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【カンヌ名作CM集】食品・飲料業界 前編10選
名作CM収集は、アイデアのヒント収集
過去の名作CMには、現在でも通用する「視点の発見」があります。このnoteでは、そんな名作CMから「視点」を抽出して紹介しています。前回記事では、「自動車業界」の視点を紹介しました。
今回紹介するのは、「食品業界」の名作CMです。前編は1990年-2009年から10作。後編は2010年代を予定しています。あらゆるアイデアのヒントとして、名作CMが発見した「視点」をみていきましょう。
構成は以下↓
食品業界の前編(2010年代を後編として公開予定)
前編では1990-2009年までのカンヌ広告祭銅賞以上から10作品厳選
「背景」「CM映像」「CM文字起こし」「視点の言語化」で構成
1. Bob's Big Boy - FRANK'S RETURN(1990 GOLD)
〈食べ放題のレストラン、Bob's Big Boy〉
日本でも、ビッグボーイの名前で親しまれているBob's Big Boy。群雄割拠のレストランチェーンの中でも、長く愛されているこのレストランですが、その一つの特徴が「食べ放題」であるということ。他のレストランを出し抜くためには、その「食べ放題」という特徴を際立たせる必要がありました。
動画リンクはこちら(Youtube上に動画がないため)
雷鳴が轟き、嵐が吹きすさぶ夜。
丸テーブルを囲み、一家が夕食を食べている。
そこに、怪しげな男が1人現れる。
男:「ただいま!」
妻:「フランク!」
息子:「お父さん?」
男の正体を知っているような妻と息子に対し、夫だけがその男の正体をわからずにいる。
妻:「もう帰ってこないと思ってたわ。再婚もした。」
フランクは元夫であった。
フランク:「Bob's Big Boy に行ってくると言ったろ」
妻:「それは15年も前のことよ」
フランク:「食べ放題だからさ」
男は15年もの間、食べ放題のBob's Big Boy にいたのだった。
S: ALL-YOU-CAN-EATShrimp&Seafood Bar $899THURSDAY FRIDAY SATURDAY
【視点】極端に長くする
「時間無制限、食べ放題」という利点を最大限際立たせるために「食べ放題で15年帰ってこなかった夫」をホラー仕立てで描く、という表現をしました。一般的に食べ放題の滞在時間は長くても3〜4時間ほど(個人差あり)。
それを「15年」にすることで「時間無制限」というお店の特徴が際立っています。
2. JOHN WEST SALMON - BEAR(2001 GOLD)
〈高い品質を誇る、老舗サーモンブランド〉
海産物を取り扱うイギリスの老舗企業、JOHN WEST FOODS。その目玉商品の一つがサーモンの缶詰。高い品質を誇るその缶詰を、説明的にならずに「直感的に」表現するために、この企業はユニークな手法を取りました。
湖のほとり。
数頭の熊が、鮭を獲っている。
N: 「熊は本当に美味しい鮭しか獲らない。」
「そしてそれはまさに、我々ジョン・ウエスト社が求めるものだ」
突然、雄叫びをあげて漁師が熊のもとへ走ってくる。
熊が捕まえた鮭を横取りするべく、力ずくで鮭を奪おうとする漁師。
それに対し熊は、まるで人間かのように軽やかなステップを踏み、
漁師を圧倒する。
漁師:「ワシがいる!」
熊がその一言に気を取られると、形成は一気に逆転。
漁師は熊から美味しい鮭を奪うことに成功する。
N: John West endure the worst to bring you the best.
【視点】最も説得力のある存在を活用する
「サーモン」といえば、「熊」。多くの人が、川でサーモンを獲る熊の映像を見たことがあるはず。そして、その熊が獲るサーモンは、美味しいに違いない。多くの人が無意識にそう感じることでしょう。
John West は、アイコニックな存在である「熊」を登場させ、ユーモラスに、かつ直感的に品質の高さを表現することに成功しました。
(同視点事例)HEINZ-DOGGY(2005 BRONZE)
〈食卓の定番・ハインツのケチャップ〉
世界一のシェアを誇るハインツのケチャップ。家庭でもお店でも定番として使われており、熱狂的なファンも多く存在しています。ハインツのブランドとしての説明からは少しずれますが、ハインツのケチャップのCMや施策にはカンヌ広告賞を受賞した優れたアイデアが多く、このCM作品以外からもユニークな視点が学び取れます。
男の子がテーブルにつき、食事をしている。
椅子の下から、犬の鳴き声が聞こえてくる。
どうやら、男の子のご飯を貰いたい様子。
男の子が肉を手に取り、犬に食べさせる。
しかし、犬は不満げな鳴き声をあげる。
その反応を見た男の子。
テーブルに置いてあるハインツのケチャップをかけてあげる。
すると、犬は鳴き止み、お肉を食べ始める。
S:YOU CAN’T WITHOUT IT.
