ISM 「ADAMO Prologue」をブロンプトンに
ここのところロングライドの練習で、毎週末に荒川や江戸川沿いのサイクリングロードを河口から終点まで往復していました。120~140kmを(ブロンプトンの速度なので)6~7時間かけて走っていると、100km未満のライドではあまり感じなかった問題が発生してきました。「尻が痛い」ことです。
いや、正確に言うと、尻ではなく、脚の付け根の内股と言うか、ようはデリケートなゾーンが痛くなりました。「会陰部」というらしいですね。
この部分が痛くなるのは、サドルに跨るポジションの影響が大きいそうです。日本では一般的に、スポーツ自転車のサドルには「骨盤を立てて、背中を曲げて」乗るのが正しい姿勢だとされています。たとえば、All aboutのこの記事など。
しかし記事作成者は腰痛持ちで、いわゆる「骨盤を立てる」ポジションを長時間続けていると、曲げている腰に嫌な痛みが走ってしまいます。そこで必然的に、ロングライドではサドルに対して「骨盤を寝かせる」ようにして跨り、背筋をまっすぐに伸ばすポジションをとっています。MTBライダー堂城賢さんの提唱する「おじぎ乗り」に近いポジションです(……と思いますが、堂城さんの「やまめの学校」に通ったわけではないので、自信はないです)。
このポジションでも、ハンドル・ペダル・サドルに体重を分散させていれば、ペダリングには問題なく快走することができます。ただ、上述のとおり、サドルに会陰部を押し付ける形になるため、長時間自転車に乗っていると内股にヒリヒリとした痛みが発生します。
ネットを調べてみると、サドルと股の痛みに悩む人は結構多いようで、この痛みを解消するために設計されたサドルもいくつか販売されていました。ブロンプトンの純正サドルは硬さ・幅の広さなどでバランスに優れたサドルでしたが、今回こうした経緯で買い替えとなりました。
内股の痛み対策のサドルとして評判がよかったのは、スペシャライズドの「ローミン」、セラSMPの「フォーマ」、ISMの「アダモ」などでした。どれも高ぇなチクショウ! と思っていましたが、ローディの先輩から次のような金言が。
サドルは自転車パーツの中でも特に「沼度」が高い部品である。
手頃な価格のサドルを買って、自分に合わないから買い替えるということを繰り返していると、際限のない「サドル沼」にハマって散財する。
むしろ、いきなり高いサドルを買って、一生付き合うつもりでサドルに尻を合わせたほうが結果的に安くつく。
そういうものか(流されやすい)。というわけで、上記の中でも比較的コスパの良さそうだったこちらのサドル……
ISM「ADAMO Prologue」を購入し、ブロンプトンに装着しました。ここからようやくISMサドルのインプレです。
ISMのサドルは、上の写真のとおり、二股に分かれたノーズ部分が特徴的で、この部分に跨るポジションをとります。後ろ半分は使いません。この形状からも一目瞭然のとおり、二股部分に坐骨を乗せる感じになるため、その中間にあたる会陰部は宙に浮き、圧迫感から完全に解放されます。取扱説明書に載っている断面図は下記のとおりです。
女性も基本的に乗り方は同じです。セラSMPやスペシャライズドの中間穴空きサドルが、通常の自転車サドルと同じ(近い)感覚で乗れる(であろう)ことに比べると、ISMのサドルは最初に跨った時の違和感が強いです。しかし、きっちりポジションを合わせてやれば、とても快適な乗り心地になります。細かくは乗りながら調整するしかないのですが、以下のようなポイントに気をつけてやれば、早くこのユニークなサドルに馴染めるのではないでしょうか。
・後ろ半分は飾りのため、前半分で乗ることを頭に入れ、通常のサドルよりも後ろ寄りに装着する
・坐骨の形に沿わせるために、通常のサドルよりも前下がりに設定する
いろいろ角度と位置を調整して、ピッタリくるところを見つけることができれば、最初の違和感が消え、「なんじゃこりゃあああ!」という松田優作ばりの感想が溢れてきます。尻から内股にかけてを、U字形のサドルに支えてもらっているような感覚で、骨盤を寝かせる姿勢や前傾姿勢でも、内股への圧迫感がまったくありません。会陰部の血流圧迫0%をうたうISMサドルの面目躍如といったところです。骨盤を立てるポジションをしない(できない)人にとっては、まさに待望のサドルなのではないでしょうか。
ただし、今までのサドルでは上記のポジションで、坐骨2箇所・会陰部1箇所の3点で体重を支えていたのに対して、ISMサドルでは会陰部が宙に浮き、坐骨2箇所のみで支えることになるため、どうしても坐骨が痛くなります。乗り始めてからしばらくは、30分も経たないうちに坐骨が悲鳴をあげるので正直、かなり参りました。公式の説明でも「慣れるまでは坐骨が痛いよ」と書かれています。
第一印象の違和感、最初に乗ってからしばらくの間襲ってくる坐骨の痛み、なによりサドル自体がカッコ良くない、というデメリットがあるため、ISMのサドルは「買ってみたはいいが、自分には合わないな」と思って使わなくなってしまっている方もいるのではないでしょうか? しかし、サドルを替えてから300kmほど走ってみた感想としては、次の一言に尽きます。
「大丈夫、慣れます」。
最初のころは、パッド入りのレーサーパンツを履いていても坐骨に痛みが来て辛かったのですが、我慢して走り込んでいると、だんだん痛みが薄れてきました。100km超えのロングライドを2回ほどこなした後では、パッドなしの下着で数時間跨っていても苦痛を感じない程度にまで、このサドルに馴染むことができました。サドルが尻をきっちり調教してくれた感じです(ひどい表現だ)。馴染むまではあまりサドルに体重をかけず、サドルにどっかりと座りこまず、ハンドルとペダルに体重を分散させるように心がけながら、ひたすら走りこむのが良いようです。
坐骨の痛みに慣れてしまえば、元から会陰部の痛みはゼロなため、とっても快適なサドルになります。ロングライドが多い人が根気よく付き合っていくにはかなり優秀なサドルと言えるのではないでしょうか。
逆に、骨盤を立てるポジションに慣れていて、そもそも会陰部の痛みに悩んでいない人にとっては必要のないサドルでしょう。サドル自体がかなり重い(公式発表で340g)、外見がスタイリッシュじゃないなどの問題点も多いため、人を選ぶサドルなのは間違いありません。しかしこの特異な形状は本当によく考えられていて、会陰部の痛みは完全に解消してくれます。その一点にどこまでメリットを感じるかが、評価の分かれ目になりそうです。
ISM「ADAMO」はいくつかの種類の製品が販売されています。それぞれ、サドルの前後幅の長さと、パッドの厚みが違っています。大きく分けて、サドルの前後幅が270mmのタイプと245mmのタイプがあり、前後幅が長いほうが走行中にポジションを変えやすく、短いものは一定のポジションで安定して乗り続けることができます。自分は前者かなと思い、シリーズの中でもっともパッドに厚みがある「ADAMO Prologue」を選択しました。
ひとまず今回、サドル沼にはまりこむことなく、良い相棒を見つけることができました。向こう数万kmほど付き合ってみて、また別のインプレッションがあれば追加しようと思います。