セッション定番曲その97:Body And Soul
ジャズセッション定番曲。歌モノでも、インストでも演奏されます。人気曲ですが、うっかり手を出すと・・・
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Tony Bennett, Amy Winehouse
ふたりとも亡くなってしまいましたが、まずこのバージョンを聴いてみましょう。Tony Bennettはもともと歌のうまい人ではありませんが、この時期は完全に「味で勝負」になっていますね(意外と声は出ていますが)。一方のAmy WinehouseはBillie Holidayまで遡る過去のジャズ歌手のエッセンスを持っていた歌手でした(破天荒な生活スタイルは真似して欲しくなかったですが)。そんなふたりの「噛み合わなそうで、噛み合っている」デュエット。
人気曲なので、本当に様々な人が歌い、演奏していますが、なかなか料理の仕方が難しい曲だと思います。このふたりも「自分の側に曲を引っ張ってくる」力のある歌手でしたが、完全に料理出来ているかというと少し疑問が残ります。それだけ手強い曲だということです。なのに「これまでに録音された回数が多い曲」のひとつだそうです。その魅力はどこにあるのでしょうか。
ポイント2:Billie Holiday
1940年録音。まだ声の出ていた時期の彼女の歌は、可愛らしさもあり、ジャズ黄金時代を感じさせます。この曲のイメージを決定付けたバージョンのひとつだと思います。「身体と魂」についての歌を歌うことを宿命付けられた人。
もっと年齢を重ねてからも録音をしていますが、声が枯れて掠れて、さらに味のある歌唱になっています。そこがジャズボーカルの面白いところですね。
ポイント3:Coleman Hawkins
1939年録音。シンプルに短くまとめた演奏。こういうのもいいなぁと思いますね。LPレコードが出たのが1948年なので、それ以前の録音は「短くまとめた」というより「仕方なく短かった」というのが本当のところかもしれませんが、
LP時代以降、録音物はどんどん長尺化していきますが、演奏をコンパクトにまとめる意識は大事ですね。テーマのメロディを丁寧に奏でるのをまず大事にして欲しいところ。
ポイント4:John Coltrane
1960年録音(発表は1964年)。
McCoy Tyner節としか言いようのないピアノのバッキングにのって、テーマを少し崩しながら丁寧に吹いています。いかにもAtlantic Records時代の録音という雰囲気ですね。
1965年のライブ録音ではこれが20分越の自由奔放な演奏になっています。
ポイント5:この曲はなぜ難しいのか
構成はAABA、Aパートのキーは少し珍しい「Dフラット」、Bパートは4小節ごとに「D→C」と転調していきます。ゆったりしたテンポのバラードで、251等で細かくコードが動いていきます(下記の解析動画を参照してください)。ミュージカル用に書かれた曲なので、もともとはメロディも伴奏ももっとシンプルなものだったのではないかと思いますが、ジャズミュージシャンが取り上げることでどんどん複雑化していったのではないでしょうか。
陰鬱なメロディは明確に解決する箇所が少なく、とりとめが無い印象。意外と音域も広く、転調に追いつくのに精一杯になってしまい、バラードなのにほっと一息休む箇所が無い曲です。
ミュージカル曲ということでタイトルも歌詞も最初から付いていたはずで、歌詞の世界観(恋人に対する恨み節)を表現する為のちょっとグズグズした感じの旋律。憂鬱さもあります。歌詞には難しい言葉は使われておらず、詩的というよりも直裁的な言葉の羅列。相手に向かって語っていると同時に自分自身にも語り掛けているようで、声を張って歌う表現は似合わないかもしれません。ブルージーに歌いたいですが、希望は残したいので、ブルースそのものになってしまうとちょっと違うかな、と。
という訳でこの曲を歌おうとすると、深い理解と表現力が必要ですが、その苦労の割にはリスナーにウケにくい、という捻くれた曲でもあります。
そのあたりが逆に「挑戦してみよう」と思わせるのが、録音数の多い要因かもしれません。
詳しい解析は下記。
ポイント6:歌詞と発音のポイント
難しい単語や言い回しはありません。
My heart is sad and lonely
For you I sigh, for you dear only
「lonely」と「only」は韻を踏んでいます。古典的。
I'm all for you, body and soul
「soul」のように最後が「L」音で終わる場合には少し長めにホールドして余韻を持たせましょう。その後に「u」という母音が入らないように注意。
I spend my days in longing
And wondering why it's me you're wronging
このい「longing」と「wronging」も韻を踏んでいますが、単語の頭がそれぞれ「L」音と「R」音なのではっきりと発音し分けましょう。
一文の中に「wondering」「why」「wronging」と3回も「w」が出てきますね。「wronging」の「w」は発音しませんが、意識の中には入れておいた方が良さそうです。
I can't believe it
It's hard to conceive it
ここは韻というよりもリズムを整えた感じでしょうか。
Are you pretending?
It looks like the ending
ここも同様ですね。
My life a wreck you're making
You know I'm yours for just the taking
「making」と「taking」も韻を踏んでいます。
「wreck」は「ぼろぼろにされてしまったもの」「難破船」という意味です。この発音も
ポイント7:バリュエーション
Tierney Sutton
2014年録音。ギターのシンプルな伴奏を従えて歌っています。歌唱力/表現力のある人が現代的に歌うとこんな感じ。
Chet Baker
1986年録音。いかにも彼らしい脱力した歌唱、これが意外と難しい。
José James
2015年録音。Billie Holidayへのトリビュート盤でした。声のコントロールのお手本。
Cassandra Wilson
1991年録音。「料理」には定評のある人です。誰にも似ていない、ソウル色のあるアレンジと歌唱。
Thelonious Monk
1963年録音。独自のリズム感、突っかかるような演奏。まるで絵画を観ているような印象です。
Sonny Stitt
1956年録音。バーで掛かっていて欲しい品の良い演奏。とにかく音色がいいですね。
他にも
Stan Getz、1952年録音
https://www.youtube.com/watch?v=6QaEB-fgciI
Kenny Barron、2010年録音
https://www.youtube.com/watch?v=Fpk6q1xQYiY
浅葉裕文、2021年録音
https://www.youtube.com/watch?v=3cpDmg6JXLQ
Sarah Vaughan with Clifford Brown、1954年録音
https://www.youtube.com/watch?v=Tuo1aju4JnY
など。
◼️歌詞
My heart is sad and lonely
For you I sigh, for you dear only
Why haven't you seen it?
I'm all for you, body and soul
I spend my days in longing
And wondering why it's me you're wronging
I tell you, I mean it
I'm all for you, body and soul
I can't believe it
It's hard to conceive it
That you'd turn away romance
Are you pretending?
It looks like the ending
Unless, I could have one more chance to prove, dear
My life a wreck you're making
You know I'm yours for just the taking
I'd gladly surrender
Myself to you, body and soul