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8-7 血液凝固系に作用する薬


血液凝固系

血管が傷つき、出血したとき、数分後には、止血しています。今回は、この血をとめる働き、及び、それに関連する薬を説明します。

止血のための反応は、2つの段階が存在します。
第一段階は、出血部位に血小板が凝集し、一次血栓を構成する過程です。血管に傷がついて、血小板が血管内膜と接触すると、これを引き金に、血小板凝集が活性化され、固まっていきます。
第二段階として、さらに強固な血栓を作るため、血液凝固反応が働きます。血管内膜との接触などを引き金にして、局所で血液凝固反応が進みます。最終的には、フィブリノーゲンからフィブリンが合成されます。これが糊の役割となって、血小板を強固に固めます。

出血を止めるためには、止血反応は重要な反応ですが、血管壁の傷が修復された後などに不要になると、フィブリンによって固められた血栓が邪魔になります。血栓を溶かす仕組みを、線溶系と言います。プラスミンによって、血栓が溶かされます。

このように、傷が修復する過程において、血栓を作る働き<血液凝固系>と、血栓を溶かす働き<線溶系>は重要な役割を果たしています。

このバランスが崩れると、血栓のために血管が詰まり、血流が失われることになります。

バランスを崩す要因には、
・うっ滞(血液の流れが悪い)
・血液成分の変化
・血管壁の状態
があります。

・うっ滞
血液の流れによどみがあると、血栓ができやすい状態になります。血液によどみを生じている疾患の代表例に、心房細動があります。
・血液成分の変化
脱水状態では血液は固まりやすい状態にありますし、動脈硬化で脂質が多い状態にあると、血管壁でアテロームを形成します。アテロームがあると血管の幅が狭くなることに加え、アテロームは破けやすく、破けると血栓を形成し塞栓につながります。
・血管壁の状態
動脈硬化で血管壁が硬くなると、血管壁に傷がつきやすく、血栓もできやすくなります。

血栓の予防には、抗血栓療法が非常に重要です。

血栓治療に関連する薬には、
・血小板凝集を抑制するための、抗血小板薬
・血液凝固反応を抑制するための、抗凝固薬 
・血栓を溶解するための、線溶薬 があります。

血液凝固反応

血液凝固反応を起こる引き金となるのは、内因性と外因性の要因があります。内因性には、本来血液は血管の内皮細胞とのみ接触していたものが、内皮細胞に傷が付くなどして、内皮細胞以外のものと接触したことや、血流の鬱滞が引き金となることが要因です。また、外因性は、例えば、血液が破れて組織液と接触するなど、損傷組織から放出された因子との接触が要因となります。
これらの引き金をきっかけに、血液凝固因子が、局所で連続的かつ増幅的に活性化されます。(このことは、「止血してほしいところだけで、迅速に止血する」ために大切です。)(a は活性化されたもの)
最終的に、第Ⅱ因子であるプロトロンビンが、第Ⅹa因子によって、トロンビンに活性化されます。トロンビンは、第Ⅰ因子であるフィブリノーゲンをフィブリンへと活性化させます。


抗凝固薬

抗凝固薬は、血液凝固反応のどこかを邪魔することで、血栓生成を防ぎます。(血栓ができにくくする)

経口抗凝固薬
経口薬(のみぐすり)として用いられる経口抗凝固薬には、ビタミンK
拮抗薬であるワルファリンと、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)があります。

  • ワルファリン

  • DOAC

    • 直接Ⅹa阻害薬

      • リバーロキサバン

      • アドキサバン

      • エドキサバン

    • 直接トロンビン阻害薬

      • ダビガトラン

経静脈投与で用いる抗凝固薬
・ヘパリン

抗凝固剤・・採血管に入れたり、検査に用いる
・クエン酸ナトリウム
・EDTA-Na

ビタミン K 拮抗薬

薬剤名:ワルファリン
薬理作用:血液凝固因子は、肝臓で合成されます。そのうち、ビタミン K を使って合成される、ビタミン K 依存性血液凝固因子の合成を阻害することで、血液凝固反応を阻害します。
注意点:ワルファリンは、ビタミン K の働きを阻害することで、血液凝固を阻害するため、食物から大量のビタミン K を摂取すると、ワルファリンの薬理作用が減少します(薬が効かなくなる)。

