10-2 健胃消化薬
消化管の働き
食物の消化
口から摂取された食物は、消化管内で消化され、体内に吸収される。
消化において重要な働きを示すものとして、消化管の運動と、消化管から分泌される消化酵素がある。
消化管運動の働きとしては、まず、蠕動運動がある。腸が収縮・弛緩を繰り返すことで、消化管の内容物を一定方向に運搬することができる。
分節運動では、収縮した箇所が次に弛緩するという動きを繰り返す。これにより、消化管の内容物を混和することができる。
消化酵素は、外分泌腺から分泌され、栄養素の消化に関与している。
消化酵素の働き
エネルギー産生栄養素(三大栄養素)である炭水化物、タンパク質、脂質は、それぞれ、特有の消化酵素の働きで、細かく分解され、体内に吸収される。
炭水化物
炭水化物とは、糖質と食物繊維の総称である。
糖質は、エネルギー源として働き、最小構成単位は単糖である。(単糖類がたくさん結合してできたのが、多糖類)
多糖類は、唾液に含まれるアミラーゼの働きで細かくオリゴ糖(単糖が2個〜10個結合)に分解される。さらに、膵液に含まれるアミラーゼの働きで、二糖類に分解される。二糖類は、それぞれに対応する二糖類分解酵素の働きで、単糖に分解される。
単糖類は、小腸から血液中に吸収され、門脈から、肝臓を通って、全身循環に移行する。
タンパク質
タンパク質は糖質や脂質と並んでエネルギー源として使われる他、体を形作る栄養素である。最小構成単位は、アミノ酸である。
タンパク質は、ペプシンやトリプシンの働きで、オリゴペプチド(2個〜20個のアミノ酸が結合したもの)に分解される。さらに、ペプチダーゼの働きで、アミノ酸に分解された後、小腸から血液中に吸収され、門脈から肝臓を経由して、全身循環に移行する。
脂質
脂質は、エネルギー源として使われ、脂質の大部分は、中性脂肪(トリグリセリド)として摂取される。トリグリセリド(グリセロールに、脂肪酸が3個(トリ)結合している)は、リパーゼの働きによって、モノグリセリドと脂肪酸に分解される。そのままでは水に溶けにくいが、胆汁酸の働きで、乳化され、ミセルを形成する。小腸で吸収され、主にリンパ管を介して、血液中に移行する。
消化器症状に使われる薬
胃もたれや胃部不快感に対して使用される薬には、いくつかの種類がある。前述の消化性潰瘍治療薬も含め、いわゆる”胃薬”と言われる薬ではあるが、薬理作用には違いがあるので、その違いを正しく理解しておきたい。
健胃薬
健胃薬とは、胃酸分泌を促す薬で、生薬が含まれている。
消化薬
消化薬とは、消化酵素製剤であり、消化酵素を補うことで、消化を助ける薬である。
消化不良から胃もたれや胃部不快感などの症状などの症状が起きている場合に、消化を助け、消化を促すことで、症状を軽減することができる。
消化管運動機能改善薬
消化管運動機能改善薬は、消化管の運動を活性化することで、消化管症状を改善する薬である。
市販薬に、「〜胃散」という名称の、総合健胃薬があるが、これは、消化薬と健胃薬、制酸薬を配合した薬である。
健胃薬
健胃薬とは、胃酸分泌を促す薬であり、生薬であり、香辛料としても使用されている。
苦味健胃薬と芳香健胃薬の二つに、大別できる。
苦味健胃薬
生薬の味覚刺激により、唾液・胃液の分泌を促進し、食欲を増進させる薬である。この薬理作用から、食前に服用した方が、効果的である。
芳香健胃薬
嗅覚刺激と胃粘膜刺激作用により、胃液分泌や胃運動を促進する薬である。香辛料としてもよく利用されている。
ウイキョウ(茴香)・・・健胃・鎮痛作用があり、食欲減退・腹痛・下腹部痛・神経質で胃痛や胸やけがあるなどの症状に用いる。安中散などの漢方処方で使用される。
【香辛料名:フェンネル】・・インド料理店ではレジのところに置いてあることもある。消化促進のために、食後に5〜6粒を食べる
ケイヒ(桂皮)・・・芳香性健胃薬として、食欲不振・消化不良に粉末を飲む。
【香辛料名:シナモン】・・・製菓材料として、八ツ橋などに広く使われている。
ショウキョウ(生姜)・・・体を温め発汗させ、カゼの症状を治す。桂枝湯など多くの漢方処方に使用されている。
【香辛料名:生姜】
消化薬
消化酵素を補うことで、消化を助ける薬である。
タカヂアスターゼは、糖質やタンパク質の消化を助ける。S・M散の構成成分の一つ。
ジアスターゼは、糖質の消化を助ける。
パンクレアチンは、糖質・タンパク質・脂質の消化を助ける。
消化管運動機能改善薬
消化管の運動は、副交感神経の刺激によって、促進される(副交感神経は、「栄養と休息」)。
AChE 阻害薬
副交感神経の刺激により、アセチルコリンが放出されると、ムスカリンM3受容体と結合し、消化管運動を亢進させる。
アセチルコリン分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害すると、アセチルコリンの作用が増強するため、消化管運動を促進することができる。
・アコチアミド塩酸塩水和物(アコファイド (R))・・・機能性ディスペプシアの治療薬
D2 受容体遮断薬
また、ヒトの消化管壁には、ドパミン受容体が発現しており、ドパミン受容体が刺激されると、アセチルコリン分泌は低下し、消化管運動は抑制される。
D2 受容体を遮断することで、ドパミン神経による消化管運動の抑制が解除されるため、消化管運動機能を改善させる効果が期待できる。
慢性胃炎などによる消化器症状(胃もたれ、悪心・嘔吐など)によく使われている。
5-HT4 受容体作動薬
腸に存在する腸クロム親和性細胞が、セロトニンを産生している。生体にあるセロトニンの約90%が腸で産生されている。
腸では、セロトニンが 5-HT4 受容体に結合すると、消化管運動を促進させる。
セロトニンが 5-HT4 受容体に結合すると消化管運動は促進される。そのため、慢性胃炎による消化器症状を軽減させる目的で、5-HT4 受容体作動薬が使用される。
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