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映画『リスタート:ランウェイ〜エピソード・ゼロ』を完成して想う

2015年にバリアフリー・フィルム・パートナーズを立ち上げた。
映画の力を通じて「誰もが輝ける社会」を目指そうという非営利の任意団体。

そして、この会が製作する映画『ランウェイ』の序章として、映画『リスタート:ランウェイ〜エピソード・ゼロ』が完成し、今年(2019年)9月20日、横浜みなとみらいにある資生堂グローバルイノベーションセンターS/PARKにて、完成披露上映を開催。

本作の主演は、2018年4月に強風で倒れた看板の下敷きになり、脊髄損傷のため車椅子生活となりながらわずか4ヶ月でアイドルとして復帰し活動をつづける「仮面女子」の猪狩ともかさん。

映画の完成を記念して、9月30日〜10月6日まで、1週間の無料インターネット配信をおこなった。「序章」の位置づけとはいえ、立ち上げから4年の歳月をかけて、自分のやりたいこと、目指す理想の一部が形になったこと、それを観客の皆さんと共有できたことに、安堵とともに充実した気持ちを感じている。

正直なところ、もし売れる映画・儲かる映画を作るのなら、主演は人気のある「歩ける」役者さんにしたと思う。

でも、僕が目指す理想は、「車椅子の役者さんといえばこの人」というような定番の役者さんが生まれて、10年後、当たり前のように車椅子の役者さんが映画やTVドラマで活躍する世界。

そのためには、ただ口で言っているだけではダメで、実際にやって、作って見せる必要がある。
さらには、役者は競争なのだから「歩ける」役者さんを起用して障がいのある役を演じさせている作品に追いつき、追い越すくらい力のある内容の作品にして、多くの一般のお客さんからその役者が支持されなくてはならない。

オリンピックとパラリンピックのように分けられていない「演技」の分野で、障がいのある役者が他の役者と対等にぶつかり合って何かをお客さんに伝えている姿は、社会全体への影響力もあるし、そういう姿を子供の頃からスクリーンやTV画面で観て育ったひとには、差別や偏見のないクリアな目でひとを見ることが身につくはずだ。

車椅子の役というのは割とどんな映画でも登場しがちで、その役に歩けるときの回想シーンなどがなければ、本物の車椅子の役者さんを使うことは合理的に思える。
主演が車椅子の探偵モノとか、ヒロインが車椅子に乗った可憐な少女とか、古びた屋敷から車椅子の老人がミステリアスに現れたりとか…。
原作モノ、オリジナル問わず車椅子に乗る設定の役の可能性は考えられる。つまり映画やドラマなどで活躍できるステージはある程度あるはず。

でも、そこで通常は「歩ける」役者さんに車椅子に乗って演じてもらうことになってしまう。それはどうしてだろう?

キャスティングする立場から考えると答えは単純で、「実績のある車椅子の役者さんがいないから」。

俳優は一般のひとが考える以上に専門的な職業で、充分な訓練と現場経験がなくいきなり出演しては、まともな作品にすら見えなくなってしまう。
または、成立させるのに時間がかかり他の俳優の負担になったりスケジュールを切迫させて製作費にしわ寄せがくる。
そんなリスクを負ってまで車椅子の役者さんを起用する理由がないというのが現状。というか、そもそも誰もそんな現状に疑問すら抱いてないんじゃないかと思う。

本当の苦労を知ってるから本物の車椅子の人のほうがリアリティのある演技ができて良いのでは? という考えもあるけれど、演出する立場から言うと「リアリティ」と「リアル」は全く違って、残念ながら、経験していない事柄を想像や役作りをして演じる熟練の俳優の演技にはとてもかなわないのが現時点での実情だと思う。

最近観たところでは、山田孝之さんや松坂桃李さんが車椅子の役をテレビドラマで演じられていた。俳優には「こんな難役にも役作りをして挑戦した」というように、演じること自体がエンターテイメントとして求められる側面もある。人気があればなおさら受けるし、実際に素晴らしかった。

「車椅子に乗っている役者さんをそんな凄い俳優と比べては…」という意見もあるかもしれないけれど、僕が今回映画を通じて取組んでいる「心のバリアフリー」というテーマでは、まさにそこに焦点を当てている。
障がいのある人を変に配慮し優遇して別枠として扱う感覚に、ものすごく違和感があるから。

ここで試しに極論をしてみると「100メートル競走に出たい」という歩けない人がいたとして、別枠でパラカテゴリーを作ってあげる、というのじゃなく、10秒で走る選手達と一緒に出場させ、「あなたは10分かかりました、予選落ちです」って言うのが本当の「心のバリアフリー」だと思う。
それは演技の分野でも同じ。

映画で車椅子の役があったら歩ける役者さんも本物の車椅子ユーザーの役者さんも対等に、堂々と比べて、作品にとってより良い方を選ぶ。そういうキャスティングをするのが、お客さんに観ていただく以上は当然だし、門戸を閉ざさない「心のバリアフリー」な作品のつくりかたでもあると思う。

でも実際には前に書いた「充分な訓練と現場経験が必要」という部分で同じスタートラインにつけないのが、車椅子の役者さんにとっての課題だろう。
レッスンに通う、簡単な役に挑戦して現場に慣れる、という必要最低限の課程をクリアするのが困難で、そこに物理的配慮やサポートをする人が必要になる。

そして多分、その物理的サポートが得られても「車椅子でなんで役者なんか目指すの?」「遊びでやるんでしょ?」「周りに迷惑かけるだけだからやめたほうが…」という反応を家族や友人から浴びせられ、心のバリアが立ちはだかることが多いと思う。

そんなとき、映画『リスタート:ランウェイ〜エピソード・ゼロ』の存在を支えにしてもらえたらと思う。

本作には、想像もできないような苦難を乗り越え、差別や偏見から心無い声を浴びせかけられて傷つきながらも「やりたいこと」と真剣に向き合ってきた障がいのある人達が役者として出演し、百戦錬磨の俳優さんや朝ドラヒロインも経験した女優さんと対等に演技し、競演を果たしている。

映画『リスタート:ランウェイ〜エピソード・ゼロ』。

まだまだ目指すものの一部分しか見えてないけれど、これが僕たちに今出来る精一杯のカタチだ。



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