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セッション定番曲その172:But Not For Me
ジャズセッションの定番曲。1930年代にGeorge Gershwin作曲した、優雅なメロディの名曲。日本語発音だとタイトルが言いにくいことでも有名?です。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Chet Baker
1954年録音、おそらく一番聴かれているバージョンだと思います。いつも通りの脱力して淡々とした歌と終始クールなトランペット。後述の「醒めやすい人」だと解釈すると納得出来ます。
ポイント2:Judy Garland
1943年録音。元となったミュージカルの映画版で歌っています。当時のポピュラー音楽ですが、これが同時代にジャズスタンダードになっていった雰囲気を感じ取れると思います。
ポイント3:踊るためのジャズワルツ
バレエを踊る為にワルツ(三拍子)にアレンジされたもの。実は古い時代のミュージカル曲って三拍子のものも多くて、それがジャズスタンダードになる過程で四拍子にアレンジされる場合も多いので、ある意味「先祖返り」かもしれません。
ポイント4:歌詞のポイント
ヴァースは後回しにして本歌部分から。
They're writing songs of love, but not for me
A lucky star's above, but not for me
With love to lead the way I've found more clouds of gray
Than any Russian play could guarantee
終始、自分には良いことが全然ないと嘆いています。
世の中にはいっぱいラブソングがあるのに、自分に当てはまるものはないし、幸運の星というやつが夜空には輝いているらしいけど、自分には縁が無いし、愛に導かれて進んでみても一寸先は霞んで見えない感じ、いつも悲劇的なロシアのお芝居よりもね
「Russian play」は色々な解釈がありますが、歌詞が書かれた20世紀初頭を考えると「ロシア演劇/戯曲は、人間関係が複雑で、やたらセリフが多くて、悲劇的な展開のものが多い(だから観る人を選ぶ)」という認識だったのだと思います。寒い地域の人達って家にこもって考え過ぎたり、内向的になりがちなので。
I was a fool to fall and get that way
Heigh-ho!, Alas! And also, lack-a-day
Although I can't dismiss the memory of his kiss
I guess he's not for me
「Heigh-ho!, Alas!, lack-a-day」はどれも「ああ、もう・・・」って感じですね。こんな歌詞、ちょっと嫌だなぁ。
相手の手口にはまって恋に落ちたけど
もう後悔しかない
キスの思い出は消せないほど胸に刻まれているけど
やっぱり運命の相手じゃないと思う
後半はさらに妄想が進んで「結婚」とか「家を建てる」とか将来の具体的なプランが出てきますが、やっぱり相手との将来がピンとこない様子です。この恋愛自体が悲劇的といういうより、主人公が心を決めきれずに逡巡している歌。情熱的だけど醒めやすい人?
ポイント5:ヴァースの歌詞のポイント
ヴァースを歌っているのが主人公なら、ちょっと教養があるけど面倒くさい人、というイメージが分かります。
Old Man Sunshine, listen, you,
Never tell me dreams come true,
Just try it, and I'll start a riot,
なんかお天道さまに向かって不満をぶちまけています。「夢は叶うとか二度と言わないで」と。
Beatrice Fairfax don't you dare, Ever tell me he will care
I'm certain, It's the final curtain.
「知らない言葉が出てきたらだいたい固有名詞」という法則で「Beatrice Fairfax」を調べてみると、米国の新聞に長年「恋愛相談コラム」を書いていた人のようです。今と違って相談のハガキを送ってもコラムで回答をもらうまで数週間掛かっただろうし、のんびりした時代の名物ですね。
「don't you dare」は「もうやめてよ!」という感じ。
恋愛の達人に相談してみたけど「彼は気があると思います」なんて回答聞きたくもない
もうこの関係は終幕だっていうこと、私は分かっているし
Don't want to hear from any cheerful Pollyannas,
Who tell you fate supplies a mate, it's all bananas.
「Pollyanna」ももともとは小説の登場人物(固有名詞)ですが「物事を何でも肯定的に考えてしまう楽観的な人」という意味のようです。
「it's all bananas」は「It's just crazy」みたいに「そんなことある訳ないし」という捨て台詞。
頭の中が南国みたいな連中の言うことなんて聞きたくない
「運命の人が現われるよ」なんて、バカみたいじゃない
まあ、なかなか面白い表現満載のヴァースで、そんなに長くないので、歌ってみたい人が多いのも分かります。
ポイント6:様々な歌唱
Anita O'Day、1958年録音
ヴァースから歌っています。終始「語る」ような歌唱。
Ella Fitzgerald、1959年録音
バラードで歌っています。歌詞の切ない内容からすると一番合っているかもしれません。
Fred Hersch, Esperanza Spalding、2022年録音
このバッキングでよく歌えるなと思いますが、さすが楽器奏者ならでは。
Linda Ronstadt、1986年録音
伸びやかな歌唱で説得力があります。
Ketty Lester、1962年録音
ポップなソウルバラード風。
Sam Cooke、1961年録音
気持ちのこもった熱唱。
ポイント7:様々な演奏
Red Garland、1957年録音
George Gershwinも喜んでくれそうな演奏。
Miles Davis、1954年録音
モダンジャズ「全盛期」の演奏。
Modern Jazz Quartet、1953年録音
Ahmad Jamal Trio、1958年ライブ録音
雰囲気たっぷりの遅めのスイング。
Sonny Stitt、1957年録音
ジャズセッションで演奏する時はこんなテンポが多いですね。自由自在なサックスは流石。
◼️歌詞
(Verse)
Old Man Sunshine, listen, you,
Never tell me dreams come true,
Just try it, and I'll start a riot,
Beatrice Fairfax don't you dare, Ever tell me he will care
I'm certain, It's the final curtain.
Don't want to hear from any cheerful Pollyannas,
Who tell you fate supplies a mate, it's all bananas.
(Chorus)
They're writing songs of love, but not for me
A lucky star's above, but not for me
With love to lead the way I've found more clouds of gray
Than any Russian play could guarantee
I was a fool to fall and get that way
Heigh-ho!, Alas! And also, lack-a-day
Although I can't dismiss the memory of his kiss
I guess he's not for me
He's knocking on a door, but not for me
He'll plan a two by four, but not for me
I know that love's a game, I'm puzzled just the same
was I the moth or flame, I'm all at sea
It all began so well, but what an end
This is the time a fella needs a friend
When every happy plot ends in a marriage knot
And there's no knot for me