MOATと競合優位性は区別して使う
こんにちは。
今日は、事業を作る際の自社理解に焦点を当てて書いていこうと思います。執筆テーマにも通じますが、それよりももっと領域横断的な話です。
MOATってなに
突然ですがMOATって知っていますか?3年くらい前から出てきた事業戦略周りの用語で、「濠」という意味です。
これは、自分の城=事業をお濠で守るという概念です。「守る」という点にフォーカスを当てたもので、競争相手がまだ入ってこないという前提に立っています。米国では "Defensibility" と言ったりもします。
ピーター・ティール(ペイパルマフィアのボス)は、企業が長期的な競争優位を確立し維持するための重要な指標として、MOATを4要素に分解しています。この要素は、企業が市場で独自の地位を築き、競争から一歩抜きん出るために必要とされます。それぞれの要素は、以下の通りです。
Ⅰ 先行優位期間のある独占的技術
企業が成功するためには、競合他社と比較して10倍優れた製品やサービスを提供する必要があります。これは単なる改善ではなく、根本的な革新を意味し、市場での明確な差別化を生み出します。このような技術的優位性は、競合他社が簡単に模倣できない独自の価値を提供し、企業を市場で際立たせます。
Ⅱ ネットワーク効果
これは、製品やサービスのユーザーが増えるほど、その価値が増大し、さらに多くのユーザーを引きつけるという現象です。この効果は、特にソーシャルメディア、オンラインプラットフォーム、マーケットプレイスなどで顕著です。強力なネットワーク効果を持つ企業は、新規競合が市場に参入するのを困難にし、既存のユーザーベースを活用してさらに成長することができます。
Microsoftなんかがいい例です。彼らはOSによって世界的な企業になったと思っている人もいると思いますが、最たるものはMicrosoft Officeです。ビジネスシーンのベースに入り込んだMicrosoft Officeは、例えばPowerPointがないと他社とスムーズにやり取りできるプレゼン資料が作れないという状況を生み出すことに成功しました。Macで使えるKeynoteは後から出てきましたが、PowerPointからKeynoteに変換する際、Microsoftは互換性がない状態を意図的に混ぜて、Keynoteにユーザーが流れないようにコントロールしていたりもします。そのくらいネットワーク効果は事前に作っておくと強力な盾になり得ます。
Ⅲ 規模の経済
よく聞く話で、生産量を拡大するにつれて単位あたりのコストが下がることです。規模の経済を利用できる企業は、価格競争において優位に立つことができ、市場での支配的な地位を確立することが可能です。
Ⅳ ブランド力
消費者が製品やサービスに対して高い信頼と忠誠心を持つ場合、それは企業にとって大きな競争優位となります。強力なブランドは顧客の獲得と維持を容易にし、時には高い価格設定を可能にすることもあります。
この4要素は相互に関連していて、一つの要素が他の要素を強化することもあります。例えば、独占的技術はブランド価値を高め、規模の経済が成り立つとネットワーク効果を増幅させることができます。ピーター・ティールの哲学では、これらの要素を組み合わせることによって、企業は競争から際立ち、サステナブルな優位性を確保することができると考えられています。
競合優位性ってなに
MOATが競争相手が入ってくる前の前提に立っているのに対し、競合優位性とは、競合が入ってきた後の戦い方にフォーカスしています。
この領域は、大学の経営学でも学ぶ内容なので、理解されている人も多いと思いますが、MOATとの区別を理解するというのが今回のテーマなので、あえて丁寧に記載します。フレームワークとして代表的なものは以下の通りです。イメージを持ってもらうために、それぞれについて、みんな大好きApple Inc. の例に当てはめてみた場合の分析内容も添えてみます。
■SWOT分析:
S(Strengths):強み - 企業が他社より優れている点。
W(Weaknesses):弱み - 企業が他社に劣っている点。
O(Opportunities):機会 - 市場環境が企業に提供する機会。
T(Threats):脅威 - 市場環境が企業に与えるリスクや挑戦。 SWOT分析を通じて、企業は内部の強みと弱み、外部の機会と脅威を評価し、戦略を立案します。
■ポーターの5フォース分析:
業界の構造と企業が直面する競争環境を理解し、戦略を策定するためのフレームワークです。
競争業者間の競争の激しさ
新規参入者の脅威
代替品やサービスの脅威
供給者の交渉力
顧客の交渉力
■バリューチェーン分析
企業が価値をどのように作り出し、その過程で競合優位性をどのように得るかを分析するためのフレームワークです。主要活動(製造、マーケティング、販売等)と支援活動(人事、技術開発等)に分けて、各活動がどのように価値を提供し、コストを削減するかを分析します。
■PESTEL分析
このフレームワークは、外部環境を政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)、環境(Environmental)、法律(Legal)の6つの要因で分析します。これにより、各要因が企業の戦略や業績にどのように影響するかを理解できます。
以上です。
MOATの分析と、競争優位性の分析におけるフレームワークには少しかぶりはあるものの、基本的には、競争相手が入ってくる前に守りを固めるために使うフレームワークとしてのMOATと、競争環境内における勝ち筋の見つけ方にフォーカスする競合優位性のフレームワークとで、分けて考えると整理がしやすいかもしれません。
ご参照くださいませ。