セッション定番曲その145:Taking A Chance On Love
ジャズスタンダード曲で、セッション定番曲。可愛い歌詞との楽しいメロディの曲です。黒本2に掲載されています。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Anita O'Day with The Oscar Peterson Quartet
恋するウキウキした気持ちを歌う曲ですが、それを「オトナの女性」が歌ったらどうなるか、というお手本。1957年録音、Anita O'Dayは38歳くらいで絶頂期でした。1940年代の頭にビッグバンドの座付き歌手としてデビューして、この時点で15-16年くらいのキャリアがあって、もう「可愛い」で売っていく状況でもないけれど、ちょっと掠れた声で「可愛い曲」も歌わなければならない。それをうまく歌っていますね。
ポイント2:Lester Young with Teddy Wilson Quartet
こういう親しみやすいメロディの曲のインストは「歌の無いカラオケ」っぽくなりがち。歌詞の意味や物語を気にしないという演奏者もいますが(そんなものは音を聴いて感じればいい、と)、古典的なジャズスタイルのふたりは「ウキウキした物語」を丁寧に演奏しています。アドリブパートも物語から外れない範囲での展開。気持ちのいい演奏です。
ポイント3:歌詞の意味と発音のポイント
Here I go again
I hear those trumpets blow again
All aglow again
Taking a chance on love
「Here I go」は自分(や周囲の人)に「さあ、いくぞ」という掛け声。
「again」なので、以前にも経験があるけど、また挑戦しよう、と。
進軍ラッパがどこかから聞こえてきます。
「Taking a chance on love」
また恋のチャンスが見えてきたから、それに賭けてみよう、と。
Here I slide again
About to take that ride again
Starry-eyed again
Taking a chance on love
恋に落ちる様子を「滑り台」に例えて、滑り始めたら止まらない(心の)動きを歌っています。
「Starry-eyed again」
なんか少女マンガのひとコマみたいですね。
発音は「巻き舌になり過ぎないように」滑らかに。
語尾に「again」が続くので、キレよく発音したいですね。
I thought that cards were a frame-up
I never would try
But now I'm taking the game up
And the ace of hearts is high
カードゲームなんてインチキばかりだから、これまではやらなかった
でも今は「ハートのエース」を持っているから負ける気がしない
カードゲーム(トランプ)の比喩。「ハートのエース」は当然ダブルミーニングで、手札と自分の恋心の両方を歌っています。
「I never would try」は意外と発音しにくいので、スムースに歌えるように練習しましょう。「w」音を丁寧に。
「try」と「high」は韻を踏んでいます。
この後も自分を励ますような歌詞が続きます。
気になる表現だけを説明すると
Here I slip again
About to take that tip again
Got my grip again
Taking a chance on love
うっかり友達にそそのかされて変な相手につまづくところだったけど
主導権は取り戻したから
次の恋に向かって進むことにするよ
「take that tip」は「誰かの助言を信じる」ですかね。(tipは何かの尖った先端という意味もあるので「掴みにくいものを掴もうとした」という解釈もありそう)
ここでは「slip again」と「grip again」で韻を踏んでいます。
On the ball again
I'm riding for a fall again
I'm gonna give my all again
Taking a chance on love
今度は油断しないつもり
ちょっと無茶してみようかな
自分の全てをぶつけてみようと思う
次の恋こそ手にいれるよ
「On the ball」は「(今度は)油断しない」
「 riding for a fall」は「(危険だけど)無茶をする」
ここも「ball again」と「fall again」「all again」で韻を踏んでいます。
ポイント4:様々な歌のバリュエーションを聴いてみましょう
もちろんエラやサラなどの過去の偉大なジャズ歌手の歌は素晴らしいですが、最初からそれをお手本にすると時代が違い過ぎるかもしれません。最初はもっと現代的な歌手の歌唱を聴いて、曲を知る方が親しみが持てます。ポップスを経てジャズ歌手になった人達の歌はやはり聴きやすいです。
Jane Monheit、2004年録音
色気のすごいJane姉さんの20年前の録音、このアルバムは売れたと記憶しています。ポップスやR&Bを聴いて育ったんだんだなという印象。聴きやすい明るい声で正確に歌って、テクニックもある。現代的なジャズ歌手の代表。
Renee Olstead、2004年録音
David Fosterのお気に入りのひとりでした。子役出身だけどポップスじゃなくてジャズを歌うことを選んだあたり素敵です。この曲に相応しい可愛い声でのびのびと歌っています。
Halie Loren、2011年録音
この人もお色気たっぷりでクセのある節回しが特徴的。
Ella Fitzgerald、1973年ライブ録音
初期の録音もありますが、これは1970年代の録音。「ジャズはまだ死んでいないぞ」という勢いのある歌唱。
Michael Feinstein、2000年録音
ヴァースから丁寧に歌っています。
Rod Stewart、2005年録音
男性は幾つになっても安易に恋に落ちてしまう生き物なので、年配の男性歌手が歌っても違和感無いですね(偏見)。特にRodはそういう生き方をしてきた人なので。
Benny Goodman and Helen Forrest、1940年録音
この曲が書かれた直後の録音、スイングジャズが流行歌の主流だった頃。
ポイント5:様々なインストのバリュエーションを聴いてみましょう
やっぱり少しテンポを速くした演奏が多いですね。
Sonny Stitt, Bud Powell、1950年録音
Ahmad Jamal、1958年録音
Tal Farlow、1956年録音
◼️歌詞
Here I go again
I hear those trumpets blow again
All aglow again
Taking a chance on love
Here I slide again
About to take that ride again
Starry-eyed again
Taking a chance on love
I thought that cards were a frame-up
I never would try
But now I'm taking the game up
And the ace of hearts is high
Things are mending now
I see a rainbow blending now
We'll have a happy ending now
Taking a chance on love
Here I slip again
About to take that tip again
Got my grip again
Taking a chance on love
Now I prove again
That I can make life move again
In the grove again
Taking a chance on love
I walk around with a horseshoe
In clover I lie
And brother rabbit of course you
Better kiss your foot goodbye
On the ball again
I'm riding for a fall again
I'm gonna give my all again
Taking a chance on love