11-8 泌尿器に作用する薬物
排尿の機序
蓄尿のメカニズム
腎臓で作られた尿は、膀胱に貯められて、排出されます。「尿を溜める」・「尿を排出する」下部尿路機能は、交感神経・副交感神経・陰部神経によって調節されています。
6-2 自律神経系による臓器の調節|こはく堂薬局 (note.com)
○陰部神経
陰部神経は、体制神経であり、自律神経系と異なり、意思でコントロールできます。陰部神経は、外尿道括約筋を収縮させる(尿の出口を閉める)ことで蓄尿に働きます。
○交感神経
交感神経の受容体は、膀胱の袋自身である排尿筋と、出口の内尿道括約筋に存在しています。
排尿筋には、β3 受容体が存在しており、交感神経が刺激すると、弛緩、つまり、膀胱の袋自体がゆるめられ、蓄尿に働きます。
また、内尿道括約筋には、α1受容体が存在し、交感神経が刺激することで、収縮する。つまり、膀胱の出口が閉まり、蓄尿に働きます。
排尿のメカニズム
膀胱に尿が溜まることで、膀胱が伸びます。これを受容器が受け取り中枢へと伝えることで、排尿の意思が生じます(尿意)。中枢の刺激で、排尿の抑制は解除されます。
○交感神経
交感神経系が抑制されると、排尿筋は収縮し(膀胱が縮み)、内尿道括約筋は弛緩する(出口が開く)ため、排尿に働きます。
○陰部神経
陰部神経が抑制されると、外尿道括約筋が弛緩するため、排尿が促されます。
○副交感神経
副交感神経(骨盤神経)が刺激されると、排尿筋は収縮する(膀胱が縮む)ため、排尿が起こります。
尿に関連する症状
尿を出すことに関連する症状には、排尿症状・蓄尿症状・排尿後症状があります。
排尿症状は、尿を出すことに問題がある症状
蓄尿症状は、尿を溜めることに問題がある症状
排尿後症状は、排尿した後に症状がある
排尿症状
排尿症状は、尿を出すことに問題がある症状であり、
尿が出にくい
排尿中、尿が途切れる(尿線途絶)
尿の勢いが弱い(尿勢低下)
おなかに力をいれないと排尿できない(腹圧排尿)
などがあります。
排尿症状の原因には、通過障害と膀胱収縮障害があります。
通過障害とは、膀胱から尿道出口への尿の通過が妨げられることで起こります。通過障害をきたす疾患に、前立腺肥大などがあります。
膀胱収縮障害とは、膀胱がうまく収縮できない状態であり、神経疾患が原因でおこる神経因性膀胱では、膀胱収縮障害がおこることで、排尿障害をきたします。
蓄尿症状
蓄尿症状は、尿を溜めることに問題がある症状であり、頻尿・尿意切迫感・尿失禁などの症状が含まれます。
昼間頻尿・・・昼間トイレが近い
尿意切迫感・・・我慢できないほどの強い尿意が襲ってくる
夜間頻尿・・・夜中に尿意を感じ何度も起きる
蓄尿症状を呈する疾患には、過活動膀胱や尿失禁があります。
尿失禁は、数種類に分類されるが、その大部分は、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁、および、その混合型です。
腹圧性尿失禁は、咳・くしゃみ・体動などで腹圧が急激に上昇した結果、意図せず尿が漏れる症状であり、骨盤底筋群の機能低下などによっておこり、更年期の女性に多く見られます。そのため、治療法は、理学療法や手術療法が主体であり、補助的に薬物療法が行われます。
切迫性尿失禁は、過活動膀胱の一形態であり、過活動膀胱の治療に準じます。
排尿後症状
排尿後症状とは、排尿した後に症状があることであり、
残尿感・・・排尿後にまだ膀胱に尿が残った感じがする
排尿後尿滴下・・・排尿後下着をつけてから、尿が少し漏れてくる
などの症状があります。
前立腺肥大症・排尿障害治療薬
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、
前立腺の肥大(良性過形成)により、
下部尿路閉塞を起こし、それにより
下部尿路症状を起こします。
前立腺肥大症で現れる下部尿路症状には、蓄尿症状・排尿症状に加えて、排尿後症状も含まれています。
蓄尿症状・・頻尿、尿意切迫感など
