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soundtracks|1. 言葉と音楽

私が執筆したZINEの読者と対談するツアー "soundtracks"。第1回目は、田中事件さんと「言葉と音楽」というテーマで対談した。

対談の中で「私たちの “話し方(声)” は言葉をのせる音楽のようだ」という話をした。
早いテンポでたくさんの言葉を一気に吐き出す話し方、ゆっくりと時間をかけて探しあてた言葉を置いていくような話し方など、話し方は人それぞれ異なる。同じものはひとつもない。話し手本人の歴史を背負ったその音は、本人にしか出せない音だ。

そう話す中で、私は最近、文章でも音を感じることがあると思った。頭の中で文章が再生される時、文体ごとに聞こえ方が異なるように思ったのだ。その人にしか書けない文体があり、その文体は、書き手の歴史を背負っている。

誰もがよく知る、共通言語としての "言葉" を、その人にしか出せない "音楽(話し方や文体)" にのせて、具体化する。両者がうまく噛み合っているときには、言葉と音楽はとても近いところにある。

その一方で、言葉と音楽がうまく嚙み合わないこともある。例えば、伝えたい "言葉" は頭の中にあるのに、それを乗せる "音楽(声や文体)" が見つからないときがある。逆に、"音楽(声や文体)"は聞こえているのに、"言葉" を探し出せないときもある。

今回、track1の対談を文章にまとめようとしたとき、私の前に現れたのは後者の壁、すなわち、伝えたい "音楽(声や文体)" はあるのに、"言葉" を探し出せないという壁であった。
独特なリズムで語られた音を、表現する言葉が見つからない。言葉をつけると陳腐なものになってしまう。対話の音は分かっているが、言葉が見つからない。そんな状態だった。そして今も、その壁を越えられないでいる。

しかしこの壁は、自身の記憶を掘りかえし、材料を拾い直し、思考を組みかえる、きっかけになると最近は思う。言葉と音楽の噛み合わなさは、自分の思考の枠組み自体を、組みかえるきっかけになると感じた。


対談を終え、日々を過ごす中で、「言葉と音楽」あるいは「自身の興味・関心のある領域と音楽」を考える本が、気になってきた。 "soundtracks"があったからこそ、読んでみたくなった本をここに残してみたい。

① ラインズ:線の文化史(ティム・インゴルド 著)
半分ぐらいまで読んで、積んでいた本。1章は「言語・音楽・表記法」と題されていて、「どうして発話(speech)と歌(song)とが区別されるようになったのか」という問いに対し、「記述(writing)」が重要な役割を果たしたことを示している。対談を終えて、改めて丁寧に読んでみたいと思った。

②治療文化論:精神医学的再構築の試み(中井久夫 著)
中井久夫は精神医学的症状を捉える際、音楽的比喩(リズム、テンポ、タイミング、調律)を用いたと、「異界の歩き方:ガタリ・中井久夫・当事者研究(村澤和多里・村澤真保呂 著)」を読んで知った。その代表的な著作が「治療文化論」であるということで、未購入&未読であるが読みたくなった。対談の中にあった「健康」というテーマにも近いと思う。


本文章で言及した、対バン(対談)ツアー "soundtracks"の詳細は、以下をご覧ください。


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