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117F52 医師国家試験 解説【産婦人科当直対応:胎動減少】
28歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠35週3日、胎動減少を主訴に受診した。妊娠初期から妊婦健康診査を受けていた。妊娠34週1日の妊婦健康診査において、推定胎児体重が1,700g(-1.9SD)の胎児発育不全を指摘されている。今朝から胎動の減少を自覚し心配になり受診した。性器出血や下腹部痛の自覚はない。身長 162 cm、体重 54 kg(非妊時48kg)。体温 36.8 ℃。脈拍 72/分、整。血圧 136/65 mmHg。腹部は妊娠子宮で膨隆し、柔らかく圧痛は認めない。来院時の胎児心拍数陣痛図で基線は正常脈、基線細変動は中等度で、40分間以上の計測において一過性頻脈および徐脈を認めない。妊娠初期検査:血液型O型RhD(+)、間接Coombs試験陰性。
この胎児の健常性を評価するために行う超音波検査項目として適切なのはどれか。3つ選べ。
a 胎盤の厚さ
b 推定胎児体重
c 羊水ポケット
d 胎児呼吸様運動
e 子宮動脈血流速度波形
臨床問題のを解く場合には
S (Subjective data)とO (Objective data)はリスト化するとわかりやすいです。
<ぬきだし>
初妊婦、妊娠35週3日、胎動減少
妊娠34週1日の妊婦健診において-1.9SDの胎児発育不全
性器出血や下腹部痛の自覚はない
体温 36.8 ℃。脈拍 72/分
血圧 136/65 mmHg
腹部:柔らかく圧痛なし
胎児心拍数陣痛図で基線は正常脈、基線細変動は中等度で、40分間以上の計測において一過性頻脈および徐脈を認めない。
妊娠初期検査:血液型O型RhD(+)、間接Coombs試験陰性。
異常所見のみを残してみますと
・胎動減少
・-1.9SDの胎児発育不全
・一過性頻脈を認めない。
だけになります。
つまり「妊娠35週のFGRの方で、胎動減少があって、モニターとったんですけどアクセがありません。」と、産婦人科当直中「あるある」で、この場合どう対応するか?という問題です。
注1:モニター=CTGモニターのこと
注2:アクセ=acceleration(一過性頻脈)のこと
実際の対応をシミュレーションすると、
当直「FGRってどれくらい?」
助産師「1700gで、-1.9SDです。」
当直「モニターどれくらいとった?」
助産師「40分くらいです。」
当直「じゃ、エコーしようか。」
となります。
40分というのも意味があり、妊娠後期の胎児は20~30分毎に寝たり起きたりしているといわれており、40分以上観察するとおおよそ元気な胎児は一過性頻脈がみられます。
余談ですが、実際には「-1.9SD」の部分を言ってくれる助産師さんは少ないです。
SDは「Standard Division(標準偏差)」という意味で、
正規分布すると考えられる分散値が平均値からどの程度離れているか?を表す数字です。
数字が大きい方が、標準と比較して大きく、
数字が小さい方が、標準と比較して小さい、ということです。
推定胎児体重で言うと-1.5SD以下を胎児発育不全(FGR)と呼びます。
これは100人の新生児を並べたときに、小さいランキング7位以内に入る大きさです。
さらに、-2.0 未満になるとSD Severe FGRと呼ばれ、小さいランキング3位以内です。
severe FGRと診断された場合、入院となることが多いです。
「35週で、1700gです。」と聞いてもベテラン産婦人科医でも、「あー、じゃあ-1.9SDでギリ大丈夫か」とはなりません。
標準体重より明らかに小さいことはわかりますが、どれくらい小さいかどうかは標準偏差を確認します。
胎動減少は胎児機能不全が疑われる状態、つまり赤ちゃんの元気がないかもしれない状態です。
胎児機能不全が疑われると、一番心配しないといけないことは、その後に胎児死亡となることです。
突然怖い言葉が出てきましたね。
そこで、まずは本当に元気がないのかどうかを推し量る意味で、検査を行っていきます。
では、なぜ「じゃエコーしようか」なのか?