排尿症状・・尿勢低下、尿線途絶など
排尿後症状・・残尿感、排尿後滴下など
肥大した前立腺が尿道を圧迫するため、尿が出しづらくなくことに加え、尿を少しずつしか出せず、膀胱に尿が残るため残尿感などの排尿後症状を伴います。また、前立腺が膀胱を圧迫するため、膀胱の調節に影響をきたし、頻尿などの蓄尿症状を伴います。
前立腺肥大症治療薬
前立腺肥大症に対する治療は、行動療法や、α1 受容体遮断薬もしくは PDE 阻害薬による薬物療法が行われます。
α1 受容体遮断薬
前立腺・膀胱頚部・後部尿道には α1 受容体が存在し、交感神経によって支配されています。交感神経が作用すると、前立腺や尿道の平滑筋は収縮し、蓄尿を促します。
前立腺肥大症では、α1 受容体機能が亢進しており、前立腺や尿道の平滑筋緊張が増し、尿路が狭くなっている状態にあります。
α1 受容体遮断薬が α1 受容体と結合し、交感神経刺激を遮断することで、前立腺平滑筋や尿道平滑筋の緊張が緩和され(弛緩)、排尿症状の改善につながります。
肥大した前立腺を収縮させるわけではないので、α1 受容体遮断薬は、前立腺肥大症において、対症療法薬といえます。
α1 受容体のうち、α1A, α1D は前立腺に存在し、α1B 受容体は血管平滑筋に存在すします。血管にある α1B 受容体に作用すると、血管を拡張させるため、起立性低血圧の副作用の可能性があり、特に高齢者では転倒リスクに注意が必要です。
α1 受容体遮断薬のうち、第二世代は、α1A, α1D へ選択的に作用するため、転倒の危険性は低いですが、第一世代の α1 受容体遮断薬は血圧低下にともなう副作用が発現する可能性があるため、注意が必要です。
PDE5 阻害薬
PDE5 は、細胞内伝達物質である cGMP の分解酵素です。PDE5 阻害薬は、cGMP の分解を阻害するため、最終的に、強力に血管を弛緩させる細胞内伝達物質である NO(一酸化窒素)の作用を増強させます。
泌尿器系では、PDE5 阻害薬には二つの使い方があります。
前立腺肥大症治療薬
NO を介して、尿道・前立腺・膀胱頚部の平滑筋を弛緩させるため、尿道抵抗を軽減させ、排尿障害を改善する
勃起障害治療薬
NO を介して、陰茎海綿体の血管を拡張させることで、勃起障害を改善する
PDE5 阻害薬は、α1 受容体遮断薬と同等の効果があり、α1 受容体遮断薬が無効な場合には、併用することもあります。
5α還元酵素阻害薬
前立腺が肥大するには、男性ホルモンの一つである、ジヒドロテストステロン(DHT)が関与しています。DHT は、テストステロンから、DHT 変換酵素である5α還元酵素の働きによって、合成されます。
5α還元酵素阻害薬は、5α還元酵素の活性を阻害するため、DHT が減少し、前立腺が縮小します。
そのため、5α還元酵素阻害薬は、前立腺肥大症の原因治療薬といえます。
本剤は、中枢性の作用がなく、血中テストステロンを低下させないので、性機能障害の副作用が少ないです。
抗アンドロゲン薬
アンドロゲン受容体遮断等に作用して、前立腺を縮小させる効果があります。血中テストステロン濃度を低下させるため、副作用として、性欲低下、勃起・射精障害などの性機能障害が起こります。
その他
前立腺肥大症に使われるその他の薬剤として、植物エキス製剤、漢方薬があります。
植物エキス製剤
・セルニチンポーレンエキス(セルニルトン)
・オウメガサソウエキス・ハコヤナギエキス(エビプロスタット)
抗炎症作用などにより、前立腺の浮腫を軽減することで、排尿症状を改善します。
漢方薬
・八味地黄丸
サプリメント・健康食品等
・ノコギリヤシ
排尿障害治療薬
抗コリンエステラーゼ阻害薬
低緊張性膀胱による排尿困難の治療に用いられます。手術後や、膀胱を収縮させる神経刺激がうまく伝わらない(神経因性膀胱)ことが原因で起こります。
コリンエステラーゼを阻害すると、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制するため、副交感神経の刺激が強められ、排尿が促されます。
