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アメリカ中西部政治学会で最優秀論文賞を受賞

筆者が2023年のアメリカ中西部政治学会で発表した論文が、「最優秀論文賞」に選ばれました。共著者はインディアナ大学ヒョンカン・フール准教授です。

論文のタイトルは「Politicization, bureaucratic closedness in personnel policy, and turnover intention(政治化、閉鎖型任用制度、離職意向)」。

官僚政治、行政学、公共政策といった分野での最も優れた論文に贈られるKenneth J. Meier Awardを授与されました。本論文はGovernanceから出版され、オープンアクセスとなっています。(link)

この論文は世界36ヶ国の公務員を含む世論調査データとQoG Expert Surveyのデータを組み合わせ、公務員の離職意向が官僚制度の特徴によってどのように異なるかを分析しました。

官僚・公務員の離職意向に関する研究は、過去のNote(実証研究紹介16 講演資料)でも触れていますが、査読付き学術誌においては実証研究が蓄積され、学術と実務の両面で注目を集めている重要なトピックです。

これまでの研究では、主に1)離職や離職意図に繋がる要因の特定、2)離職が組織のパフォーマンスに与える影響の2つの視点から研究が行われています。今年初めに公表されたメタ分析論文(Hur, Hyunkang, and Abner, Gordon. 2023(link) )は、これまでの研究結果を統合し、公務員の離職意向の予測要因について包括的な分析を行っています。

従来の離職研究では、主に個人レベルや組織レベルの要因が強調され、政治的な要因があまり考慮されていませんでした。また、従来の研究は一か国のみを対象としていたため、国のよって異なる官僚制度が公務員の離職意向にどのような差異を生むかについての理解は進んでいませんでした。

私たちの研究は、公務員の離職意向が国によって異なり、その背景として官僚・公務員制度の特徴が統計的に優位に関係している可能性があるのではないかという疑問からスタートし、実証研究を行いました。これにより従来の研究では見落とされていた要因が浮かび上がり、公務員の離職意向に影響を与えるメカニズムを探る手がかりとなるのではないかと考えました。

世界各国を比較した結果、離職意向が平均的に低い国はスペイン、日本、スロベニア、クロアチア、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、ベルギー等。離職意向が高い国はメキシコ、フィリピン、ベネズエラ、フランス、南アフリカ、デンマーク、イスラエル、インド等であることが分かりました。

対象サンプルにおける離職意向、政治化、公務員制度の閉鎖性

しかし、世界中の公務員が同じような官僚・公務員制度で働いているわけではないことに注意する必要があります。先行研究が指摘している通り(参照1 参照2)、各国の公務員の採用や昇進、そして人事制度は大きく異なっており、多くの日本人が想像するような新卒採用型の公務員制度は、実際にはさまざまな形態の一部に過ぎません。

公務員制度を比較するにあたって注目したのは、人事制度の2つの側面です。一つ目は、人事制度が閉鎖型か開放型か。閉鎖型は新卒中心。終身雇用が基本で、中途採用が例外となり、官民の人材流動性が低い形態です。対照的に、開放型は職種別採用中心で官民の人材流動性が高い仕組みです。二つ目は、公務員人事への政治介入や政治的影響力の高さ。国によって、公務員が資格やテスト等の客観的な結果で採用されるのか、政治的なつながりや忠誠心等で採用されるのかが異なります。

分析の結果、閉鎖型の公務員制度では、予想通り職員の離職意向が低くなることが分かりました。これは、終身雇用が基本で中途採用が例外の状態が、公務員の安定感や組織への帰属感を高めている可能性があります。また、閉鎖型公務員制度では職員の組織に対する継続的な組織コミットメントが高いという筆者の他の論文での結果とも一致します。

二つ目の公務員人事への政治介入や政治的影響力の高さとの関係について、これまでの研究では、公務員は公務において政治的な影響力の増加や政治的な人事介入を好まない傾向が示されています(参照1 参照2)。そのため、私たちは政治的な影響力の高い国では公務員の離職意向は高まりやすいと考えていました。しかし、仮説に反して、政治的な影響力が高い制度で働いている公務員は、むしろ離職意向が低く、現在の職場を去ることを考えない傾向が強いことが分かりました。

この予想外の結果について、今後の研究では、この背後にある要因やメカニズムや要因を明らかにしていく必要があります。おそらく、政治的な忠誠心やコネクションに基づいた政治的な情実任用で採用された職員は、組織に対して強い忠誠心を抱き、それが離職意向の低さに繋がっている可能性が考えられます。

公務員の離職に関する実証研究は、日本では公務員の担い手不足が課題となり、アメリカではトランプ政権による公務員改革案が再び議論されているなど、学術研究、実務において重要なトピックとなっています。今後も更なる研究が期待されます。

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