【ショートショート】新サブスク　ネオフェイス

朝起きて1番初めに、ネオフェイスを顔につける。
これが、習慣になってから3年くらいだろか。

顔を洗い、白いノートパソコンのような、専用ケースのスイッチを押す。
光が点滅しカチッと音がして、中から人の顔を模したマスクが現れた。

この見た目に、初めは驚いたなんて思いつつ、顔に張り付けていく。

一瞬、ひやっとした感覚が顔を覆うが、次第に体温と交わり、とろけるように皮膚に密着した。



ネオフェイスは、数年前から若い世代のを中心に愛用されている。
いわゆる「顔のサブスク」

美容の人工皮膚を、フェイスパックのように貼るだけで、理想の顔が手に入る魔法のような商品だ。

元々は、大手美容医療会社が、病気や怪我で身体の一部を無くした人のために、開発されたものだったが、医療現場で一般的なものになった今、美容商品として新たに売り出されたのが、ネオフェイスだった。

スマートフォンのアプリから、好きな肌質、色、目や鼻の形を選択して送信すれば、5日程度で理想の顔が届く。
月に3回まで注文ができるので、職場用、家族や恋人用、遊び用など、使い分けている人も少なくない。

出始めた当初は、こんなに普及するとは思わなかったネオフェイス。
蓋を開けてみれば、整形などと違って、安く痛みもなく、手軽に理想の自分が手に入るこの商品を、今では殆どの人が使っている。

それによって、顔の流行と言うのも出来た。
今は、また可愛らしい平行二重が流行り出すらしい。
つい最近まで、シャープな一重瞼が流行っていたのに、やはり流行は変わるのが目まぐるしい。

今月はもう2回注文したから、残りは二重のも試してみようと、朝食をとりつつ、スマホの画面にあるNのマークをタップしてアプリを立ち上げる。

その時、ネットニュースの通知が、私の目を奪った。

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『ネオフェイス、発癌性物質の判明！自主回収へ』

大手美容医療会社が開発した、ネオフェイスに発癌性物質が含まれていることが、本日未明に発表された。
発癌性物質は、長期間肌に付着することにより、体内に蓄積されていることがわかった。
企業は、この事について、謝罪するとともに、サブスクの即時停止、これまで販売した商品の回収を行うと述べている。
現在、ネオフェイスをお持ちの方は、使用をやめることを強くお勧めする。
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ゴトッと、手からスマホが滑り落ちた。
受け入れられない事実に、めまいがする。

停止？いまさら元の顔で外に出ろと？

元の顔？
立ち上がると、急いで洗面所に向かう。
皮膚の隙間に指を入れ、恐る恐るネオフェイスを剥がす。

そこには、数年前に塗りつぶしたはずの、現実があった。
大嫌いな顔。
それだけじゃない、ネオフェイスで隠れるからと、ケアを怠った肌は、悲惨な状態だった。

理想が日常となっていた今、現実の顔は以前よりも、酷く醜く見えた。


違う！こんなの私じゃない！
こんなの！！！

剥がした理想の顔を手に取り握りしめる。

これが私の顔なの！
これが本当の私なのに！！

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大手美容医療会社では、今回の騒動を受け役員たちが顔を揃えていた。

いや、一時はどうなるかと肝を冷やしましたよ
医療用には問題がなくてよかった。

結果的には、整形外科、皮膚科、スキンケア商品に至るまで、全盛期を大きく上回る売り上げで

どんなに美人だろうと、必ずコンプレックスはあります。

理想と現実は違いますから。

人間、一度手に入れた理想は手放せないですからね。

そうして役員たちは、大きく口を開け、
満足そうに笑った。

※こちらは、monogatary.comのお題「こんなサブスク始めました」へ投稿した作品です。