胎児機能の検査は胎児心拍数陣痛図(CTG)とバイオロジカルプロファイルスコアだからです。
この問題の選択肢に「血清サイトメガロウイルス抗体」とか「胎児採血」が含まれていると、選択したくなることもあると思います。
「子宮動脈血流速度波形」も妊娠高血圧症候群などで子宮血流の低下を示す所見であり、なんでFGRや胎動減少となったのか?ということを推測検査ですが、これらは先送りになります。
ほとんどの場合なぜそうなったのか?ということは不明ですし、原因が分かったところでどうしようもありません。
唯一、見逃してはいけない原因となる病態は、常位胎盤早期剥離による胎児機能不全です。
ですので、今回も含めたこの手の問題では「出血がない」「腹部は軟」という文言が入っています。
ちなみに、エコーでの常位胎盤早期剥離の検出感度はかなり低いので、「常位胎盤早期剥離を見つけるためにエコーをする!」ということは正しくありません。
一応、胎盤の厚みを見たりしますが、30%程度の症例でしかエコー上の胎盤肥厚や胎盤後血腫は認めません。
というところが「a.」や「e.」が間違いである理由です。
医学生のうちは、BPSを行い、その項目は「羊水量」「筋緊張」「胎動」「呼吸様運動」「一過性頻脈」であるということが分かっていればOKです。BPSは週数と点数でその後の対応がある程度決まっています。
経過観察するのか、24時間以内に再検するのか、妊娠帰結するのか、の3択です。
今回の胎児は35週ですので、6点以下で1週間以内の胎児死亡の確率は5%以上、4点以下で10%以上です。
羊水量減少を伴う6点未満は分娩です。
細かく方針が決まっていますが、専門医試験クラスになるので割愛します。
本当はこれに胎児血流が加わります。
代表的なものは「中大脳動脈と臍帯動脈の臍帯動脈の血流の抵抗の比」と「静脈管血流波形」です。
血管抵抗は「血圧」だと思ってください。
中大脳動脈血流の抵抗は脳の血圧です。
臍帯動脈の抵抗は胎児の中で心臓から最も遠い血管の血圧、体の血圧です。
胎児が低酸素や循環不全に陥ると、脳を保護するために脳の血管を拡張させて、代わりに全身の血管を収縮させて、脳の循環血漿量を保ちます。
このため抵抗比は上昇します。
中大脳動脈血流抵抗/臍帯動脈血流抵抗>1.0 になります。
これを「血流の再分配」といいます。
血流の再分配が起こると、胎児死亡率が上昇するといわれております。
以前は、中大脳動脈血流抵抗/臍帯動脈血流抵抗>1.0は妊娠帰結の一つの目安でした。
最近は、この変化の後に起こる右心不全を妊娠帰結の指標にします。
臍帯静脈を通って胎児に戻ってきた胎児の血液は静脈管と肝静脈を通じて胎児の右心系に戻っていきます。
循環不全を起こした胎児は左心不全と末梢循環不全のため、拡張期の血管抵抗が低下して、臍帯動脈の血流が逆流します。
その後、徐々に右心不全の病態を呈し、右房の内圧の上昇を反映して静脈管の血流が逆流するという現象が起きます。
この「静脈管の血流の逆流」は胎児機能不全の末期に現れ、妊娠帰結しなければならない理由の一つになります。
以上、胎動減少、「赤ちゃん元気ないかも?」の検査としては、
胎児心拍陣痛図を含めたバイオロジカルプロファイルを計測し、方針を決定します。
原因としては、常位胎盤早期剥離を見逃してはいけません。
妊娠高血圧症候群が根底にあることが多いですが、原因不明、母児間輸血、感染症、などが原因であることがあります。
原因が何であれ、常位胎盤早期剥離でなければ、まずは胎児機能を評価して、胎児機能不全があれば妊娠帰結します。
産科医の主な仕事はこれですね。