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2月28日 ビスケットあげるね【今日のものがたり】

 ばちっと目が覚めて、がばっと布団をめくって時計を見て、一度目をつぶった。そして、もう一度ゆっくり開けて……わたしは文字通り飛び起きた。

 ご飯を食べている時間はない。戸棚にバランス栄養食が確か入っていたはず……お昼ごはんは……そうだ、今日は戸村ベーカリーさんが来る日! 財布は持ったしOK……そう考えている間に顔を洗い、歯も磨いた。あとは髪をとかして……よし。
「行ってきます!」
 写真の向こうのお母さんは笑っているけど、今月こんな寝坊を5回はしてるから、いい加減怒っているかもしれない。
 でも、どう、どう? 起きてから家を出るまで10分はかかってないと思うんだけど。

 車があまり通らない裏道コースで自転車をこぎまくり、教室へ向かう階段の手前で担任の鮫島(さめじま)先生を追い越し、いつもその鮫島先生より早めに教室へ行く隣のクラスの先生も抜かして……
「間に合った~……!」
 今日もギリギリセーフ! やればできる!
「おはよー。水琴(みこと)の遅刻をスレスレで回避する能力はホントにスゴいよねー」
 隣の席の いろは はニコニコしている。今日もきっとクラスで一番早く登校したに違いない。
「もっとほめてほめて」
「いや、時間に余裕を持って登校してる私のほうがエライでしょ」
「ですよね。はー朝から太ももを鍛えすぎてしまった」
 卒業する頃には立派な太ももになっていそうだ。
「今日は鮫島先生をどこで抜かしたの?」
「階段上がる前」
「じゃ、もう少し話せるね」
 この教室は3階にある。私はもちろん一段飛ばしで駆け上がってきた。
「その感じじゃお昼ごはん持ってきてないね」
「もちろん。でも今日はほら戸村ベーカリーさんが来る日だから」
「あ、そうかー! うわーおにぎり作らなくても良かったんだ」
「エラいよ、いろは は。遅刻もせず、さらにおにぎりまで作ってくるんだから」
「いや、おにぎりはご飯があればすぐ作れるから」
「それで作って持っていこうって考えるだけでスゴいよ。よし、戸村さんがおまけにつけてくれるビスケット、いろはにあげる」
「ホントに? ありがと~。あのビスケット美味しいよね。おまけじゃなくてちゃんと販売すべきレベルで」
 それは確かに私も思う。商品化とかしないのかなぁ。あ~ごはんのこと考えるの楽しいなぁ。……ん、この足音は……
「あ、鮫島先生来る」
 私の一言でクラスメイトがそれぞれの席に戻り始める。よくあることなんだけど、私の声ってもしかして、ちょっと大きいのかな。
「水琴って気配察し能力もスゴいよね」

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