【視点】最も説得力のある存在を活用する
「選り好みしない」象徴である犬ですら、もはやハインツを選り好みする。そんなシーンを描くことで「YOU CAN'T WITHOUT IT」(なくてはならない)という定番の価値を端的に伝えています。味にこだわりがないという象徴性を持ちながら、それでいて食卓に近い存在である犬に着目した、非常に巧みなCMとなっています。
3. CALIFORNIA MILK BOARD - BIRTHDAY(2003 GOLD)
〈アメリカの牛乳ポジティブキャンペーン got milk?〉
got milk?は、ミルクの消費量をあげるよう1993年にカリフォルニアミルク製造者委員会が制作した、アメリカのキャンペーン広告です。1990年代、アメリカでは牛乳に対するネガティブな風評がひろがり、消費量が激減しました。もっと消費者に「牛乳を飲む」という行動に当事者意識を持ってもらうために、牛乳を主役ではなく脇役として「牛乳を飲む」という行動に当事者意識を持てるCMを制作しました。
不穏なBGM〜♪
パーティー会場へと向かう車。車内には、お父さんと子どもが1人。子どもは不思議な雰囲気をまとい、只者ではない空気。
「stop」。ボソッと少年がつぶやく。
その言葉を聞き父親が車を止める。前から犬が飛び出してくる。
「wait」。また少年がつぶやく。
再び止まる父親。目の前に大木が倒れてくる。
少年は預言者の様に、身に降りかかる危険を予言する。
パーティ会場。ケーキを食べようとした子供を見て、
「ケーキを食べるな(Don’t eat the cake)」
と呟く。だが、それを聞き入れるものはいない。
会場の人たちがケーキを食べている、その時。
女が叫びながら、部屋に入ってくる。手を止める一同。
女が手に持った牛乳パックをふる。
牛乳が、切れていたのだった。
Na+S:got milk?
【視点】あるあるを活用して不在時の不便を説明する
「牛乳がない」ことは、日常でもよく起こること。このCMでは、そのいわば「あるある」的なシーンを切り出してホラー調で描きました。
「危険を予言する子ども」を描き、ミスリードを起こさせながら「牛乳がない」という結末で落とすことで、「牛乳」の存在を強く認識させました。時に、商品の不在を描くことでかえってその大切さを際立たせました。
4. BURGER KING - SITH SENSE(2006 GOLD)
〈ダースベイダーとバーガーキングのコラボ〉
言わずもがな世界的に有名なハンバーガーチェーンのバーガーキングが、2005年公開のスターウォーズ シスの復讐に合わせて行ったコラボキャンペーンです。バーガーキングはこのキャンペーンで「The Sith Sense」というバイラルサイトを立ち上げ、ユーザーが思い浮かべたことをダースベイダーがフォースの力(20個の質問)で当てるという今で言うアーキネーターのようなゲームも公開しています。
~♪(STARWARSのあの曲)
ダースベイダーが、アジトへと帰ってくる。
すると、そこには。バーガーキングの、キングが。
ダースベイダー:コー、コー(呼吸音)
見つめ合う2人。
ダースベイダー:コー、コー
ダースベイダー:コー、コー
ダースベイダー:コー、コー
2人の間に、絶妙に気まずい空気が流れ続けている。
STARWARS 映画番宣
バーガーキング
【視点】禁断の組み合わせを作る
ダースベイダーとバーガーキングのキング。およそ想像のつかない、この2人の組み合わせ。スターウォーズの作り込まれた世界観に、それをぶち壊すバーガーキングのキング。その異質さと、CMに漂う絶妙な気まずさ。あってはならない組み合わせを作ることで、非常にシュールな世界観のCMとなっています。
5. DORITOS - CRASH THE SUPER BOWL(2007 GOLD)
〈CRASH THE SUPER BOWLコンテスト〉
ドリトスは、1966年にアメリカで発売された世界55ヶ国以上で販売されている大人気トルティーヤチップス。spice、cheeseなど味が多様なだけでなく、crunchやboldといったタイプも多く存在しています。このCMは『CRASH THE SUPER BOWLコンテスト』という広告コンテストを開き、そのドリトスの特徴をもとにユーザーが制作したCMを実際に流したものになります。
動画リンクはこちら(Youtube上に動画がないため)
ドリトスを片手に、車を運転する男。
歩道を歩く女性を目にする。
女性が手に持つのは、ドリトス。
振り向きざまに、運転手に微笑む。
そこにスーパー: Spicy
切り替わって、運転手。
微笑む女性に見惚れ、ぎこちない笑顔。
そこにスーパー: Cheesy
女性に見惚れ、前の車にぶつかりかけ、急ブレーキ。
勢い余って、ハンドルに激突。
袋の中のドリトスが砕け散る。
そこにスーパー: Crunchy
ハンドルに激突した運転手を見て、すかさず駆けつける女。
車道に飛び出ることも、ものともしない。
そこにスーパー: Bold
ドリトス片手に、運転席に向かう女。
そこにスーパー: Smooth?
