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セッション定番曲その174:Bewitched, Bothered, And Bewildered

ジャズ(ボーカル)セッションの定番曲。韻を踏んでいる歌詞なので、しっとりしたテンポで歌ってもリズムを感じます。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:Doris Day

1940年代から1970年代まで活躍した米国の女優/歌手のDoris Day。ジャズ歌手というイメージはありませんが、「Sentimental Journey」「Tea for Two」などは彼女がオリジナルです。この曲も物語を演じるように歌っていて、チャーミングです。若い頃の可憐な雰囲気がこの曲にピッタリですね。


ポイント2:歌詞のポイント、発音のポイント

ヴァースは後で解説することにして、本歌からいきます。

「Witch」は「魔女」、「Bewitched」は「魔法をかけられる、魅了される」という感じです。恋愛している時には心が乱れて、そんな感覚になりますよね。

I'm wild again
Beguiled again
A simpering, whimpering child again
Bewitched, bothered and bewildered am I

自分じゃないみたいに心が揺れているし、
誰かに騙されちゃったり、
思わずニヤニヤしたりメソメソしたり、子供みたい
そんなことが度々ある
まるで魔法に掛かったみたいにうっとりしたり、心が乱れたり、戸惑ったり

三回出てくる「again」や、二回続く「-pering」や三回続く「-ed」が歌のリズムを作っています。語尾を丁寧に発音したいですね。

Bewitched, bothered and bewildered am I
は「b」音で始まる単語が続きますが、ちゃんと破裂音を出して歯切れをよくしましょう。


Couldn't sleep
And wouldn't sleep
When love came and told me I shouldn’t sleep
Bewitched, bothered and bewildered am I

昨夜は眠れなかったし、
今夜も眠りたいと思わないし、
それは恋しているせいだと思う
思わずうっとりしたり、心が乱れたり、戸惑ったり

ここでも「-n't sleep」がリズムを作っています。

Lost my heart but what of it?
My mistake, I agree
He can laugh but I love it
Although the laugh’s on me

心がどこかに行ってしまったみたいだけど、構わない
自分のせいなのはわかっている
彼がそんな様子を笑っていても、それが心地よい気がする

AABCのAパートの最初の4小節が上昇メロディの連続なのに対して、このBパートの最初の4小節は下降メロディの連続なのが、オシャレです。ちょっとテンポを見失いそうになる箇所ですが、聴かせどころなので頑張りましょう。

I’ll sing to him each spring to him
And long for the day when I’ll cling to him
Bewitched bothered and bewildered am I

春が訪れるたびに彼に歌いかけようか
彼に抱きつける時を夢に見て
ずっと、うっとりしたり、心が乱れたり、戸惑ったりしながら

どうも彼女の一方的な愛情のようで、彼の側の気持ちはよく分かりませんね。そういうミステリアスな部分やうまくいかない部分があると、恋愛は盛り上がります。意図的に相手に勘違いさせるように振る舞うのが恋愛上級者の手口ですね。それに比べて、彼女の方は初心(うぶ)な感じが可愛いですね。

その戸惑っている感じ、ピュアな感じをいかに表現するかが、この歌のポイントです。


ポイント3:ヴァース(前説)

例によって前節は「ネタバレ」っぽい内容です。

He’s a fool and don’t I know it
But a fool can have his charms
I’m in love and don’t I show it
Like a babe in arms

ここも駆け引きです。「ダメ男」なのは分かっていて、でもそれに惹かれてしまう女性。好きな気持ちを隠して、赤ちゃんのような無心を装って振る舞います。

Love’s the same old sad sensation
Lately I’ve not slept a wink
Since this half-pint imitation
Put me on the blink

これまで同様にうまくいかない盛り上がりに終わるのは分かっているけど
あのインチキ野郎のことを思うと
心が乱れて一睡も出来ない夜を過ごしている

「not slept a wink」は「一睡もしない、出来ない」
「half-pin」は「大したことない」
「on the blink」は「調子がおかしい」
とちょっと凝った表現が続きます。

もしヴァースを歌うのなら、このもどかしい感じを上手く表現して、本歌の切ない感じにうまく繋げたいですね。


ポイント4:女性による歌唱

ということで基本的には女性が歌うのが似合う曲です。下記以外にも沢山の女性歌手が歌っています。

Anita O'Day with The Oscar Peterson Quartet
1957年録音、あまりウブな女性には聴こえないAnita O'Dayのクセの強い歌唱。相手の男性を冷静に問い詰めているのかもしれません。


Lena Horne
1981年ライブ録音、1930年代後半から活躍していた歌手/女優のLena Horne。ヴァースの前にさらに語りで曲の背景を説明しています。


Linda Ronstadt
1986年録音、1970年には「米国西海岸の歌姫」としてポップスの大ヒットを連発した彼女は1980年代に入るとスタンダードジャズにも本格的に挑戦しました。透き通った若々しい声で歌うこの曲はせつない感じがすごく出ています。ジャズ歌手としては歌が上手過ぎて、しっくりこない印象もありましたが。


Sinéad O'Connor

1992年録音、彼女もポップス歌手のイメージが強いですが、スタンダードジャズを歌ったアルバムを発表しています。


Kristin Chenoweth

2016年録音、1990年代から活躍している女優/歌手のKristin Chenoweth。ミュージカル歌手でもあるので、すごく通る声ですね。


ポイント5:男性による歌唱

Rod Stewart, Cher
2003年録音、デュオで歌っています。役割分担する訳ではなく、男女それぞれが同じことをそれぞれに向けて歌っている感じ。


Boz Scaggs、2003年録音
まるで発音のお手本のような明瞭な歌い方。「He→She」と置き換えて歌っています。歌い切りで余韻を残して終わります。


Jeff Lynne、2012年録音
ELOのJeff Lynneがソロで歌っています


ポイント6:インスト

Denis Solee, Beegie Adair、2017年録音
ストリングスを加えた優雅なアレンジ


Brad Mehldau Trio
、2017年録音
テーマのメロディを語るように弾いています


Art Pepper、1957年録音
全盛期のArt Pepperによる「クール」な演奏。この頃もドラッグ中毒のリハビリを繰り返していたので、いつが全盛期なのか分かりませんが。


Paul Desmond, Jim Hall、1965年録音
終始抑制された上品な演奏


◼️歌詞


(Verse)
He’s a fool and don’t I know it
But a fool can have his charms
I’m in love and don’t I show it
Like a babe in arms

Love’s the same old sad sensation
Lately I’ve not slept a wink
Since this half-pint imitation
Put me on the blink

(Chorus)
I'm wild again
Beguiled again
A simpering, whimpering child again
Bewitched, bothered and bewildered am I

Couldn't sleep
And wouldn't sleep
When love came and told me I shouldn’t sleep
Bewitched, bothered and bewildered am I

Lost my heart but what of it?
My mistake, I agree
He can laugh but I love it
Although the laugh’s on me

I’ll sing to him each spring to him
And long for the day when I’ll cling to him
Bewitched bothered and bewildered am I



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