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【カンヌ名作CM集】公共業界 前編10選

名作CM収集は、アイデアのヒント収集

過去の名作CMには、現在でも通用する「視点の発見」があります。このnoteでは、そんな名作CMから「視点」を抽出して紹介しています。初回記事では、「自動車業界」の視点を紹介しました。

今回紹介するのは、「公共業界」の名作CMです。前編は1990年-2009年から10作。後編は2010年代を予定しています。あらゆるアイデアのヒントとして、名作CMが発見した「視点」をみていきましょう。

構成は以下↓

  • 公共業界の前編(2010年代を後編として公開予定)

  • 前編では1990-2009年までのカンヌ広告祭銅賞以上から10作品厳選

  • 「背景」「CM映像」「CM文字起こし」「視点の言語化」で構成


1. DANDRUFF-ANTI DRUGS CAMPAIGN(2000 GOLD)

〈薬物が社会問題に〉
薬物関係の犯罪があとを経たないコロンビア。コカインの密造、密売、密輸の拡大が社会的に大きな問題となっています。これはコロンビア大統領府が反コカインキャンペーンのために制作したCMです。

バスに揺られるサラリーマン。
前に立つ白髪の男の黒いコートには、雪のようにふけが落ちている。
サラリーマンはあたりの様子を伺い、初老の男のコートについたふけを鼻から吸う。

コカイン中毒の男には、コートについたふけがコカインの粉末に見えていたのだった。

字幕:コカインには中毒性があります。非常に。
(COCAINE IS ADDICTIVE. VERY ADDICTIVE)

コロンビア国旗+字幕:共和国大統領府(PRESIDENCIA DE LA REPUBLICA.)

【視点】中毒症状の恐ろしさを、ありえない映像で表現する
コカイン中毒者が、コカインに浸かってしまったあまり、前の男のフケを思わず吸ってしまう。そんなありえない映像を制作することで、それほどまでに「コカイン中毒」という症状が恐ろしいものであることを表現しました。


2. NZ FIRE SERVICE - SPEED OF FIRE(2003 GOLD)

〈意外と身近な火災〉
火災は日常のすぐそばで起こるものであると同時に一瞬の出来事だということを啓蒙するために、ニュージーランド消防局はCMを制作しました。

リビングでくつろぐ親子。寝室に向かうため、リビングを後にする2人。母親が吸っていたたばこが不始末のまま、椅子に落ちる。

タバコの煙が、30秒、1分、2分..とみるみるうちに燃え広がっていく。3分後。爆発音と、子どもの叫び声が響く。家が、黒い煙に包まれる。

ナレーション:
あなたが見たものは、たったの3分で起こること。
決して、炎の燃え広がる速さを見くびるな。
逃げて。消防を呼んで、頼むから逃げて。

字幕:NEW ZEALAND FIRE SERVICE (団体名)

【視点】信じがたい事実を活用する
火災は、起こる前にはその危険性に気づけません。そのためニュージーランド消防局は、たばこが家具に落ちて引火するとき、どのくらいの時間でどういう風になるのか、時間の経過とともにストーリーで見せるという表現をしました。


3. SPCA - ROOMMATES, HUSBAND, DAD(2004 GOLD)

〈動物虐待防止協会 SPCA〉
SPCAは動物の安全と福祉の向上を目指して、世界中の動物福祉団体に重要な獣医用医薬品を配布したりシェルター サポートを行ったりしています。

ソファで眠る男。
そこにもう一人男がやってきて、眠る男を膝の上に乗せ、ペットを撫でるようにお腹を撫ではじめる。

字幕:ペットにしかできない、いくつかのこと。
(Some things you can only do with a pet.)

眠っていた男が目を覚まし、驚く。

字幕:BC SPCA (団体名)すぐにペットに(Adopt soon.)

