書評『ネオ・ヌルの時代』全3冊 筒井康隆編(日本SF年鑑1986年版、1986年8月)
書評『ネオ・ヌルの時代』全3冊 筒井康隆編(中公文庫、1985年)
人気絶頂だった筒井康隆が主宰し、1974年にスタートして77年に全7号を出し終えて解散した、伝説的な高水準の投稿型創作同人誌 〈ネオNULL〉が3分冊で中公文庫に収められた。雑文連絡文を除いて、掲載された創作すべてと、投稿作への筒井のコメントが収録されている。
この雑誌を、現在から遡って “新人作家のルーツ”と語るのは容易いことだ。しかし同人誌は、けして後世から与えられた評価でのみ語られるものではない。どんな人物がそこから巣立っていようと、それは当時の同人誌自体の存在感とはまた別のものだ。10年近い歳月を経て、当時の7冊の〈ネオNULL〉と見比べてみると、この『ネオ・ヌルの時代』は不思議と色褪せてみえる。
アマチュア創作を、完成度でとるか、可能性で語るかというのは難題だ。だが筒井康隆は、雑誌編集者的な先取性をもって各篇にコメントを加えた。何より読者が把みとらされるものは、筒井の、この徹底した視線である。そして、同人誌をもっとも同人誌たるべくするこの視線は、その後のアマチュア創作誌から次第に失われていったようにも思う。
これまで商業出版された同人誌傑作集は、77年に講談社から刊行された 『宇宙塵傑作選 日本SF原点への招待』(全3冊)があるだけだったが、そちらが後世の活躍を考慮した選抜アンソロジイだったことにくらべ、本書は全作品を再録しており、それだけでまったく性格を異とする。アマチュア創作がその時代のSFを少なからず反映するとするなら、本書はひとつの証言として語られてもよいだろう。