アジア諸国の公務員の情実任用に関するウェビナー資料
先日、南アジア行政ネットワーク(South Asian Network for Public Administration)主催のウェビナーが開催されました。このウェビナーはアジア諸国の公務員の情実任用に焦点を当てたもので、アメリカ・ピッツバーグ大学のGuy Peters教授が編纂した「Political Patronage in Asian Bureaucracies」(アジア諸国における公務員の政治的情実任用)(ケンブリッジ大学出版会)の出版を記念して行われたものです。私はパネリストとして招かれ、アジア諸国の公務員制度について発表しました。英文資料はこちらです。
Peters教授の本にも書かれているように、政治的な情実任用とは政治家が公共セクターの要職に自己の裁量で人材を任命することを指しています。先日のNoteでも触れましたが、公務員の採用は通常、行政の中立性を保つために資格任用制が基本で、政治的な信条やコネクション等とは関係なく資格や実力、学歴等で採用されます。しかし実際には、日本では限られていますが、他の国では政府は大臣の補佐官やアドバイザーなど政治的な要職の職員だけでなく、政治的な情実任用を通じて政党の職員、専門家、利害関係者などを政府の一員として採用しているケースが見受けられます。
この本ではアジア諸国での具体的な政治的な情実任用事例に焦点を当て、シンガポール、インド、台湾、韓国、中国、ベトナム、日本などが調査対象となっています。アジア諸国の政治家と官僚・行政との関係、情実任用については研究蓄積が少ないため、大変貴重な研究となっています。
ウェビナーでは、私は国際比較の観点から、アジア諸国の公共セクターの特徴について発表しました。主な指摘点は以下の通りです。
アジアの公共セクターは概して閉鎖型の人事制度を採用している: 新卒採用、終身雇用、官民の人材の流動性が低い閉鎖的な人事制度を採用している国が多く見られます。
閉鎖型の人事制度が多い国はアジアが大半: 世界で閉鎖型を採用している国々の大半はアジア諸国となっています。日本、ネパール、バングラデシュ、インド、ベトナム、韓国、スリランカ、中国、インドネシア、台湾、香港、タイなど。
情実任用が多い国と少ない国: 中央アジアのキルギスタン、ウズベキスタンは多く、逆にシンガポール、香港、台湾、韓国、日本、インドは少ない。
閉鎖型の人事制度下でも情実任用が多いケースが見られる: 閉鎖型の人事制度では政治家の裁量で採用できる人材が少ないはずが、実際にはそうなっていないという矛盾が存在する。
このウェビナーではアジア諸国の行政における情実任用の実態やその影響について深く議論されました。