を録画して見直して欲しい。
3つとも完璧にできている、という人は少ないはずだ。
「うちは商品で差別化できていない」
営業として、そう嘆きたくなる気持ちも分かる。
商品で差別化できないのであれば、
今井さんのように商談で差別化してはどうだろう。
原理原則を重んじる。
ひとつひとつ実践する。
そういった積み重ねが営業マンとしての「差別化」に繋がる。
私達も日々、「人を動かす」を読みながら精進しています。
営業というフィールドに身を置く人間同士、頑張っていきましょう。
少しでもお役に立てば幸いです。
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