※禁止:納豆(ビタミンK含有量が非常に多い、かつ、ビタミン K 合成酵素を含有する)、小松菜、モロヘイヤ、ブロッコリー、青汁、クロレラ
※少量(小鉢1杯程度):緑色の濃い緑黄色野菜
※制限なし:色の薄い野菜(根菜類)

・・・(ワルファリンの豆知識)・・・
ワルファリンは、50年以上使われている薬です。もともと、カビの生えたスイートクローバーを食べた牛が出血多量で死ぬ現象がおき、カビの生えた飼料は食べさせないように、とされていました。その後、スイートクローバーに含まれているクマリンという成分が、カビによって変化された物質が原因であるとわかった。その後、まずは、殺鼠剤として使用されていたが、人間にも安全に使用できることがわかり、抗凝固薬として、使用されるようになった。
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ワルファリンの特徴
①薬が効くまで時間がかかる
血液凝固因子の合成を阻害するため、作用発現までに時間がかかります。そのため、投与量変更後、翌日に効果が現れるわけでもないため、投与量を変更した時は、2〜3日後に薬効を評価します。
また、合成阻害によって薬効を発揮するため、抗凝固剤のように、直接血液に混ぜても、効果はありません。

ワルファリンの特徴
②投与量と効果に個人差がある
個人差の要因としては、ワルファリンの代謝に関与している CYP2C19 の遺伝子多型や、薬物動態パラメーターが血中濃度依存的に変動することや、食事などからのビタミン K 摂取量に影響を受けることがあります。
そのため、ワルファリンを服用中は、効果判定の一つとして、血液凝固能の指標の一つである、PT-INR を定期的に測定します。

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(補足)
○なぜ、PT-INR をモニターするのか?
血液凝固能の指標として、APTT や PT-INR がある。
・ APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
 APTT 試薬等を加えて、接触因子を活性化した状態で、Ca を加えてから凝固するまでの時間を測る。内因系凝固因子と共通系凝固因子の働きを調べている。
・PT(プロトロンビン時間)
試薬を加えて、凝固するまでの時間を測る。外因系凝固因子と共通系凝固因子の働きを調べている。ワルファリン服用中のモニタリングの目的の場合は、PT-INR が用いられる。
○ワルファリン服用中の変化
ワルファリンは、ビタミンK依存性血液凝固因子(2, 7, 9, 10)の合成を阻害する。この中で、最も早く減少するのが、第Ⅶ因子である。第Ⅶ因子は外因系凝固因子であるため、その変化を調べるために、PT-INR を測定する。
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直接作用型経口抗凝固薬, DOAC

DOAC は、さらに、直接トロンビン阻害薬と直接Ⅹa阻害薬に分けられます。

直接トロンビン阻害薬
薬剤名:ダビガトラン
作用機序:トロンビンは、フィブリノーゲンをフィブリンに変換させます。フィブリンが糊の役割を果たして、血栓を強固に固めます。そのため、トロンビンの作用を阻害することで、血液凝固を抑制することができます。

直接Ⅹa阻害薬
薬剤名:
・リバーロキサバン
・アピキサバン
・エドキサバン
(Xa=キサ)
薬理作用:第Ⅹ因子は、Ⅹaに活性化されると、プロトロンビンを、トロンビンに活性化させ、血液凝固を促進します。第Xa因子を阻害することで、血液凝固を抑制することができます。

