セッション定番曲その138:I Fall in Love Too Easily
ジャズバラードのスタンダード曲。バラードにしてはとても短めなので、セッション向きだと思います。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:ジャズバラードのジレンマ
ジャズセッションの場では「いかに多くのイベント参加者に演奏や歌唱の機会を回してあげるか、少しでも長くソロを取らせてあげるか」がいつも課題になります。参加者が少ない場合には練習のつもりでゆったりと順番を回せばいいのですが、参加者の多い人気イベントの場合には「なるべく公平に回数を回しながら、セット毎の参加者の(技量や好みの)バランスをうまく調整してあげるか」がイベント主催者が気を使うところ。
ソーシャルメディアなどにも「あそこのジャズセッションに行ったけど、全然順番が回ってこなかった」とか「ホストメンバーと一緒にやりたかったのに、初心者と組まされて、楽しめなかった」とかいう書き込みが頻繁に見られます。
特に敬遠されがちなのは「バラード」。歌っていて気持ちいいし、テクニックの聴かせどころなので、ボーカリストがリクエストしがちですが、演奏者からすると、リズムの工夫の余地が少ないし、ソロもワンコーラスが長いので消化不良で終わってしまうことも。
そんな時に便利なのが「(スロー)バラードなのに短い曲」です。
この「I Fall in Love Too Easily」もそのひとつ。「ABパート、8小節ずつ」しかありません。音域もそんなに広くないので、歌いやすい曲だと思います。レパートリーに入れておいて損はありません。
インストの場合も「まずテーマを丁寧に吹く/弾く」をちゃんとやりましょう。それがあってのアドリブパートなので。
ポイント2:Chet Baker
脱力した感じで切々と歌っていますが、こんな感じであっという間にテーマを歌い終わってしまいます。歌〜トランペットソロ〜ピアノソロ〜歌(途中から戻り)〜エンディングでも3分ちょっとで収まっています。
Chet Bakerのこの優しい歌声と淡白なトランペットは最高の組合せですね。
ポイント3:I fall in love too easily
I fall in love too easily, I fall in love too fast
I fall in love too terribly hard, For love to ever last
「どうも自分は恋に落ちやすいみたいだ、それとても激しく」と嘆いています。これまでも酷い目に遭ってきたのかもしれません。
My heart should be well-schooled
'Cause I've been fooled in the past
「これまでの経験から、自分の心は充分に学んだ(反省した)はず」「相手に酷く騙されてもきたし」・・・だけど、やっぱりすぐに恋に落ちてしまう
・・・それは実は幸運なことなのかもしれませんが、この歌の中では「次の恋も長続きしないだろう」という予感を残して終わります。
ポイント4:Verse
There are those who can leave love or take it
Love to them is just what they make it
I wish that I were the same
But love is my favourite game
この曲にもVerse(前説)があります。テーマ自体が短いので、このVerseを歌っても全体が長くならないので、歌ってもいいかもしれません。
「love is my favourite game」と言い切っているのが気になりますね。「新しい恋が上手くいかなくても、それはそれでいいんだ」と割り切っているのかもしれません。このVerseがあるとテーマ部の歌詞の解釈が少し変わってきますね。
ポイント5:発音のポイント
I fall in love too easily
冒頭から「L」音が3回も出てきます。ゆったりと歌う場合には全部の単語を明瞭に発音しましょう。
「easily」はこんな発音です。
https://dictionary.cambridge.org/ja/pronunciation/english/easily
I fall in love too terribly hard
「terribly」の発音も難しいですね。
https://dictionary.cambridge.org/ja/pronunciation/english/terribly
'Cause I've been fooled in the past
「'Cause」は「Because」が略されたもので、頭の「be」音がありません。
ポイント6:歌のバリュエーション
Frank Sinatra、1945年
この曲も例によってFrank Sinatraによって「錨を上げて」という映画の中で歌われて世に出ました。さりげなく、この後の物語の展開を予告するような歌い方。
Sarah Vaughan、1962年録音
Verseから歌っています。ちょっと粘っこい歌唱で、恋のベテランなのかなという感じ。いつものビブラート過剰は好みの分かれるところ。
Johnny Hartman、1955年録音
これもVerseから歌っています。Chet Bakerとは対極の重厚な歌唱で、恋人になっても重い展開が待っていそうな気もします。
Anita O'Day、、1955年録音
これもVerseから歌っています。ちょっとハスに構えたような歌い方がこの曲に合っています。また次の恋が始まるけど、うまくいかない予感も。
Melody Gardot、2020年録音
気持ちいいテンポでゆったりと歌っています。解釈を聞き手に委ねるような歌い方で、それもアリなのかなと思います。
ポイント7:演奏のバリュエーション
Miles Davis、1963年録音
Keith Jarrett Trio、1985年録音
Niels-Henning Ørsted Pedersen, Sam Jones、1986年録音
ラテンアレンジで、ベースがテーマを弾いています。
Bill Evans、1962年録音
テーマだけでしっとり聴かせるところがすごいですね。
Philip Catherine、1990年録音
Baptiste Trotignon、2010年録音
◼️歌詞
I fall in love too easily
I fall in love too fast
I fall in love too terribly hard
For love to ever last
My heart should be well-schooled
'Cause I've been fooled in the past
But still, I fall in love so easily
I fall in love too fast
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