尖った監督で仕切り直す『マイティ・ソー:バトルロイヤル』
尖った監督の手腕で、面白みのないキャラクターをクールでお茶目に大変身。シリーズ仕切り直しのテコ入れ作。
『Thor: Ragnarok』★★★☆。(星4ツで満点。白☆は1/2個。)
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)17作目のスーパーヒーロー映画は、2011年と2013年公開の『マイティ・ソー』シリーズ3作目。『マイティ・ソー』はケネス・ブラナーによる無難な「イントロダクション・ムービー」として機能した。しかしアラン・テイラー監督の2作目『マイティ・ソー/ダークワールド』はナタリー・ポートマンらキャストの扱いにくさと相まって、「ソー」らしい物語の主軸を掴むのに悪戦苦闘。結局2作とも、MCU内では完成度の低いシリーズの烙印を押されている。
本作は2016年の『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』で不在だったソーと、予告編でも登場するお馴染みのスーパーヒーローが主役。ピンで物語を転がすには役者不足なイメージの2人を引きあわせて、新しい化学反応を触発している。監督は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』(2015)共同監督や、『モアナと伝説の海』の脚本にも携わったニュージーランド人監督、タイカ・ワイティティ。
興行では12月までに米国内$294M(300億円超)、国外$526M(580億円弱)の計$820Mを叩き出し絶好調。制作費$180Mと報じられているが、『マイティ・ソー』シリーズでも最大のヒットとなっている。
[物語]
地球ではキャプテン・アメリカとアイアンマンが二極対立構造を激化させている頃、アベンジャーズの一員、ソー(クリス・ヘムズワース)は父王オーディン(アンソニー・ホプキンス)が治める九つの世界の平和のため、各地で伝説のハンマーを振り回していた。ところがソーは、死んだはずの弟ロキがいまだ暗躍し、オーディンを追放した上、王権を意のままにしていたことに気づく。ロキを連れ、オーディンを呼び戻すべく捜索をはじめるソーだが、折しも兄弟の「姉」を名乗る女が登場。アスガルドの正当な王位継承者を宣言する、ヘラ(ケイト・ブランシェット)の恐るべき力とは?
[評価]
『バトルロイヤル』で評価されていることの多くは、シリーズ前2作で都合の悪い要素をすべて切り捨てたことに起因している。メインキャラクターのバックストーリーは、ここへきてほぼ換骨奪胎したに等しい。一作目に登場した、ソーの腹心「三勇士」たちも一掃。過去作から生き残ったのは、義理の兄弟であるロキ(トム・ヒドルストン)と、ビフレストの番人ヘイムダル(イドリス・エルバ)、そして今作は指で数えるほどのシーン数に出た、アスガルド王オーディン(ホプキンス)くらいのもの。悲しきかな、我らが浅野忠信も今作で無念の退場を強いられる。
それでいて皮肉なことに、物語の大筋の構成は第1作とほぼ同じだ。僻地へ追いやられ、課題を解決するために仲間を集い、舞い戻り、そして自らについてを学び、成長する。そんな中、改めて「神はディテールに宿る」を証明するのは本作のトーンであり、テンポであり、そしてソツのないアクションだった。『アベンジャーズ』で「笑いを取れるマッチョ」のキャラクター像を打ち立てることに成功したシリーズは、その特徴を前面に押し出して本作を乗り切った。
「コーグ」の声の出演も果たしたタイカ・ワイティティ監督の笑いの間は、シーンの腰を折らないことに強みがある。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでメガホンを握るジェームズ・ガン監督などが「ドラマの息抜き」にアンバランスなほどのジョークを折り込むのに対して、本作はコメディのセットアップをドラマと適度に切り離す。笑いはショットの構成で組み立てて、割りきる。言ってみれば正攻法なアプローチを用いるので目立たないようだが、笑いのキレが良いので楽しさが増す。
手堅さが、新しい領域に踏み込むキャラクターたちを際立たせる。もちろん、前2作なくして存在しえなかった作品だということを差し引かなければならないけれど、ポップコーン映画としては申し分のないヒーロー映画。
余談だが、本作の終盤で導き出される「ヒーローたちの結論」は、痩せた土地で生きてきたヨーロッパ人特有の思考だ。自然に飲み込まれ、環境と共生してきた民族からすると、絶対的な共感度が薄いことに気づかされる。文字通り、本編の挿入歌レッド・ツェペリン「移民の歌」こそがふさわしい物語なのかもしれない。
[クレジット]
監督:タイカ・ワイティティ
プロデュース:ケヴィン・ファイギ
脚本:エリック・ピアソン、クレイグ・カイル、クリストファー・ヨスト
原作:「ソー」スタン・リー、ラリー・リーバー、ジャック・カービー
撮影:ハビエル・アギレサローブ
編集:ジョエル・ネグロン、ゼイン・ベーカー
音楽:マーク・マザーズボー
出演:クリス・ヘムズワース、トム・ヒドルストン、ケイト・ブランシェット、アンソニー・ホプキンス、イドリス・エルバ、テッサ・トンプソン、ジェフ・ゴールドブラム、マーク・ラファロ、カール・アーバン、浅野忠信
製作:マーベル・スタジオズ
配給(米):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(日):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(他):N/A
尺:130分
ウェブサイト:マーベル公式HP
北米公開:2017年11月3日
日本公開:2017年11月3日
鑑賞日:2017年11月4日11:00〜
劇場:Burbank Main Theater