ワルファリンと DOAC の違いについて、主な特徴をまとめます。
作用発現
・ワルファリン:作用発現までに2〜3日かかる
・DOAC:すぐに効果が出る反面、飲み忘れもすぐに反映されるため、服薬の継続が重要
薬物動態
・ワルファリン:変動しやすい。PT-INR を参考に投与量を調節する
・DOAC:変動は少ない(代謝される酵素は、薬剤ごとに様々であるため、併用薬により、相互作用を回避するために使い分けることができる)
特徴
・ワルファリン:
 ビタミンK摂取量に影響を受ける(納豆禁止を負担に感じる方もいる)。
腎機能低下者に対して
 ワルファリン:重篤な腎障害に対しては禁忌だが、使用経験が豊富
 DOAC:腎機能が低下している人に対して、特に注意が必要な薬のひとつ
 禁忌〜減量が必要
妊婦
 ワルファリン:禁忌
 DOAC:一部は禁忌
価格
 ワルファリン:安価
 DOAC:高価

血小板凝集

出血に対して、一次止血として、働くのが、血小板凝集です。
引き金になるのは、血管内皮細胞が障害されることなど、本来は接触しない内膜のコラーゲンなどが露出しているところに、血小板が接触することが引き金になります。接触をきっかけに、血小板から様々な物質が放出され、これが周囲の血小板に働きかけることで、血小板凝集がさらに進みます。

血小板凝集反応を促進する(血小板血栓をつくる)
トロンボキサン A2 ・セロトニン・・血小板凝集を促進する反応を、促進
アデノシン二リン酸(ADP)・ホスホジエステラーゼ・・血小板凝集を抑制する反応を、抑制するため、結果的に、血小板凝集を促進

血小板凝集反応を抑制する(血小板血栓を作らない)
プロスタグランジン(PG)I2, E・・血小板凝集を抑制する反応を、促進する

抗血小板薬

薬理作用:血小板凝集反応を促進する過程を阻害する、または、血小板凝集反応を抑制する過程を促進することで、血小板血栓を作らないようにしている

  • COX 阻害薬

    • アスピリン(低用量アスピリン)

  • ADP 阻害薬

    • クロピドグレル

    • チクロピジン など

  • PDE 阻害薬

    • シロスタゾール

  • プロスタサイクリン誘導体

    • ベラプロストナトリウム

  • 5-HT2 受容体遮断薬

    • サルボグレラート

副作用(抗凝固薬・抗血小板薬共通)

抗凝固薬・抗血小板薬に共通する重要な副作用に、出血があります。

出血

抗凝固薬・抗血小板薬が効きすぎると、出血傾向
効き目不足では、血栓傾向
の可能性があるため、薬を使用中は注意が必要です。
特に、相互作用や飲み忘れなど、注意が必要です。

出血傾向の初期症状:
鼻出血、歯肉出血、止血困難、関節の腫脹、点状出血、紫斑、過多月経など

重篤な出血の場合には、中和薬が用いられることもあります。

抗凝固薬と抗血小板薬の使い分け

抗凝固薬と抗血小板薬の使い分けを説明します。あくまでも大まかな目安として書いていることをご了承ください。

血栓症の分類と使い分け

動脈血栓症

動脈のような血流が早い血管では血小板が活性化されやすいため、血小板の含有量が多い血栓ができます。血小板血栓は、その特徴から白色血栓とも言われます。
具体的には、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈血栓症などがあります。
これに対しては、抗血小板薬が使われます。

静脈血栓症

静脈のような血流の遅い血管内では、血液凝固が活性化されやすく、血液凝固反応の結果、フィブリンの含有量が多い血栓ができます。これは凝固血栓やフィブリン血栓といわれ、赤色血栓とも言われます。
具体的には、深部静脈血栓症や肺塞栓など、いわゆるエコノミークラス症候群があります。
静脈血栓の対策として、抗凝固薬が使われます。

脳梗塞

脳梗塞は、心原性脳塞栓症と非心原性脳梗塞に大別できます。

心原性脳塞栓症

心房細動などにより左室で血流が停滞すると、血栓ができやすい状態になります。心臓でできた血流が循環し、細い血管につまり、塞栓症を引き起こすことがあります。脳の細い血管が詰まると、心原性脳塞栓症です。
これは、フィブリン血栓ができているので、慢性期に再発予防を目的とする場合、抗凝固薬が用いられます。
従来、有効性が確認されたのがワルファリンだけでしたが、DOAC も使われるようになりました。

