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ナマケモノとマーケット2
「青いお皿はまだありますか?」
「青は…売り切れたかな…?でも他のはまだあるから良かったら見て行ってくださいね。」
と言っても私はお店番なんだけれど、と言いながら、その人は食器を並べてくれました。
カップを手に取ると、軽いなぁと思いました。家で使っているものは、少し重くて、うっかりナマケモノは時々、こぼします。
土を捏ねて焼くやつだよね、写真、窯だよね、どっしりしてるのかと思ったら違うんだなぁ…。
両手で持つとちょうどそのカタチに合うので居心地が良いなぁと、ナマケモノは思いました。
カップを持ったままでいると、店番だといったその人は、あったあった、と青い器を見せてくれました。
「同じ物はないんだって。
なるべく期待に応えるべく工夫しているけど、その時の気持ちとか状況とか天気とか都合とか、正直に素直に出てくるらしいよ、私はそこが、好き。」
作っている作家さんは、いま、お山の窯がちょうど離れられないようで、店番のお姉さんが代わりに来ているらしいのです。
お友達でしょうか、それともお姉さんも一緒に何かを作るのでしょうか。
ナマケモノの手にあるカップを見ると「あ、ねぇ、ちょっとそれでお茶飲んでみる? あなたほら、可愛いクッキー持ってるじゃないの。
そうだ、休憩、休憩しようよ。お茶、淹れてあげる、ちょっとだけ待って。」
今日のマーケットの人たちは、売上とかそういうものより、もっと違うモノを大切にやり取りしているみたいです。
先程のクッキー、これもそうです、店主さんから受け取ったモノ、もしかしたらここで渡す機会なのかもしれません。
そうした、予感、のようなドキドキなのかワクワクなのか判別付かない気持ちがナマケモノに芽生えます。
「紅茶と珈琲、どちらが好き?」
「僕、紅茶が好きです」
「では、こちらのカップお借りして、熱湯を注いで紅茶を滑り込ませたら…こちらのお皿で蓋をして、1分蒸らします♪このひと手間で、さらに美味しくなるよ、お家でやってみてね」
待つ間にナマケモノもクッキーを取り出します。クッキーを取り出していてわかりましたが、お花はクリスマス飾る、リースに似ていて、輪っこになっていました。そのリースの真ん中に、クッキーを並べました。
優しい感じが増しました。リース自体もグリーンではなく、フワフワっとした柔らかい植物なのです。名前はわかりません。でもナマケモノはのぶえんで彩り豊かな野菜も見て来たので植物も自分の知らないものがたくさんあって、こうして様々な使われ方をしたり、そういう工夫が出来たりする人がいることを知りました。
お姉さんは珈琲を淹れてきたようで、ナマケモノの紅茶の蓋を外すとふわりと良い香りがしました。リースの使い方も褒めてもらってクッキーを分けて食べました。
食べながらお姉さんは、「たまには、試せる食器、も良いじゃない?試食ってあるんだから。後々、あぁアレやっぱりって思い出すくらいになってから買ったりしても良いんじゃないかなぁ。」
「でも同じ物は、出来ないから。後にしたら買えないのでは?」
「そう。だけど作る人が同じならその人の考え方が変わらなければ、使い易いとか持ち易さとかそういう根本的に良い所が変わるわけじゃないような気がするの。
だって時間は流れる、同じ場所に留まって居られるのは、ある意味、モノだけなの。その時代、ヒトに作られたモノだけ。モノに関わった人の想いが、物語になる。長年愛された後、付喪神に変化しちゃうように。」
「違う物だけど、同じモノを持っている…?だけど見た目は違う…けれど触れば、判る、伝わるなにかを持ったモノ?」
詩人だねナマケモノさん、とお姉さんはニコニコします、あらたらずも遠からず、そんな感じ、上手く言えないね、と呟きます。
「モノも壊れる時は来るし、生き物、植物も、もう限界な時は来る。
このフワフワピンクなんかもね、枯れていくというより色が変化していくの。
水から、土から離れても、変化していく時間が長くて…不思議なの。きっとそういう土地、場所でも生きていけるよう創造されたのかな。
だから私は私の生業仕事とは別に、こういう植物たちに向き合っているといつもと違う自分を出せる気持ちになるんだよねぇ…。」
お茶を飲み終えた時で良かったです。
このリースを作ったのはお姉さんなんだとナマケモノが気付いた時まだ飲み物が口にあったら、ビックリして吹き出すどころでした。
今日のマーケットの人たちは、主張が強くないからこんなに雰囲気が優しいのでしょうか。でも芯はしっかりしていて強そうな人びとなのです。きっと何年後に会っても姿カタチが違うさまでも、その人だと判る芯のようなものが光って見えるかもしれません。
また次の機会のマーケットが開催されるなら、今日とは違う人たちに逢うこともあるでしょう。
より良い形を模索しながら、紡がれていくのかもしれないな、と、ナマケモノは帰り際に手を振りながら思いました。