運転席に辿り着く直前、地面に転ぶ女。
ドリトスが豪快に宙を舞う。
転んだ女と、運転手の男。2人は笑いながら見つめ合う。
S: live the flavor.
【視点】商品のイメージをシーンに落とし込む
ユーザーにCMを制作してもらうという時点でまず一つ企画の視点が含まれていますが、CMの内容にも「種類を擬人化する」という視点があります。
「live the flavor (味は、生きている)」というコピーのもと、ドリトスの味や種類を生きている人間の生活に転写し日常に溶け込ませることで、ドリトスの知名度や人気を表現したユニークなCMになっています。
6. HALLS - VAPOURS(2006 BRONZE)
〈爽快感抜群ののど飴 HALLS〉
HALLSは、食べて深呼吸をするとのどから鼻までメントールのクーリングが広がり、気分がスッキリするという爽快感が売りの商品です。しかし、爽快感は映像ではなかなか伝わらないもの。感覚的なものを、視覚的に表現する必要がありました。
動画リンクはこちら
リビングのテーブル。
テーブルに突っ伏して、深く息を吸って、吐いて、を繰り返している。明らかに不穏な様子の男。
男が顔をあげると、そこにはホールズ。
男はホールズの匂いを嗅いでいたのだった。
S: HALLS BALSAMIC ACTION
【視点】商品の特徴で予想を裏切る
HALLSが用いた方法は、「タオルをかぶって何かを吸う男」を描くことでした。しきりに何かを吸っている男を描き、「怪しいものを吸ってるのでは?」とミスリードを誘いながら、男が吸っていたのはHALLSだった。そんなオチにすることでHALLSの印象を強めながらも、その「吸いたくなるほどの爽快感」も表現することに成功しています。
7. PEPSI-VENDING MACHINE (2001 BRONZE)
〈ペプシコーラとコカコーラ〉
世界におけるコーラブランドといえば、コカコーラとペプシ。国によってペプシが優勢だったり、コカコーラが優勢だったり…シェアを二分する形で争う状況が続いています。時代によっても優勢・劣勢が変化する、いわば宿命のライバル状態。知名度も高く、1度も飲んだことがないという人は多くない中で、ペプシを印象付けるCMが求められていました。
少年が、飲み物を買いに自動販売機にやってくる。
お金を入れてコカコーラを買い、それを地面に置く。
もう一度コカコーラを買い、地面に置く。
少年はなぜか、自販機の前にコカコーラの缶を2本並べる。
すると、少年はその2本のコーラを踏み台に、高い場所にあるペプシのボタンを押す。
少年がコーラを2本買ったのは、高い場所にあるペプシを買うためであった。
ペプシを手に取り、家へと戻る少年。自販機の前には2本のコーラの缶が取り残される。
PEPSI ロゴマーク
【視点】(王者である)ライバルを煽る
低いところにボタンのあるコカコーラ2本を踏み台にして、高いところにボタンのあるペプシを1本買う、コカコーラを煽る衝撃的なCM。「宿命の対決」を可視化することでユーザーの興味を引く、ユニークな表現になっています。
業界1位のコカコーラと、業界2位のペプシ。王者への下剋上とも言える、「(王者である)ライバルを煽る」という視点は、マクドナルドを煽るバーガーキングのように、王者とそのあとを追う2位という構図の業界で活用できる視点になっています。
8. MILK PEP-PANTS(2002 SILVER)
〈牛乳の消費量を増やすために〉
MILK PEPはアメリカでのミルクの消費を促すために活動する団体です。
ミルク産業は困難に直面しており、牛乳の売上の減少も著しいものでした。経済の不安定、人口トレンドや飲料間の激しい競争など市場動向はなかなか厳しく、現状を打開するためMILK PEPは現代の消費者に共感が得られる牛乳独自の栄養価ストーリーの宣伝を強化しようとCMを作成しました。
動画リンクはこちら(Youtube上に動画がないため)
ロッカールーム。バスケ選手が、準備をしている。
裾が残ったズボンを履こうとしている。
スルスルとズボンを上げていくが、ズボンの裾はまだまだ残っている。ずーっとズボンをあげているが、それでも裾は残ったまま。
S:成長したい?(Want to grow?)
