セッション定番曲その106:In A Mellow Tone
ジャズセッション定番曲。 メロディ(歌)が入るタイミングがちょっと変わっていて、フロントと伴奏の一体感が楽しい曲です。ビッグバンド用に書かれた曲だと思いますが、小編成のバンドでも同じように楽しめます。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:まずはご本家の演奏から
1940年の録音から、Duke Ellington and His Famous Orchestra
Duke Ellingtonの曲/演奏はいつも遊び心たっぷりの楽しさがありますね。冒頭部は3回同じ(ウキウキした感じの)メロディが繰り返されて、そこから展開していきます。このメロディは途中の他の箇所にも出てきて、隠し絵のような効果を出しています。
ポイント2:Mellow
「Mellow」という言葉のニュアンスは時代や場面によって変わります。大掴みとしては「柔らかで、くつろいだ感じ」「円熟した感じ」ですが、逆に「ハッキリしなくてダルい感じ」という悪口にもなったりします。その時の時代がどっちに向いているか次第ですね。
この歌詞の中では「Groovy」に近いニュアンスで使われているようです。「すばらしく、気持ちの良い音に包まれている」と。
ポイント3:And I'm not alone, I've got company
「company」というのは「会社」じゃなくて「仲間」です。
「独りじゃなくて、仲間が(周りに)いるよ」と。
Everything's OK, The live long day
With this mellow song, I can't go wrong
なんか全てが順調で調子いいみたいですね。
ジャズには珍しい全肯定の歌詞。
ポイント4:「アタマ」はどこだい?
1小節前からメロディが始まって、その最後の音が8分食って最初の小節(アタマ)になります。何も考えずに聴いている時は自然に聴こえるんですが、いざ歌おうとすると「あれっ?」と戸惑ってしまいますね。
そこがこの曲の面白い仕掛けです。ゆったりしたスイングでやると、ちょうどいい隙間が1小節ごとに生まれて、そこを誰が支配するかで曲の雰囲気が変わってきます。
シンプルな構成の曲ですが、途中で迷子になりやすい曲でもあります。
ポイント5:まずは非ジャズの歌唱から
ジャズ・コーラスというよりは「バーバーショプ・コーラス」という雰囲気の、とにかく楽しい歌唱。こういうのもアリですね。ご機嫌なオヤジ達です。
ポイント6:様々な歌のバリュエーションを聴いてみましょう
Ella Fitzgerald
余裕たっぷりで、まさに「メロウ」な感じですね。スキャットもいつものような性急な感じではなく、控えめな伴奏に合っています。
Lambert Hendricks & Ross
隙間を活かしたボーカルの掛け合いアレンジ、後半部のスピード感が見事です。
Anita O'Day
語るような調子で自由にメロディを崩して歌っています。各楽器のソロ演奏もたっぷり。
Paula Chavis、2019年のライブ
これはおすすめです。ぐっと「黒さ」を強調した歌唱と演奏。この粘っこい感じもいいですね。歌詞の後半部は、自分だけが気持ちいいのではなく「あなた達も気持ちいいでしょ」と呼び掛けるものなので、そこがより強調された感じ。ジャズボーカルというとお上品に歌ってしまいがちですが、ここまで主張が強くてもいいのかと勇気をもらえますね。
まさかと思ったけど、ボサノバ・バージョンありました。
魂が抜けた感じだけど、これはこれで悪くないですね。
ポイント7:様々な演奏のバリュエーション
Buddy Rich
「隙間」を埋めてやろうと虎視眈々と狙っているのがうかがえますね。
The Oscar Peterson Trio
ちょっと録音のバランスが悪いですが、ベースが前面に出たこの感じも好きです。
The Great Jazz Trio (Hank Jones)、2006年録音
すべての音の粒が明快で、デジタル時代のジャズ録音という感じですね。Hank Jonesの品の良いピアノ。
◾️歌詞
In a mellow tone, Feeling fancy free
And I'm not alone, I've got company
Everything's OK, The live long day
With this mellow song, I can't go wrong
In a mellow tone, That's the way to live
If you mope and groan, Something's gotta give
Just go your way, And laugh and play
There's joy unknown, In a mellow tone