美容師という仕事に就いて
初めまして。元美容師の33歳男です。
これから書く内容は、美容師という仕事の両面を僕が知っている限りで書いていくので、もしかしたらこれから美容師になろうとしているor現在美容師をしているあなたの心を深く傷つけるかもしれません。
また、現在美容師の方からすれば「元」美容師が何言うてんねん!と思う方もいるかもしれません。
しかし、素晴らしい仕事でありながら、みんなが思うような部分だけではないという事も知って欲しい。そしてこれを見たあなたがどう感じたかも是非コメントなどで頂けると嬉しいです。
※この記事は主に美容師のアシスタントの話が主になります。
①給料面:初任給は良くて15万円、そこから練習用のウィッグ代やカラー材、仕事用の服が引かれる
昔、美容学校にいた時に先輩から「美容師の一年目にとってマクドナルドはご馳走だ」と聞かされていましたが、本当でした。15万円の給料から健康保険やら厚生年金をさっぴかれて手取りは12万円ほど。スタイリストになるためのウィッグ(マネキン)や修行にかかるお金が最低でも1万円はかかっていた。さらに携帯代が1万円、家賃が7万円で食費などを考えると、完全に自由に使えるお金は1万円〜1万5000円くらい。
給料日の時点で、その月に使えるお金が分かる。飲み会とかが多い月は破産寸前というか、1ヶ月間は節約に節約を重ね、自炊に自炊を重ねてやっとこさ1ヶ月を乗り越える。そしてまた給料日には1万円くらいの残りで靴やら服を買うために色々と工夫をこなす。友人の中には手取りの時点で9万円という人がいた。
②勤務時間は一日13時間〜15時間で、残業代は全く出ない。昼ごはんは遅いと18時or無し
朝練があったりして、8時に店に行き練習をする。そこから店の掃除→営業が始まってほぼ一日立っぱなしで仕事を終え、終礼で反省会があれば21時から練習を開始し、23時頃にようやく皆が帰り支度をし、家に帰れる。自宅に着くのは24時。これならまだ早い方だ。そこからお風呂に入ったり、夕飯自宅をして自分の時間を過ごす。自分の場合は急いで色々やったとしても寝るのは午前2時か、遅いと3時。起きるのは朝の6時半で7時20分の電車に乗れば間に合ったので4時間くらいは寝れた。都内勤務の自転車通勤の友人は2時まで練習して、帰って玄関で寝てしまうような毎日を送る人が何人もいた。その友人は何人かの他の友人に寝ながら自転車に乗っているのを目撃されている。笑
③モチベーションを保つのがとても大変
美容師と言っても最初からお客様に触ることはできず、いろいろなテストをクリアして、店からOKが出たらようやく美容師っぽい事ができるようになる。私がいた店は床の掃き方からカットクロスの付け方まで全てにテストがあった。カラーなどの待ち時間に雑誌をチョイスしてお客様に渡すことも大事な仕事だ。しかし、シャンプーもまだ出来ない、お客様と話す事も出来ないとなると「何のために美容学校を卒業して、ここに来たんだろう。雑誌を配るために美容師になったわけじゃないのに」おまけに給料は雀の涙・・・。それだけならまだしも理不尽な先輩の言うことに疑問を感じ、小さなことでも厳しく怒られる毎日。睡眠時間も少ないのに土日は休憩さえ取れず、昼食は18時になったり19時になったり。月の休みも4日〜8日で、火曜しかない貴重な休みを講習に使ったりすることもある。睡眠も足りておらずお金もなく、時間もないのでよっぽど楽しくないと続けられない。
④体に異常が出はじめる。耳が聞こえないとか、手荒れ等
①〜③で述べたように、過酷な環境で働くと、体は慣れてくる。と勘違いする。実際は慣れてるのは脳だ。慣れた気になって順調に仕事を続けていると、突然体がおかしくなったりする。同期の一人は突発性難聴を起こし、原因はストレスだった。自分の場合はお金がないわりに摂取カロリーを多めにとろうと思って安価で高カロリーなものなどを食べていたせいで病気になり、そのせいで立ち仕事が出来ない体になった。手荒れが酷すぎて退職する人も沢山いた。
⑤殴られるとかしょっちゅう。時には吐血したりも。