やっとズボンを履き終えた選手。試合へと向かっていく。
S:the calcium in milk helps.
S:got milk?
【視点】効果を極端に可視化する
牛乳を飲んで背を伸ばしたバスケットボール選手の様子を「ズボンがなかなか履ききれない」というシーンで表現しています。牛乳を飲んだら背が伸びるという世界共通認識のイメージを誇張して、「牛乳をたくさん飲もう」というメッセージを伝えたユニークなCMになっています。
9. MCDONALD’S-ZOO (2002 BRONZE)
〈「子どもの楽園」マクドナルド〉
世界的に人気を誇るファストフード店・マクドナルド。すでに世界のハンバーガーショップの中でも圧倒的な知名度を誇り、もはやマクドナルドのハンバーガーを食べたことのない人はいないというほどです。特に子どもからの支持は厚く、キッズメニューが充実していたり、ハッピーセットでおもちゃがもらえたり、子どもにとってはただの食事の場を飛び越えて、「楽園」のようになっています。
身支度をする男の子。お母さんが準備を手伝ってあげている。
男の子:「お父さんは動物園に連れて行ってくれるんだ」
母:「2時までに帰って来なさい。マクドナルドに連れて行ってあげるから」
男の子は、その言葉を聞き、声をあげて喜ぶ。
お父さんが、家の前に車を止め、男の子を車に乗せる。
そんなお父さんに、お母さんは「2時には子どもを戻してよ」と念を押す。
父:「2時になにかあるの?」
男の子:「2時に帰ったらお母さんは動物園に連れて行ってくれるんだ」
何かを思いついた様子で、ニヤリと笑う父親。
父:「それじゃ、マクドナルドに行こう!」
その言葉を聞き、喜ぶ男の子。
2人が乗る車は、マクドナルドへと走っていく。
S:Only MCDONALD’S
【視点】意外なものを競合として設定する
「マクドナルドに連れていく」ことでお互いにマウントを取ろうとする両親と、隙あらばマクドナルドに連れて行ってもらおうとする男の子を描くことで、マクドナルドの子ども人気を表現しています。マクドナルドを単なるハンバーガーショップではなく、「動物園よりも嬉しい場所」とすることで、ユーザーインサイトをユニークに捉えたCMになっています。
10. KELLOGG’S-FIBRE CYCLE (2005 SILVER)
〈食物繊維豊富のフロステッドミニ〉
アメリカの朝食の定番シリアル。フロスティングで覆われた10層の小麦でできていて、朝のお腹を満たすのにも、おやつとしても最適な商品になっています。食物繊維がたっぷり25%と高繊維が売りの商品で、ケロッグはこのポイントを訴求するユニークなCMを制作しました。
動画リンクはこちら(Youtube上に動画がないため)
真っ白なテーブルに、シートが引かれる。
左上には2つのジャム、右上にはカップに入ったミルク。
そして中央には、ボウルに入ったケロッグが置かれる。
ケロッグにミルクを注ぎ、カップを置く。
なぜかそのカップを、少し回す。
すると、ケロッグが、周り出す。
その姿はまるで、ドラム式洗濯機のよう。
商品カット
S:Clean your body inside.
【視点】伝えたい性能を映像で体感させる
「豊富な食物繊維で身体を内側から整える」という商品の機能を、「Clean your body inside」というコピーで表現し、ドラム式洗濯機に落とし込むというユニークかつスマートなCMになっています。途中まではただケロッグを食べる準備をしているようにしか見えないのに、ミルクを注いだ後は急に洗濯機に見えるという視覚的な驚きもあり、とても印象深いです。
レッドオーシャンを生き抜くヒントに
ご覧いただき、ありがとうございました。気になった視点はありましたか?
食品業界は、すでに知名度も高く、食べたことや飲んだことのある人に向けて、再度自社商品をアピールしなければならないという難しさがあり、有名同業他企業を巻き込んで知名度を利用したCMを制作したり、自社や商品を再定義したりして、「今」の自分たちに関心を持ってもらおうという姿勢が多く見受けられました。
商品自体は有名でなくても、「シリアル」「ハンバーガー」「ジュース」などカテゴリ的には一般的に消費されている物であり、市場がすでに確立されているというケースも多く、レッドオーシャンをかき分けるユニークな切り口が多く見つかる業界でもありました。
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