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4歳で哺乳瓶の粉ミルクを卒業すること

 息子が4歳になった。消化管アレルギーのためか、本人の単なる嗜好か、未だに固形物を全然食べない。体重は成長曲線のいちばん下を這っていて、必死にそこを維持している。
 実は、4歳になる前日までずっと、哺乳瓶で粉ミルクを飲んでいた。

 息子は生まれたときから母乳も粉ミルクも飲みが悪く、ほとんど全て吐き戻してしまう子で、生後半年で乳成分アレルギーだとわかった。高額なアレルギー用粉ミルクに切り替えたら、シャーシャーだった下痢がやっと止まった。
 とにかく吐き戻しと下痢の繰り返しで、全然太らない。離乳食を始めたけれど、生後9ヶ月でノロウイルスで入院し、そこからまた振り出しに戻った。仰向けで噴水のようにピューピュー吐いていたのは、本当につらかっただろう。食べられるようになってきた離乳食を一切食べなくなり、また成長曲線を割っていく体重……粉ミルクが、栄養の生命線だった。
 おなかが弱く下痢しやすい息子の体質は続き、私は哺乳瓶で粉ミルクを続けてしまった。

 1歳を過ぎても、160mlの短い哺乳瓶で飲むのが精一杯。食い気がなく、240mlの長い哺乳瓶を一気飲みなんて、したことがなかった。
 断乳をできなかった私が悪かったのもわかっている。しかし、やせ細っていくのは本当につらく心配で、結局4歳直前まで続いた哺乳瓶。コップやストローマグに粉ミルクを作り続けたが、一度も一口も飲まなかった。
 料理が大好きで一生懸命に私を手伝ってくれるけれど、そうして一緒に作ったものも全然食べない。コロナ禍もあり、同じ年代の子どもたちと一緒に食事やおやつを食べるという機会も、ほとんどなかった。3歳になって幼稚園に通い始めたら、少しずつ、本当に少しずつ、給食やお弁当を食べ始めた。白米を食べられるようになった。
 そして……4歳になる日をきっかけにして頑張ろうと思い、息子と一緒に哺乳瓶を捨てる儀式をやろうとした。

 結果として、捨てるという儀式はできなかったが、必死で考えた。息子が夜寝ている間に、哺乳瓶の妖精さんがうちにやってきて、置き手紙を残した。
「○○くんが4歳になって、頑張って食べられるお兄ちゃんになったから、妖精さんは、哺乳瓶を他の新しい赤ちゃんたちのところへ持って行きます」

 もともと息子に、「4歳になったら哺乳瓶にさよならしようね」と毎日言い続けてはいた。しかし、誕生日の朝に起きたら哺乳瓶が全てなくなっていて、ごみ箱の中にもなくて、息子は愕然として泣き始めた。
 「あれ?何か手紙があるよ」と、私は読み上げた。サンタさんの置き手紙を経験していたためか素直に信じてくれて、息子はショックで大きく泣き叫んだ。
 「ほにゅーびんのよーせーさん、まだ来てほしくなかった!!」
 それはそれは、号泣した。しかし卑怯な手かもしれないが、妖精さんのおかげで、家族の誰かが息子の目の前で哺乳瓶を捨てる悪者にならずに済み、本人が自分で乗り越える試練になったと思う。
 そして誕生日の朝から、息子は一度も、粉ミルクを飲んでいない。

 ショックでとても悲しいけれど、彼はもう哺乳瓶がないことを理解していて、「妖精さん、一本だけ持ってってほしかった」、「6歳になったら来てほしかった」などなど、いろいろとまくしてては顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。トイレトレーニングでのおもらしも、1日に5回など、驚くほど増えた。本人の話を聞いていくと、結局のところ、やはり哺乳瓶の乳首がおしゃぶりのような、精神安定剤の役割を果たしていたようだ。
 でも、新しい大きな一歩を、息子と一緒に、このまま頑張っていきたい。

 補足しておく。本当に、本当にたくさんの専門の方々に、何度も何度も断乳するよう言われていた。
 「哺乳瓶はやめるべきだ。子どもは飢えさせれば必ず食べる」……しかし本当に、うちの子は全く、一口も、食べなかった。
 一人だけ、唯一アレルギー外来の主治医の先生が、「一生哺乳瓶というわけではないから」と、「今はまず体重をきちんと増やして、本人が欲しがるものを与えて、食べさせたり飲ませたりしてください」と言ってくれて、結局4歳の直前まで哺乳瓶で粉ミルクを飲んでいた。水で薄めたり、夜間は哺乳瓶の中をお湯だけに入れ替えたり、本当にいろんなことをしてみたけれど…やっと、何とか、ここまできた。
 やっと息子がガリガリではなくなって、体重が成長曲線のいちばん下とはいえ、13キロにまで辿り着いたのと、幼稚園に通っている間は哺乳瓶を持ち込まず、保育士の先生方が本当に親身に寄り添って接してくださっているので……4歳になるのをきっかけに、こうして頑張ることができた。

 もし、哺乳瓶をやめられないことに苦しんでいる方がいたら。
 大丈夫。いつかきっと、卒業できる日が来るので、大丈夫。
 自分の子どものその「いつか」を、あせらず子どもの気持ちに寄り添って決めて、それまで時間をかけて子どもに説明と説得を続けて……そして実行するとき、頑張ってください。
 こうして書き出すことによって、今どこかで悩むどなたかが、ほんの少しでも気持ちが楽になったり、何かの助けになりますように……。

料理が大好きで、食べないけれどにんじんの存在自体も大好きで、
最近ついに皮むきができるようになってきた。
(とても細く鋭いにんじんになるのは、ご愛嬌)


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