大袈裟な話ではなく、読んで時の如く殴られることもある。自分は大嫌いなスタイリストのアシストをしていて、あまりの緊張で顔が強張っていたせいで「顔が硬い」と言うや否やお客さんの見えるところでバチンと張り手を喰らった事もある。体育会系のノリというか、他にもお前はお客さんに本を出すだけの本屋か?美容師なのにシャンプーも出来ないのか?と好き放題言われていた。「いつか覚えてろ」とその時は思っていた。都内の有名店で働いていた友人はバックヤードで殴られたり、ストレスで吐血したりしていた。理不尽すぎる友人のエピソードは、あまりの劣悪な環境に耐えかねてバックれた同期の代わりに社長にヘルメットで血塗れになるまで殴られたという話だ。ボコボコに腫れた顔でフロアに立たされるのは想像しただけでも辛い。
⑥出会いは無限にある
お金と時間がない代わりに異性との出会いは溢れている。運が良ければ芸能人と付き合う事も出来る。それはレアケースだが、女性が毎日のように来る美容室では時にお客様との壁を破ってしまう美容師も少なくない。というか美容室は信号機より多い。なので平均値を取ってもお客さんと一度は関係をもってしまった美容師は過半数いるだろう。お客さんと結婚する人も多くいて、その他は学生時代の同級生か、同じ店のスタッフと結婚するケース。それ以外はあまり聞いた事がないが、時間がないので出会いなんて期待はできないと見た。スタッフ同士の交際、結婚は意外と多く、毎日のように顔を合わせて、お互いが切磋琢磨し頑張っていると、不思議と恋心を抱くようだ。あと美容師♂はモテると思われるようだが、もちろんこれは人による。髪も上手く切れないし話も面白くない上に息が臭かったらモテるわけがない。しかしある程度の条件をクリアすると、顔もカッコよくない背も低い私のような人間でも、それなりにいい思いをした。もし今も美容師なら、きっと結婚はしてないと思う。
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…とまあここまで読んでいただいた人には美容師という仕事の大変さが少しは伝わったと思う。上記の話の内容は10年以上前の話なので、今はそこまで酷い美容室はないと思うが、あの頃は戦場のような職場だった事は事実だ。俺に嫌がらせをしていた人たちは不思議と片っ端からみんな辞めていった。辛い辛い1,2年の間には、あまりに理不尽に責め立てられ荷物を全部持って店から出ていったこともあったし、本気で悔しくて泣いた事もあった。仕事が嫌すぎて休みの日も1日落ちていた事もあった。しかし、そんな過酷すぎる環境の中で何がそこまで自分を鼓舞したのか?美容師という仕事の素晴らしさをここからは書きたいと思う。
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【一生の関係になれる出会いがみつかる】
美容師という職業は、お客様の一生のイベントに付き添うことが出来る仕事だ。初めて会った瞬間から1:1で鏡越しの関係を何年にも渡って築いていく。
会った時に学生だったその方が就職した時にも美容室にくるし、恋人にプロポーズをする時、結婚が決まった時、結婚式の前、子供が生まれた時、子供の初めてのカットをするためにも美容室にきてくれる。そんな人が突然の転勤で引っ越してしまう事を知った時は、本当に目頭が熱くなった事もある。普通の仕事をしていたら、きっとそこまでの深い中にはなっていないだろう。その時だけで終わりなのが普通のことだ。でも3ヶ月に一回、半年に一回と特別な時間を過ごすために自分に会いにきてくれて、しかもお金を払ってくれるのだ。こう言った仕事は中々ないだろう。
日々の生活は大変だけど、スタイリストになると自分の技術や接客を選んで自分を指名して店にきてくれる方も増えるし、アシスタントの時のようにずっと立ってる事もなくなったり、給料も増える。自分のスタイルで働ける。それだけが一つのモチベーションであり、自分のエゴなんだと思う。目指す道と一緒に泣ける仲間がいれば、辛い話もいつかは笑い話になる。実際に自分も当時の同期とは今も飲みにいく。その同期は専門学校からの親友で、今では私が辞めたその美容室の店長に就任し、なんと共通の先輩と結婚し、長男も生まれ幸せに暮らしている。
