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≪短編≫『睡魔』との「負けたい」闘い

「どしたの?」妻が怪訝そうに、それでいて辿々しい声で尋ねる。
時計は午前1時10分。
「うん、ちょっと寝付けない。寝る前のヨーグルト 飲むの忘れた」
できるだけ小さな声で答える。
「冷蔵庫の一番上の」起きようとしながら発する妻の言葉を遮り
「上の段の右だよね。わかってる。飲んで寝るよ」
そう答える。
「ん、飲んだらすすいで空は捨ててね」
起きかけた彼女は再びベットに横になり布団をかけ直して、こちらに背を向ける。
「あぁ」
短く返す。
眠れないんだと言っても、それは意味のない言葉だから、言うことをやめて、黙って冷蔵庫を開ける。
いつの間にか飼い猫のクロが足下に来ている。
何かしらもらえるのだと思っているのか、足に身体を擦り付けてくる。
冷蔵庫を開け、上段の右端に丁寧に整列しているLG21乳酸菌入りの飲料を手に取る。
キッチンのメインの照明は消えていて、常夜灯的に点いているアイランドキッチンの手元灯。そこに開いた冷蔵庫の青白い明かりが広がる。

やっぱり寝てる途中で、胃袋にモノを入れるのは身体に負担かな?
冷蔵庫の灯りで新たな悩みが生まれる。

手に取った乳酸菌入り飲料を元の列に戻して、ドアポケットに作っている麦茶のポットをとり出して、クッキングテーブルの上に置いたグラスにそそぐ。

冷蔵庫を閉じると、灯りはクッキングテーブルの上の手元灯だけ。
自分の寝室に向かう途中
「おやすみ」
すでに居間のソファーベッドで寝息を立てている妻に、薄く声を掛ける。

さぁ、また今から睡魔を召喚し、負けるための戦いだ。
すでに睡眠導入剤も安定剤も1時間ほど前に戦線に投入している。あとは気持ちの問題だ…今度こそ、すなおに睡魔に下りて来てほしい。そして私を打ち負かして眠りの世界へ連れて行っ…


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