非心原性脳梗塞

非心原性脳梗塞には、細い血管が多発性に詰まるラクナ梗塞、動脈硬化病変部位に血栓ができてつまるアテローム血栓性梗塞があります。
非心原性脳梗塞の再発予防には、抗血小板薬が推奨されています。

弁置換術

心臓の弁置換術を受けた場合、異物を挿入しているので、血栓ができるリスクがあります。そのため、抗血栓療法が重要ですが、弁の種類によって、大きく異なります。

機械弁
機械弁の場合は、原則、ワルファリンが生涯にわたって必要です。PT-INR は 2.0〜2.5 と厳密に管理されます。

生体弁
生体弁の場合は、原則として、ワルファリンを3ヶ月継続します。出血リスクがない場合は、6ヶ月継続する場合もあります。(その後は、原則、抗凝固薬は不要)

ステント留置

冠動脈ステント
冠動脈にステントを留置した場合、再狭窄を防ぐために、抗血栓療法が重要です。原則、抗血小板薬の2剤併用療法(DAPT)が行われます。(原則:原則1年間DAPT、その後はアスピリン単剤)
ステントについては、通常の金属ステント(BES)のほか、再狭窄を防ぐために薬剤が徐々に放出される薬剤漏出性ステント(DES)があります。ステントの種類によっても、抗血栓療法の方針は異なります。

大動脈瘤・閉塞性動脈硬化症(ASO)
大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症に対して、ステント留置を行なった場合、通常、抗血小板薬を追加することはありません。通常、術前より抗血小板薬が投与されているため、それを継続します。

冠動脈バイパス術(CABG)

CABG 術後は、血管の狭窄を防ぐため、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が行われ、その後、単剤に減量されます。
CABG の場合、さらに、最大用量のストロングスタチンも併用されます。

観血的処置と抗血栓薬の中止

抗凝固薬や抗血小板薬を使用している患者において、出血を伴う処置を計画的に行う場合、事前に休薬が必要な場合があります。
ただし、休薬する場合には、血栓症が起こるリスクがありますし、休薬しない場合には、出血が起こるリスクがあります。手術や処置の内容によっても、出血リスクは異なります。
リスクとベネフィットの両面からの判断が必要であり、患者個別に対応が必要です。
事前に手術を予定している場合、直前に手術中止とならないためにも、事前に他科受診等の確認が重要です。また、サプリメントの中にも、いわゆる血液サラサラ効果に寄与する可能性があるものもあるため、確認が重要です。


抗凝固薬と抗血小板薬のまとめ

線溶系

止血が終了したら、不要になった血栓を溶かす働きもあります。これを、線溶系と言います。
タンパク分解酵素であるプラスミンが、フィブリンを溶かし、血栓を溶かす働きを担います。プラスミンは、普段は、活性のないプラスミノーゲンとして存在しており、プラスミノーゲンアクチベーターによって、プラスミンへと活性化されます。
組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)は、血栓に吸着して、フィブリンを分解させます。つまり、血栓だけに作用します。
ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーターは、血液中のプラスミノーゲンに作用するため、全身に影響し、出血性の副作用につながる可能性があります。

血栓溶解薬

(線溶促進薬)

  • ウロキナーゼ(ウロキナーゼ(R))

  • アルテプラーゼ・・・t-PA 製剤

  • モンテプラーゼ・・・t-PA 製剤

アルテプラーゼは、特に、rt-PA とも言われます。
冠動脈や脳血管の梗塞の超急性期に血栓を溶解するために、使われる薬です。
使用条件(t-PA モード)を厳守することで、安全に使用することができます。
○時間の制限について
発症から時間が経過すると、薬を使用する意義が少なくなるため、制限されています。
ベネフィットの低下:
虚血部位が不可逆的に障害されるため、治療によって回復する見込みのある部位が減少します。
リスク増大:
虚血状態で時間が経過すると、血管がもろくなります。脆くなった血管に、高圧の血液が流れると、出血のリスクが高くなります。
そのため、発症早期に対応することが重要です。

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