
グイグイくるあいつに仕返ししてみた!
「なぁ、部屋番号教えてや~?」
昼休み。俺が教室の窓際で弁当を広げていると、目の前に幸阪茉里乃が立っていた。
「またか、お前」
「え、だって気になるやん?」
「俺の部屋番号知ってどうすんねん」
「そりゃもちろん、夜に突撃しに行く!」
「ストーカーか?」
「え~、そんなこと言わんとさぁ」
幸阪はにこにこしながら、俺の弁当の中身を覗き込んできた。
こいつは、いつもこうやって俺に絡んでくる。最初はただのノリのいい女子やと思ってたけどここ最近、なんかしらんけど妙に距離が近い。
──昨日だってそうや。
「なぁなぁ、今度の日曜、暇?」
放課後、俺がカバンを肩にかけた瞬間幸阪が隣にすり寄ってきた。
「別に、特に予定はないけど?」
適当に返すと、幸阪はニヤッと笑う。
「じゃあデートしよっ!」
「は?」
「遊園地とかどう? 絶叫マシン好き?」
「いやいや、なんでデートやねん」
「え、ノリで?」
俺は一瞬、言葉を失った。
こいつ、ほんまにノリで全部済ませるつもりか? いや、待てよ。これ、もしかして冗談っぽくしてるだけで、本気の誘いなんか?
「……もしかして、お前、俺のこと好きなん?」
そう聞いてやろうかとも思ったけど、なんとなく気恥ずかしくてやめた。
結局、「また今度なー」と適当に流して帰ったんやけど──
「つか、お前さぁ、俺のこと好きなん?」
今日、ついに口に出してしまった。
「は?」
幸阪の動きが一瞬止まる。
「な、なに?」
「いや、あんまりにも絡んでくるからな。気になっただけや」
俺が肩をすくめると、幸阪は珍しく目を泳がせた。
「いや、ほら、そういうんじゃなくて……ノリ? みたいな?」
「ノリで部屋番号聞くんか?」
「ち、違うって!」
「ほんならガチで好きなん?」
「~~~っ!!」
幸阪の顔が真っ赤になった。
「べ、別に……」
「別に?」
「その……嫌いじゃ、ない……かも?」
「あー、なるほどな。俺のこと好きなんか」
「違っ……うぅぅぅ!」
幸阪は頭を抱えて、くしゃっと顔を歪める。
「なにこの空気!? いつもと違う! なんで私が攻められてんねん!?」
「いや、お前がいつもやっとることを返しただけやけど」
「ぐぬぬ……!」
悔しそうに唇を噛む幸阪。こいつ、ほんまに攻められる側に弱いんやな。
「そっか、俺のこと好きなんやなぁ」
「だから違……っ! え、え、でも……もしかして……」
「ん?」
「……冗談?」
「さぁ、どうやろな」
俺はにやっと笑って、幸阪の目を見つめた。
「お前がいつも俺にやってることやで?」
「ぐ、ぐぅぅぅぅ!!」
幸阪は歯ぎしりしながら、悔しそうに拳を握りしめる。
「今日は負けた……!」
「おー、認めたか」
「でも明日はまた攻めるから!」
「へぇ、そんときは俺も逃げへんで?」
「っ~~!! ばか!!」
そう叫んで、幸阪は教室を飛び出していった。
──昨日までの俺なら、適当に流してたかもしれん。でも、今はなんとなく、このやりとりが楽しいと思ってる自分がいる。
明日からの攻防戦が、ちょっと楽しみになってきた。