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マングースの根絶に向けて~沖縄島編~

(こちらは以前のブログからの移植記事です)

2021年8月28日~30日に日本哺乳類学会に参加をしました。
哺乳類研究の最前線に触れることができ、とても刺激的な時間でした。
今年は新型コロナウイルスの影響でオンライン開催だったため、気軽に自宅から参加できたこともあり、学生や野生動物の保護管理に関わる地方自治体の参加者が例年よりも多かったです。
今回の話題は学会のセッションでも取り上げられた、世界規模でホットな話題「沖縄島のマングース」をピックアップします。

マングースとは?

皆さんはマングースをご存じでしょうか?
名前だけは聞いたことがあるかもしれません。
マングースは、アフリカ大陸から東南アジアに広く生息する食肉目の哺乳類です。
正確には科の名前であり、種類は30種以上もいます。
そのマングース科の中で日本に人為的に導入されたのが、西アジアから東南アジアにかけて分布するフイリマングース(Herpestes auropunctatus)です(これより先の文で出てくる「マングース」は基本的には「フイリマングース」を指します)。
日本に導入されたマングースは近縁種のジャワマングース(Herpestes javanicus)とされていましたが、2007年に発表された研究により、実は別種であるということが明らかになりました。
そのため、古い文献ではジャワマングースと記載されています。
マングースは昼行性で、食性は雑食性です。
地上を徘徊する昆虫や小型の脊椎動物、果実などを採食します。
そのため、当初はサトウキビの食害を起こすネズミや人に害をなすハブの駆除目的で導入(生物的防除といいます)されました。
しかし、マングースはハブを捕食せず、日本固有の在来種であるアマミノクロウサギやアマミトゲネズミ、ルリカケス(いずれも天然記念物)などを捕食する結果となってしまったのです。

このマングースは1910年に沖縄島、1979年頃に奄美大島に導入されました。
日本以外でも西インド諸島を始めとする世界各地の島々で導入されましたが、その食性により島々に生息する希少な生物が捕食されてしまい、生態系が破壊されています。
そのため、IUCNが定めた世界の侵略的外来種ワースト100に指定されており、日本でも2005年度に特定外来生物に指定されるほどです。
また、日本に導入されたマングースは沖縄島と奄美大島に生息していますが、それぞれの島における状況が異なっています。
今回は沖縄島における導入当初の状況から、現在までを整理しましょう。

沖縄島での導入から現在

マングースの導入は、東京帝国大学の教授であった渡瀬庄三郎(1862~1929)が1910年に沖縄島南部を中心に13~17頭を放獣したのが始まりです。
放獣後、分布域を徐々に拡大していき、1978年には北部の名護市周辺にまで分布を拡げました。
マングースはそこからさらに分布域を拡大し、1990年ごろには沖縄島北部のやんばる地域にまで到達しています。

マングースの分布の変遷 (マングースの分布情報・資料より作成)

導入の当初は、ハブやネズミを捕食してくれると期待をされ、島民からは救世主扱いをされていました。
なぜなら、当時の沖縄の主たる産業はサトウキビの栽培だったため、食害を起こすネズミやその作業中に出てくるハブは島民にとって非常に困るものだったのです。
しかし、マングースは期待通りの働きはせず、生態系や農作物被害などを徐々に生じさせてしまうことに…。
導入から2000年ごろまで、マングースによる農業被害の実態については明らかでない状態が続きましたが、のちの調査で約20戸の養鶏場においてマングースによる食肉鶏や採卵鶏への被害が確認されました。
また、バナナやパイナップルへの食害といった農作物被害も確認されたそうです。
こうした被害を出しながら、当初は数頭だったマングースは、2000年を過ぎるころには推定3万頭にまで個体数を増加させました。

