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3月23日 気象学の本を【今日のものがたり】

 僕は気象予報士の資格取得に向けて勉強をしている。
 毎日まじめに……というわけではなく、長いスパンでの計画だ。いつか取れたらいいなというやわらかい思いなので、相当時間がかかるだろう。でも、気象に関する本を読むこと自体は面白いので、長く楽しく続けたい趣味の一つとして考えている。

 空を見ていると思い出す物語がある。
 厳密には思い出す、というのは少し違うかもしれない。
 ときおり夢を見るのだ。僕がとある少年と話している夢を。
 現実の世界が春でも夏でも、秋でも、夢のなかで少年に会うときはいつも冬なのだ。おそらくは。
 僕は、夢のなかでも僕のままで、でも、今住んでいる家ではない場所いて、積もった雪と、降ってくる雪を眺めている。

「君と話すと、上手に雪を降らせられるんだ」

 少年は木の枝みたいな棒で積もった雪をいじりながら嬉しそうにしている。確かに話す前より少年の表情は明るいし、心なしか雪の粒も前より大きくなっているような気がする。

 でも、僕は少年と何を話したか覚えていないのだ。ただ、少年の言葉を僕は信じていて、少年が降らせた雪の上を歩いたり、ベッドみたいにダイブして笑ったりしていた。
 まっさらな雪の上に足跡をつけたり寝そべるのってなんであんなに楽しいんだろうね。
 現実の世界では、もう久しくやっていないんだけどね。今住んでいるところは滅多に雪が降らないところだから。それにもう、いい大人だし。

「もう行くの?」
「うん。もう行くんだよ」

 別れはいつも唐突だ。僕が雪の絨毯の上に寝転がってるときだったり、雪だるまを作って遊んでいるときだったり。でも、なぜか少年がここからいなくなるとわかる瞬間がある。

 少年は木の枝みたいな棒をゆっくり振り上げてくるくるとまわす。そこから生まれた風が雪と絡まり、少年を包み込む。

 僕はいつもそこで目が覚める。でも、雪に触れた感触だけはいつもリアルで、目覚めても手のひらに雪のかけらがいつもあるような気がしていた。
 
 そう、全部、夢なんだけどね。それでも、僕にとってこの夢が、気象予報士に興味を持ったきっかけなんだ。
 棚にしまわず、机に起きっぱなしの本を見つめる。気象学の本だ。今日は少し読み進めてみようかな。

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