【視点】対象を置き換えて、異常な状況を作り出す
「もしも、ペットにすることを、人間にしたら?」と、対象を置き換えて作れらたこのCM。ペットにしていることを、人間にしてみると、なんとも言えない気まずい空気が流れます。そんな映像を通じて、「ペットにしかできないこと」を逆説的に伝えることで、ペットの唯一無二の価値を表現しています。


4. IAC - ALZHEIMER’S(2006 GOLD)

〈子育て支援研究所 IAC〉
IACは医師、治安判事、教師、心理学者、社会奉仕技術者、教育者など、さまざまな専門分野の人々が集まり、子どもの権利を擁護したり、子育てを支援したりする団体です。

病院に入院している、認知症の母の元へ娘が面会にやってくる。

娘:「お母さん、私よ、アンナよ」
母:「私の叔母が面会に来てくれたわ。」
認知症の母は、娘のことを認識できていない。

母:「叔母に、私をベッドの下に隠すよう頼んだの」
「お父さんが、すぐに来てしまうわ」
怯えた様子で、遠くを見つめる母親。

字幕:
虐待を受けた子供は、決してその記憶を忘れません。
(AN ABUSED CHILD NEVER FORGETS)
彼らのために対話を。800 202 651 に電話を。
(SPEAK FOR THEM. CALL 800 202 651)

字幕:Instituto de Apoio a Crianca(団体名)

【視点】最も説得力のある存在に語らせる
認知症になって自分の娘を認識できなくなってしまっていても、子どものころに受けた虐待は鮮明に覚えているというストーリーで、虐待の凄惨さを表現しています。年月も病気も、虐待の凄惨さの前では何も為さないという衝撃が大きいCMになっています。


5. PROSTATE CANCER RESEARCH FOUNDATION - Give a Few Bob(2008 GOLD)

〈みんなノーマークな前立腺がん〉
イギリスでは、1時間に1人の割合で前立腺がんによって男性が命を落としています。ボブ・モンクハウスもその1人でした。

墓場に立つボブ・モンクハウスが、おどけた様子で話だす。

「時が経つのはなんて早いんだ」
「私を殺した前立腺がんは、イギリスで1時間に1人殺している。この数字は、私の妻が料理する頻度より高いね!」
「コメディアンとして、たくさんの死に方をやってきたけど、前立腺がん。コレだけは、絶対おすすめしないよ。大金を払ってでもここから出たいんだ。」
(要所を抜粋)

字幕:前立腺がんがボブの命を奪った。あなたの命は奪わせないで。(Prostate cancer cost Bob his life. Don't let it cost you yours.)

墓場に立つボブ。その姿が、すっと消えてゆく。

【視点】亡くなった人を甦らせる
男性に馴染みのない前立腺がんを予防する行動を起こさせるために、ボブ・モンクハウスが前立腺がんを患ったことをジョークで語るCMを制作しました。亡くなってもなおファンからの支持が厚かったボブがポップに前立腺がんを語る様子はインパクトが大きく、瞬く間に国全体に前立腺がんの話題が広まりました。


6. CASA DO ZEZINHO - TEST(2008 SILVER)

〈人は無意識に選別されている?〉
Casa do Zezinhoは、社会的に弱い立場にある子どもたちや若者に対して 1 日 2 食の食事や社会教育ワークショップを行っている団体。

1人の男の子が、1回目はボロボロな身なりで、2回目は綺麗な身なりで街を歩き、人通りの多い歩道に座り込む。

綺麗な身なりの時は、街ゆく多くの人が話しかける。
一方で、ボロボロな身なりの時。男の子を気にも留めず、人々は素通りしていく。

字幕:なぜ、ある子どもたちは問題とされ、他の子どもたちはそうではないのか?(Why are some children our problem and some aren't?)

字幕:CASA DO ZEZINHO(団体名)

【視点】目に見えない問題を実証する
ボロボロの身なりの時は素通りするが、きちんとした身なりの時は心配する、という実証結果を並べて見せることで、「貧しい子どもとそうでない子どもへの対応の違い」という目に見えない問題を可視化させました。実証映像をそのままCMにすることで、鋭いメッセージを社会に提起しています。


7. SAMARITANS- Hanging Man(2008 SILVER)

〈「助ける」という気持ち〉
SAMARITANSは、自殺防止のサポートを行い、「命を救う」「助ける」という活動をしている団体です。

(街中に、男の焦ったような声が響いている。音声のみで、姿は見えていない。)

男を助けようと、たくさんの人々がやってくるが、男が「大丈夫、気にしないで」としきりに叫ぶ。その言葉を聞いて、人々はその場を後にする。

中年の男性がやってくる。「助けなくていい」と叫ぶ男を無視して、その男性は「早く降りろ」と倒れた脚立を戻す。

男は看板設置中に脚立が倒れて、宙ぶらりんになっていたのだった。

字幕:助けを求めることを恐れないで。(Don't be afraid to ask for help.)