生態系への被害

マングースによる生態系への被害を明らかにするために、様々な調査が実施されています。
マングースが捕食した生物の調査もその一つです。
手法としては主に捕獲されたマングースを解剖し、摘出した消化管内容物から複数の動物種を検出する調査が実施されています。
調査の結果、ワタセジネズミやキノボリトカゲ、オキナワアオガエルといった沖縄島に生息する固有種が多数捕食されていることが明らかになりました。
また、マングースの分布域の拡大に伴った、動物の個体群の動態が調べられています。
ある調査では、マングースの分布域拡大の結果、1986年から2000年までの15年間でヤンバルクイナの分布域が25%、推定生息個体数が33%減少したという結果が示されました。
こうした数々の調査結果から、マングースの導入によって沖縄島の生態系にはとてつもないインパクトがあったことがうかがえます。

防除の開始

マングースによる農作物や生活、生態系への被害が明らかになり、2000年から沖縄県による対策、2001年からは環境省による対策が始まりました。
当初は「捕獲罠」を用いた生け捕りでの捕獲を進めていましたが、大きな成果は得られず…。
2007年にはマングースによるこれ以上の北上を防止するための北上防止柵(SFライン)が設置され、防除地域の有限化が試みられました。
2008年には作業の効率化のために「捕獲罠」から「捕殺罠」へと切り替わり、その年には560頭のマングースを捕獲することができたとされています。
さらに、翌年の2009年にはマングース探索犬が導入され、今に至るまで活躍をしています。

現在

2013年には、捕殺罠で172頭の捕獲、探査犬による27頭の捕獲が実施されました。
この時の捕獲数はピーク時(2007年)の約1/3程度です。
罠あたりの捕獲数も減少、捕獲範囲も減少し、マングースの個体数減少、分布域の縮小が考えられます。

沖縄奄美自然環境事務所の公表する直近の資料によれば、沖縄島における令和元年度マングースの捕獲数は39個体です。
また、直近の数年間を見ても沖縄島北部における捕獲数は減少してきており、沖縄島に生息するマングースの個体数は減少していることがうかがえます。

SFライン以北のマングースの捕獲数と捕獲メッシュ数の年度別推移 (出典:「令和元(2019)年度沖縄島北部地域におけるマングース防除事業の実施結果及び令和2(2020)年度計画について 」より作成 )

沖縄島北部では順調に個体数が減少している一方、南部のほうではまだまだ対策がうまくいっていません。
現在北部で実施されている規模の捕獲罠の設置を南部にまで広げることは、労力がとてもかかるからです。
そのため、現在は希少種が多く生息する沖縄島北部を中心に根絶に向けて捕獲が進められています。
しかし、南部でも捕獲を進めないと、南部から北部へのマングースの再侵入が生じてしまいかねません。
したがって、今後も少なくとも今と同じレベルの捕獲を続けていかない限り、現状維持をすることはとても難しいと考えられています。

まとめ

沖縄島におけるマングースの現状をまとめると以下のようになります。

・島の北部での個体数減少

・現状維持を続けるには島北部での地域的根絶が維持できるかがカギ

・島の南部からの再侵入防止

まだまだ沖縄島でのマングースの根絶宣言までの道のりは長そうですが、同じくマングースが導入された奄美大島では根絶を宣言できるまで秒読みの段階に来ています。奄美大島のマングース根絶へ向けてのまとめはまた別の回にまとめようと思います。

参考文献

・金子之史. "渡瀨庄三郞による沖縄島へのフイリマングース導入に関連する 1910 年前後刊行の外来種文献の史料的検討." 哺乳類科学 61.2 (2021): 129-160.
・小高信彦, and 渡久地豊. "沖縄島北部におけるフイリマングースの定着地域と非定着地域における人工地上巣への捕食圧および捕食者相の比較." 日本鳥学会誌 69.1 (2020): 19-30.
・小倉剛, et al. "沖縄島北部に生息するジャワマングース (Herpestes javanicus) の食性と在来種への影響." 哺乳類科学 42.1 (2002): 53-62.
・与儀元彦, et al. "沖縄島の養鶏業におけるマングースの被害." 沖縄畜産 41 (2006): 5-13.
・Veron, Geraldine, et al. "Systematic status and biogeography of the Javan and small Indian mongooses (Herpestidae, Carnivora)." Zoologica Scripta 36.1 (2007): 1-10.

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