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セッション定番曲その144:Tomorrow Never Knows by The Beatles

ビートルズでは数少ないロックセッション定番曲。色々な装飾音を除いて聴けば、コード進行は単純で、特徴的なドラムパターンを掴んでしまえば延々と演奏出来ます。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Revolver

1966年発表のアルバム「Revolver」はビートルズが「とても人気のあるロックバンド」から更に一歩踏み出したヤバい作品。初期のシングル曲ベースの制作から前作の「Rubber Soul」からアルバム単位での制作に移行して、ポップなのにアバンギャルドという、好き勝手やる自由を得た彼らの意欲作。「売れなくてもいい」と思って挑戦した結果、それが評価されて売れてしまうという状況。そのタイミングでジョージ・ハリソン名義の曲が3曲も収録されたのも意味がありますね。

ファンクの「Taxman」、アレンジに使うのではなくストリングスで曲を構成した「Eleanor Rigby」、ポップな「Here, There and Everywhere」「Good Day Sunshine」、ジョン・レノン印の「Doctor Robert」、いずれも3分以内にコンパクトにまとめた曲ばかり。

「Tomorrow Never Knows」はアルバムの最終トラックで、アルバムのトーンを決定付ける曲でもありました。混沌とした雰囲気なのに、これも3分以内にコンパクトにまとめてあります。もっと後の時代だったらアルバム片面全部を使って収録したかもしれませんね。

尚、記憶を書き換えて勘違いしている人も多いですが、発表当時(少なくても日本市場では)アルバム単位でポップス/ロックを聴いている人なんて殆どいなかったと思います。だからこのアルバムやこの曲の「変さ加減」にみんなが気付いたのはもっと後になってから。

ポイント2:ジョン・レノン

「ドラッグによる幻視体験の聴覚化」「ステージでの演奏を想定しない曲作り」「制作に予算と時間を掛けられる環境」「スタジオでの実験による遊び」「スタジオでの録音技術の向上」「インド音楽/哲学の影響」など様々な要素がジョン・レノンの遊び心に火をつけて、それまで誰も聴いたことのない曲を作ろうと仲間を巻き込んで(音楽的に)やりたい放題やります。

リンゴ・スターが頑張って叩く特徴的なドラムパターン、インド楽器(タンブーラ、シタール)によるドローン(持続音)、テープ逆回転のダビング、メロトロンの活用、ボーカルのダブルトラック。ポール・マッカートニーも(この時期はまだ)遊びに加わって悪ノリして煽っています。プロデューサーのジョージ・マーティンも含めてみんなが手探り。

この年の冬、ジョン・レノンは「本物のアバンギャルド・アーティスト」小野洋子に出会います。


ポイント3:歌詞のポイント

ティモシー・リアリーの本「チベット死者の書サイケデリック・バージョン」に影響されてジョン・レノンは「似非哲学」っぽい歌詞を書きました。

Turn off your mind, relax and float downstream
It is not dying, it is not dying

「心を空っぽにして瞑想する」というのはキリスト教徒にとっては意外と経験の無いことです。常に「神様の存在」と「それに対峙する自我」を意識して暮らしているので。だから「それは死の感覚とは違うんだ」と。

Lay down all thoughts, surrender to the void
It is shining, it is shining

「void」は「空っぽの空間」「空虚感」。
ここでも「頭を空っぽにして、何も無い環境に身を任せなさい」「それは怖い感覚ではなく、そこにこそ光があるんだよ」と。

That you may see the meaning of within
It is being, it is being

「自分の内面の意味や意義が見えてくるはず」「それが『存在すること』『生きること』だよ」

ここまではずっと「神の存在を一旦忘れて、自分自身と向き合え」と歌っています。

That love is all and love is everyone
It is knowing, it is knowing

ここでいきなり抽象的な「」という言葉が登場します。
このあたりが似非哲学っぽいところ。

That ignorance and hate may mourn the dead
It is believing, it is believing

「死者」に対するアプローチも曖昧というか抽象的ですね。

But listen to the colour of your dreams
It is not living, it is not living

この辺は幻覚症状っぽい表現で「(君の見た夢の)色が音で聴こえるはずだ」と。ドラッグ体験で心身が解放されると信じられていた時代でした。

Or play the game "Existence" to the end
Of the beginning, of the beginning

「"Existence"」は「実存(主義)」を意味してるのですかね。日本でも一時期流行りましたが、一般には定着しませんでした。ヨーロッパ人の苦悩や逡巡は日本人はやはり理解出来なかったのだと思います。ここでは「実存を深く考えるというゲームで遊んでみよう」「そこが出発点じゃないかな」と。

あるいは「存在」と捉えると、東洋思想的には「存在を取り巻く煩悩からの解脱」を意味するのかもしれません。

という感じで比較的平易な単語を使い、判じ物的な歌詞を書いています。どこまで本気だったのかはちょっと分からないですね。例の「キリスト教は逝っちゃうかもね」発言の年でもあるので、色々と考えてはいたと思いますが。

ポイント4:カバー

こんな変な曲ですが、意外とカバーされています。弾き語りからテクノ、レゲエまで。

Daniela Andrade
弾き語りでのカバー。余計な装飾音が無いのでメロディが際立っています。


Junior Parker、1970年録音
ブルースシンガーが晩年に残した録音。The Beatlesなんて知らない人だったかも。


Steve Marcus、1968年録音
実はこのアルバムは当時大ヒットしました。クロスオーバーの先駆け?


Phil Collins、1981年録音
音色とか1980年代の良くないところが全部出ているかも・・・


Electric Moon、2015年録音
現代のテクノロジーだと、まぁこうなるわな、というアレンジ。


Billy Idol, Steve Stevens、2006年録音
企画ものアルバムから。Steve Stevensの疾走する変態ギターが聴けます。


Phil Manzanera, Brian Eno, Simon Phillips, Bill MacCormick、1976年録音
セッションバンドのライブ録音。このアルバムも意外と売れました。


Herbie Hancock, Dave Matthews
、2010年録音


Destroy Babylon
、2013年録音
酩酊感はあるかも・・・


ポイント5:Take 1

のちに初期バージョンも公開されています。
ちょっとテンポは遅めで装飾音もまだまだ中途半端。


◼️歌詞


Turn off your mind, relax and float downstream
It is not dying, it is not dying
Lay down all thoughts, surrender to the void
It is shining, it is shining
That you may see the meaning of within
It is being, it is being

That love is all and love is everyone
It is knowing, it is knowing
That ignorance and hate may mourn the dead
It is believing, it is believing
But listen to the colour of your dreams
It is not living, it is not living

Or play the game "Existence" to the end
Of the beginning, of the beginning
Of the beginning, of the beginning
Of the beginning, of the beginning
Of the beginning



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