いつかアイドルではなくなる君へ
わたしたちは、見えない未来に「絶対」という言葉を使いがちだ。それから、「永遠」や「ずっと」という言葉も。
いま、この瞬間、幸せな時間が「永遠」ならいいのに。
目の前にあるきらきらした光景が「ずっと」続けばいいのに。
「絶対」このメンバーで売れてほしい。デビューしてほしい。
「ずっと」「永遠に」アイドルでいてほしい。
わたしはいま女性と男性どちらのアイドルも応援していて、不思議に思うことがあった。
どうして男性アイドルは歳をとっても「アイドル」でいられるのに、女性アイドルは一定の年齢を超えると「アイドル」から卒業していくのだろう。
女性の価値を「若さ」だと思っている人たちが一定数いることと、女性は次のステージにいくために一度「アイドル」という鎧を脱がなければならないという考えがあるからかも。もちろん生涯現役アイドルという方もいるけれど、どこかでみんな「いつかアイドルを辞めなきゃ」と思っているんじゃないかと思う。
(これは余談ですが、大人数系のアイドルで選抜制があると人気の初期メンが卒業しないと次の世代が云々みたいな問題があるのもわかる。じゃあ選抜制を採用していないグループなら卒業しなくていいじゃんとも思わなくはないわけでごにょごにょ…)
だから、女性アイドルは男性アイドルに比べてアイドルとしての寿命がすごく短く、しかもそれがいつ終わるかわからない恐怖といつもとなり合わせだなと思っていた。
でも、ここ最近、男性アイドルも「そう」なんだと思う出来事がたくさんあった。
当たり前に明日も、これから先もアイドルでいてくれると思っていた人が、これからもずっとこのメンバーで大好きな曲を歌い続けてくれると思っていた人たちが、「アイドル」を辞めてしまう。
この事実に気付いたのがわたしは最近だっただけで、ずっと前からそうだったんだと思う。そのたびに、ファンはどんな気持ちで見送ったのだろう。
=LOVEの17枚目シングル「絶対アイドル辞めないで」
最初、なんて残酷な歌なんだろうと思った。
わたしたちはアイドルに対して常にこの気持ちを抱いている。ずっとアイドルでいてほしい、永遠にステージ歌っていて欲しい、絶対アイドルを辞めないでほしい。
でも、そんなこと本人には言えなかった。
きっと「辞めたい」と思う事もたくさんあるんだと思う。わたしたちファンは「アイドルでいたい」と思ってくれたらそれほど嬉しいことはないけれど、「もうアイドル辞めたい」と思っていたとしたら、その気持ちを否定することなんてできない。辞めてほしくないけれどそれで彼女たちが苦しみから解放されるなら、幸せになれるのなら、その選択を止める権利なんてわたしたちにはない。だからこそ口になんか出せない言葉だった。
「絶対アイドル辞めないで」なんて、わたしたちの最大級のエゴなのだ。
そんなエゴをアイドルである彼女たちに歌わせることの残酷さに眩暈がした。わたしたちのエゴを押し付けている気がしてどう受け止めていいかわからなかった。もちろん革新的でいい曲であることは大前提なのだが、自分の気持ちの整理がつかず、公開された日に泣きながら何回も何回も聴いた。
けれど、最後の歌詞に気づいた時、
あぁ、この子は、この歌詞の「わたし」はちゃんとわかっているのだと思ったら納得できた。
「これは報われないおとぎ話」
「魔法よどうか 解けないままで」
この願いが叶わないものだと、アイドルとファンの関係性やみている景色はおとぎ話なのだと、彼女たちにかかっているのは「アイドルの魔法」なのだとわかっているのだ。
この曲には「絶対」や「ずっと」が多用されている。
これはわたしたちの「願い」の現れだ。
わたしが「アイドル」へ願う「絶対」や「ずっと」なんてものはアイドル自身の努力で成り立っているもの。
彼女ら、彼らの「アイドル」という物語はきっといつか終わりを迎えるし、「アイドル」という魔法はいつか解けてしまう。
それでも「絶対」「ずっと」「永遠に」と願わずにはいられない。どうか、どうかと、最後の瞬間までわたしはきっと願い続けるんだろうなと思った。
君がみたい景色が少しでも多くみれますように。
少しでも長く、君が思う「アイドル」の姿でいられますように。
「アイドル」を終えるその瞬間、「アイドルになってよかった」と思ってくれますように。
いつか、アイドルではなくなる君へ。
どうか幸せでいてください。