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佐賀県の日本酒、「鍋島」−お酒は旅する気分で

 甘みの強さ、お米の香り、ほどよい酸味、ほんのりと苦い余韻。言葉で書けば、要素を列記することになってしまうが、すべての要素の強弱と、そのまとまりが1つの味わいを作っている。これ以上お米からくる要素を強く感じてしまえば、「甘すぎる」「米の匂いが強すぎる」となってしまうかも知れない。絶妙なバランスを持った味わい。「鍋島」。インターナショナル・ワイン・チャレンジでも数々の賞を獲得しているお酒だけに、ご存じの方も多いだろう。今回飲んだのは「山田錦 純米吟醸 生酒」。僕はこのお酒が好きで、毎年この季節になると購入して飲んでいる。

 鍋島を作るのは佐賀県鹿島市にある富久千代酒造。一度は作り手を訪ねて話を聞いてみたいと日々お酒を飲むときには思うのだが、なかなか現実にはできない。せめて、ということで、酒造のある地域をグーグルマップで眺めたり、酒造やまちのホームページを閲覧したりして、お酒の周辺に広がるイメージをふくらませるようにしている。

 地図で見ると鹿島市は有明海に面したまちで、市の人口は3万人に満たない。富久千代酒造の住所も同市浜町というだけあって、海から遠くないところにある。最寄り駅は長崎本線肥前浜駅。肥前浜宿の名前もあって、宿場まち、港まちとして発展してきたのだろう。富久千代酒造以外にも酒蔵の名前がいくつかマップに表示される。酒造りのまちでもあるようだ。きっときれいな水に恵まれた土地なのだろう。検索してみると市と観光協会など地元の人々が「鹿島酒蔵ツーリズム」という企画を運営しているようだ。

 鍋島の名前は江戸時代の佐賀藩主・鍋島家に由来するようだが、公募で決まったそうだ。酒蔵の地元佐賀への強い思いも表れているし、地元の人々の期待も感じられる名前だと思う。商売を通して世間に貢献する精神を表す「売りて良し、買い手良し、世間良し」の三方良しなお酒に思える。

 お酒を飲むときには、まずは何の先入観もなく飲むべきだと僕は思っている。世間での評判がいくら高くても、値段がいくら高くても自分が飲んでみて「いまいち」「まずい」と思えば、その感覚を大事にするほうがいい。一方で、飲んでみて感動するほどに美味しいと思ったときには、作り手や産地、歴史といったそのお酒の周辺に広がるストーリーや知識に酔ってもいいんじゃないかと思う。僕にとって鍋島はそんなお酒の1つだ。

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