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籠の中の鳥は幸せだった

夜中ふいに書きたくなって
Twitterに昨日ポンと載せたものです。
早く自粛期間終わらないかなあ
なんて思いつつもこのおうち時間に
幸せを感じているような気もして…
最後に含みを持たせてつづきを匂わせていますが
つづきを考えているわけではないです、、
作ろうと思えば作れますが、
想像を掻き立てるだけかきたてた終わり方って
なんだか面白くて素敵で私は好きなんですよね

12時を過ぎた。
読んでいた本をパタリと閉じる。
私はすごく、憂鬱だった。
ソファーから起き上がると、飼い猫のサルサが
ナァ〜と言いながら私の太ももに頭をなすりつける。
ぼ〜っとしながら数回、サルサの頭をなでる。
時間が、ゆっくりと進んでいた。
一人暮らしには広すぎるワンルームに、時計の針の音が響く。
ーピッ…ピッ…
昨日作ったデトックス野菜スープを温めるためにIHコンロのスイッチを入れたすぐあと、
机の上のスマホの画面が光った。

ー「やよい、生きてる?」

親友のなっちゃんからのメッセージ。
感染症の拡大はほとぼりを冷ましつつあり、
世間は外出自粛モードからがらりと外出お楽しみモードにシフトチェンジした。
ニュースではコメンテーターたちが、観光名所各地での観光客の賑わいに対する賛否両論を言い放つ。

しかし今日の東京も新たな感染者は"ゼロ"。

これには世間も、まるでずっと閉じ込められていた檻からようやく出られたかのようなはしゃぎようで外に群がった。

そんな世間の風向きに対して、
私のsnsが一切の起動を見せない上に会社に全く顔を出さないことを知って、なっちゃんは
生存確認の連絡をよこしたのだろう。

会社は通常通りの時間勤務になり、時差出勤等もなくなったが、ウチの会社は完全な感染症の収束が確認されるまでは任意での出勤で良く、テレワーク希望者はテレワークのままで良いことになっている。

家の近くにあるコルトコという大型スーパーのおかけで1週間に1回まとめ買いをしてしまえばあとは家から出ずに済み、私はこのおうち時間という名の自粛生活を存分に味わっていた。

そして、いま、新型ウイルスによる感染拡大は収束に向かい、社会が、世界が、通常営業を取り戻しつつある。

私は、それが、ものすごく、嫌だった。
もちろん、感染症にかかるリスクが減り、様々な不安や疑問や、恐怖から開放されることには喜びも感じるし、感染症と戦い続けた医療関係者の人たち始めとする各々がやっとおやすみになれることに対してはとても、素晴らしいことだと思う
それを不快に思うほど私はサイコパスではない。

ただ、私はこの感染症の恩恵、というと不謹慎であるが、このたまたま出来上がった誰にも邪魔されないおうち時間という名のテーマパークを壊されることが、すごくすごく、嫌なのであった。

元々人と接するのはあまり得意ではなかった。
会社でも陽気なキャラのやつは苦手だった。
そんな私にとっては、仕事も大好きな読書も邪魔してくるものは飼い猫のサルサだけ、そんな空間が、苦手な同僚といったデザニーランドよりも、マザコンだった元彼と同棲したあのマンションよりも、楽しくて自由で最高の空間だったのだ。

それが今、あと少しで、終わってしまいそうな
そんな予兆を見せていることに深く憂鬱な気分でいる。

ー速報です。

ふいに、付けていたバラエティ番組がニュース特番に切り替わった。
なんだろう、感染者でも出たんだろうか。
思わずテレビの前のソファーに座った。
サルサは待ってましたと言わんばかりに膝の上にとびのる。

「…!」
アナウンサーが放った言葉に唾を飲んだ。

ーぐつぐつと煮えたぎるデトックス野菜スープが
火を止め忘れた私を呼び続けていた



籠の中の鳥は幸せだった

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