【Dialog In The Dark】日常では体験できない本当の暗闇。
私は子供のころから寝つきが悪い。就寝時には確かに目をつむっているはずなのに、どこかその暗闇であるはずの目の裏側を見ている気分になってくるのだ。まるでテレビの砂嵐のように黒くザラザラとした質感を見ているとあっという間に数時間たってしまっている。
皆さんは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という体験型イベントを知っているだろうか?
ダイアログインザダークとは、光がなく自分が今どこにいるのかもわからない空間で、視覚以外の五感を使用しながら暗闇で過ごす体験型エンターテイメントだ。
1988年、ドイツの哲学者アンドレアス・ハイネッケによって発案され、今では世界41カ国、延べ900万人以上が参加しているらしい。
私は作家である村田沙也加さんが書かれているエッセイの体験レポートでこの存在を知った。村田さんの作品は、今まで持っていた既存の価値観をぶっ壊してくるような刺激的な内容の作品が特徴で、読後はどっと体力を削り取られる、そんな作品を書く作家さんだ。
そんな作品を生み出す方と同じ体験をしたら自分はどのような感想を持つのだろう。そんな好奇心から帰国時には絶対に参加しようと思っていた。
今回は、大学時代の同級生を2人誘い3人で参加。回によって全体の参加人数は異なるが、私たちは和歌山県から東京へ旅行に来た5人組の男女グループと一緒になった。
荷物や携帯をすべてロッカーにしまい込み、
「十五時四十分参加の方~」
の掛け声でエントランスホールへ向かう。
すると裏の方からカチカチッという音を鳴らしながら白杖を持った男性がゆっくりと歩いてきた。エントランスの隅、ちょうど私たち8人の中心あたりで静止し、
「初めまして、今回アテンドさせて頂くナギと申します。」
と挨拶をした。
私含め皆いきなりのことで戸惑い、ポツポツと挨拶を返す。
するとすぐに一人一本白杖を渡されて、早速目の前の小部屋に案内される。
この時点では、今からどんなことが始まるのか興奮と緊張で心臓がトクトクとなっていた。
最初の部屋は小さな豆電球をついており、まだぼんやりと参加者全員の顔が認識できるくらいの空間だった。基本的な注意事項が伝えられた後、ナギさんの合図でゆっくりと証明が落ちていく。
フッと照明が消えた瞬間、そこには完全な暗闇が広がっていた。
その瞬間、初めて本当の暗闇を見ているとしっかりと認識ができた。
目を凝らしても目をつむってみても何一つ目の前に広がる世界が変わらない。
先ほどから感じていたワクワクの心臓の鼓動が、恐怖から来る鼓動に変わっていた。
「さぁ!皆さんどうですか~?」
とナギさんの暗闇に似つかわしくない明るい声が聞こえてくる。
その瞬間私は息を止めていたことを思い出し慌てて息を吸った。
ここから先はネタバレになってしまうので、詳しい体験内容は記述せずに行こうと思う。
参加中はとにかく視覚以外の「聴覚・嗅覚・触覚・味覚」をフルに使う体験内容が盛り込まれている。
参加者たちは、まず最初に全く見えない暗闇の中で自己紹介をするのだが、そこでこの時間に呼び合うニックネームを互いに決める。皆、苗字、名前、あだ名や動物の名前などを順番に発表していく。
そもそもニックネームというのは、相手との仲の良さを示したり、相手を覚えやすくするために使用するものであるように思えるが、今回は全く知らない相手と相手の顔が全く見えない状態である。
そのため、これが驚くことほどにニックネームが覚えられないのだ。
声の高さの違いや声色などで覚えようとするのだが、どうもうまく頭に入らない。人の識別にも普段の生活で視覚にどれだけ頼っているのかを再認識した。
体験中は、ナギさんの案内を頼りにみんなで手探りで移動をし、体を使ったゲームや暗闇で本当にできるの?といったことに挑戦していく。どれも絶対に一人ではできない内容で、参加者同士で協力しながら課題をクリアしていく。
すると気が付いたころには、不思議と暗闇の中でも参加者全員の識別ができるようになっているのだ。
私が最も頼りにしていたのは嗅覚で、その人の使う香水の匂いや服についた柔軟剤の香りなど嗅覚と記憶を結び付けて相手を認識していた。私にとって非常に面白い体験で、自分が匂いに敏感であることにも驚いた。
体験も終盤に差し掛かり、広場(暗闇なのでおそらくそのような場所)にレジャーシートを敷いてみんなで休憩をとる。バスケットから一人一本紙パックの飲み物を渡されるのだが、口に入るまでは何味かわからず口に入った瞬間は少しびっくりする。
私はリンゴジュースだったのだが、暗闇だからかこんなに甘かったっけ?と思うほど味覚が鮮明になっているのがわかった。
(今度からリンゴジュースを飲むときは目を閉じながら飲んでみよう)
約90分間の暗闇体験が終了し、外へ出た。
ぼんやりと眼が光に慣れ始め、参加者の顔が見え始める。さっきまで暗闇では認識できていたのだが、いざ対面してみると誰が誰だか全くわからない。思わず、
「初めまして…笑」と声をかけてしまった。
改めて暗闇で呼び合っていたニックネームで自己紹介をし、自分のイメージしていた見た目とのギャップに驚く。
(え!すごい優しい声なのにめっちゃ髭はえててイカついじゃん!?など)それでも会って2時間しかたっていないとは思えないほどの心の距離感であり、その初めての関係性がなんだか心地よかった。
以上がダイアログインザダークの体験レポートである。
この記事を読んで少しでも興味が出た人は是非体験してほしい。
そしてその感想を私に教えてほしい。
日常生活では絶対にできない暗闇体験をしたあとの世界は、
絶対に違うものになっているはずだ。
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