尿路・蓄尿障害治療薬
過活動膀胱治療薬
過活動膀胱(OAB)
過活動膀胱とは、「尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴う。切迫性尿失禁は必須ではない。」と定義されています。
尿意切迫感・・・急におこる抑えられない尿意
昼間頻尿・・・起きている間、頻繁にトイレに行き、辛い状態
切迫性尿失禁・・・我慢できずに尿がもれてしまう
夜間頻尿・・・夜間にトイレのために何度も起きる
尿意切迫感は、急におこる抑えられないような強い尿意であって、我慢することが困難な愁訴であり、ただ単に強い尿意があるが、我慢できるものとは異なります。
このような症状を示す症候群であり、原因疾患には様々なものがあります。大きく分けると、脳・神経の疾患のために、排尿を調節する信号が膀胱にうまく伝わらない状態である「神経因性」、脳・神経の疾患以外の原因によって起こる「非神経因性」があります。
治療法として、行動療法や薬物療法があります。
排尿を抑制する薬
過活動膀胱の治療は薬物治療が中心となります。
排尿を抑制する作用のある薬物を用い、抗コリン薬と β3 作動薬が中心となります。
抗コリン薬
副交感神経を刺激すると、排尿筋は収縮し、排尿が促されます。
抗コリン薬は、副交感神経刺激を遮断することで、排尿を抑制することができます。
抗コリン薬の効き方には個人差があり、ひとつがあまり効果がなくても、別の抗コリン薬が奏功することもあります。
β3 作動薬
交感神経を刺激すると、排尿筋は弛緩し、内尿道括約筋は収縮するため、蓄尿が促進されます。
β3 作動薬は、交感神経の刺激を強めるため、膀胱の緊張を緩めて膀胱容量を増やすように働きます。
抗コリン薬と β3 作動薬の有効性は、同程度です。β3 作動薬は抗コリン作用に基づく副作用が少ないため、安全性の面から、第一選択薬とされています。他にも、Ca 拮抗薬、三環系抗うつ薬、漢方薬などが用いられます。
尿路結石
腎・尿管・膀胱・尿道に石ができることを、尿路結石といいます。尿路結石は、尿の成分の一部が析出・結晶化し、これらが集合・沈着・増大して形成されます。結石の成分には、いくつかあり、最も頻度が高いのが、シュウ酸カルシウム結石です。
主な症状は、血尿、悪心・嘔吐、疼痛です。
結石が尿路のどこにできたかによって、4つに分類されます。腎結石・尿路結石を合わせて、上部尿路結石といい、ほとんどを占めます。膀胱結石・尿道結石を合わせて、下部尿路結石といいます。
細いところにできた結石は痛みを伴い、尿管結石・尿道結石では疼痛を伴うため、鎮痛薬が必要となります。
保存的治療
結石が小さく、緊急でない場合は、自然排石することが多いため、保存的治療を行います。
薬物治療は、疼痛緩和、排石促進、結石溶解、再発予防の目的で行われます。
○疼痛緩和
NSAIDs、非麻薬性鎮痛薬、鎮痙薬など
疼痛を訴える患者には、迅速に鎮痛薬を投与します。
○結石溶解、再発予防
結石の成分分析に応じて、薬剤を使い分けます。
尿路結石の再発率は高いため、結石治療後の再発予防は重要です。
再発予防には、薬物治療と合わせて、生活指導や原疾患の治療も重要です。
生活指導
水分摂取:食事以外に1日2L以上の飲水
食事の指導
バランスの取れた食事
一定量のカルシウム摂取 600〜800mg/日
動物性タンパク質の過剰摂取制限 1.0g/kg/日以下
塩分の過剰摂取制限
生活指導:肥満の予防、適度な運動
薬物療法
保険適応があるのは、最も頻度が高いシュウ酸カルシウム結石に対して、マグネシウム製剤を使う場合のみです。そのため、合併疾患に合わせて使い分ける必要があります。
ガイドラインでは、飲水指導や生活指導を必ず行い、薬物療法は、再発リスクが高い場合に限る、とされています。
その他
ウラジロガシ(ウロカルン (R))
腎結石・尿管結石の排出促進
漢方薬
猪苓湯