前半はこれでもかというくらいマイナスな話をしたが、それとは比べ物にならないくらい、プラスの面も大きい。髪が切れるスキルを身につけると、一生世界のどこにいても髪を切る事が仕事にできるし、自分の髪が切れれば散髪代はかからない。それに意外と女性との会話でも髪の毛の話はとっかかりやすいので、会話には困らない。何より接客業の中でもかなりレベルが高い美容室で働いていた経験は、他のどこに言っても接客業は困る事はない。あと女性の気持ちが一般の人と比べたら頭二つ抜けて理解ができるようになる。
貧乏体験アンビリーバボーも今となっては経験して良かったし、あの時お金がない中で色々と工夫した事は今でも自分の礎として心の奥にある。
何よりもどんなにつらい仕事に就いても、あの何年間と比べれば屁でもないと思える。
美容師を続ける事はとても大変だし、やりたくても皆がみんなできるわけじゃないから、天職にしちゃった人は素直に羨ましいと思う。自分の時間を犠牲にしても他の誰かの為に働ける環境というのは素晴らしいと思うし、いつかその誰かのためにやった事が直で自分に返ってくると思う。
自分は今現在は普通のサラリーマンになって、どこの誰のためにやっているのか分からなくなる時もある。給料はそこそこだけど、あの時のように身体全身で仕事にぶつかる事はなくなった。情熱も、あの時よりはない。
美容師として海外で働こうとオーストラリアに渡豪したこともあったが、生活の中でどうしても美容師になることは出来ず、その代わりに一生の仲間に出会う事が出来た。同じ会社の後輩の中にも海外移住した人が何人かいて、ハワイやカナダで今も世界中の人の髪を綺麗にするために働いている。本当に彼女たちを見ているとキラキラ働いていて元気がもらえる。
美容室で働く事は、スタッフ同士は1日のほとんどを一緒にいることになり、家族よりも強い絆で結ばれる。辛かった事も楽しかった思い出も本当に昨日のことのように話せる家族以上の仲間が出来るのは、沢山の業種を経験してきたが、きっと美容師だけだと思う。
このように、美容師とは一言では語り尽くせないほど魅力が多い仕事である。あるベテラン美容師さんの本を読んだ時、その人は亡くなった方の髪を切った事があるという話をしていた。亡くなった方は死ぬ直前まで著者の店に行きたいと言っていたらしく、遺族の方が著者に無理を言って施術に至ったらしい。作品を見た時に、ツーーと涙が出た。不思議と感情はあとから付いてきた。著者は作中で自分の嗚咽でまともにシャンプーができなかったと言っていた。家族でもない自分に死ぬまで会いたがっていてくれたそのお客様に文字通り「最後の施術」をしたんだ。美容師の最後の極地とはきっとそこにあるのかもしれない。
長い人生の中で、一つの仕事を自分のものにして毎日を生きている人が羨ましい。それが美容師なのか、シェフなのか職人なのか技術者なのか、これだ!と思える仕事を見つけられるのは本当に素晴らしい事だと思う。
【最後に】
ここまで長い記事を最後まで読んでくれて本当にありがとうございます。自分も書きながら暑くなってしまい何度も消しては書き直しました。美容師になろうとしている方や、私のように元美容師の方、仕事は全く関係ないけど何となく見てくれた方、とにかく最後まで見てくれた方には本当に感謝です。美容師は決して楽な仕事ではないけれど、一度技術さえ手に入れてしまえば、とっとと辞めて他の楽なシステムの店に移る事もできるし、辞めようか悩んでいる方は、何も美容師にこだわる必要はなく、何かしら美容に携わっているだけでもいいと思う。私は一度離れてみて俯瞰で自分を見た時に、違う世界も知る必要があると思い、サロンワークは卒業しようと思ったのですが、今でも自分を育ててくれた美容室の面接を受ける夢は年に一回は必ずみます。笑
天職を探しに明日からも頑張ります。
ではまた!
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