【視点】事故を自作自演する
「助けを求めることを恐れるな」というメッセージを伝えるべく、SAMARITANSは「助けを求めることを恐れている人」を街中に置き、人々のリアクションを図りました。どんな絶望的な状況になって味方がいない気持ちになってしまっても案外助けてくれる人もいる、という希望的なCMになっています。


8. THE HOME OFFICE - Binge Drinking(2009 SILVER)

〈アルコール規制の強いイギリス〉
アルコール消費量のガイドラインを厳格化するなど、アルコール規制が厳しいイギリスの内務省が制作したCMです。

女性が、外出のために身支度をしている。
伝線したストッキングを履き、ブラウスを破く。
洗面台で吐いたかと思うと、その汚れがついた髪を気にも留めない。メイクをよらし、服にワインをわざとこぼす。

ボロボロの状態で、女性は外へと出かけていく。

字幕:あなたはこんな状態で夜を始めないのに、どうしてこんな状態で夜を終えるの?
(You wouldn't start a night like this so why end it that way?)

【視点】目を逸らしたい事実を直視させる
酔ってしまってメイクも洋服もボロボロになってしまうというあるあるな状況をわざと作って見せることで、過度な飲酒の醜さを表現しました。「ボロボロの状態でお酒を飲みに行かないのに、どうしてボロボロの状態でお酒を終えるの?」と皮肉ることで、見る側を「過度な飲酒はやめておこう」という気持ちにさせるCMになっています。


9. THE ROSES FOUNDATION - GRANDDAUGHTER (2010 BRONZE)

〈身寄りのない高齢者〉
Las Rosas Foundationは、身寄りのない高齢者を受け入れ、身体的・社会的・精神的な面でのサポートを行っている非営利団体です。

入院している認知症の祖父の所へ、娘がお見舞いにやってくる。
ひとしきり話すと、プレゼントを渡し部屋を出ていく。

娘が向かった先は、なぜか病院の更衣室。娘がコートを脱ぐと、その下には看護服。
女性は娘ではなく、老人を元気づけるために娘のふりをする看護師であった。

字幕:私たちは皆孤独。(We are all alone.)あなたの助けが必要です。(We need your help)

字幕:FUNDACION LAS ROSAS + Bci(共に団体名)

【視点】関係をミスリードさせる
「お見舞いに来た娘が、娘に扮した他人だった」という状況で、孤独な状態を表現しました。こういった身寄りがなくなってしまった高齢者が存在し、そこに対してLas Rosas Foundationがサポートしているという事実をストーリーにしたCMになっています。


10.DUNKELZIFFER - Tentacle (2008 BRONZE)

〈性被害のトラウマ〉
DUNKELZIFFERは性被害にあった子どもや若者、その周りの人たちをサポートする団体です。性被害は被害に遭った直後だけでなく、その後の人生も永遠に蝕み続けます。

横になって、テレビを見ている少女。その少女の身体に、まとわりつくようにゆっくりと触手が這う。
少女がいくら歳を重ねようと、その触手は身体にまとわりついて離れない。

少女が息を引き取るその瞬間まで、触手は少女の身体を這い続けていた。

字幕:
性的虐待を受けた子供たちが助けを得られなければ、彼らは決してそのトラウマを乗り越えることはない。(IF SEXUALLY ABUSED CHILDREN NEVER GET HELP, THEY NEVER OUTGROW THEIR TRAUMA.)

字幕:DUNKELZIFFER(団体名)
銀行振込先+サイトURL

【視点】不快感を可視化する
DUNKELZIFFERは「性被害のトラウマ」を「触手が身体を這う」というシーンで表現しました。幼いこどもが大人になっても亡くなるまで一生そのトラウマがまとわりつづけるという酷な事実が可視化された衝撃的なCMとなっています。


「見落としがちな当たり前」に気づかせる

ご覧いただき、ありがとうございました。気になった視点はありましたか?

公共業界の各団体がCMを通して伝えたいメッセージの多くは、すでに「そうである」とみんなが知っているもの。しかし、「当たり前」であるがために見落とされやすく、そんな「見落としがちな当たり前」の存在に気づかせる、という難しさがありました。

そんな中、公共業界の各団体は事故を自作自演したり、起こりうることを実際に映像化して見せたり、ストレートに表現するのではなく、その「見落としがちな当たり前」に自ら気づかせる表現を用いていました。当たり前なことは日常に溶け込み、見落としてしまいがちです。当たり前だけど大事なことに気づかせたい時、この公共業界のCMから見つけた視点が活かせるのではないでしょうか。

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