5-4 抗炎症薬
炎症とは
炎症とは、外的要因によって、細胞が障害された時に、生体が、その因子を排除して、障害された組織を修復するために起こす一連の防御反応をいう。
障害を受けると、迅速に、自然免疫系が働く。マクロファージは、貪食細胞であり、異物を貪食すると、炎症性サイトカインを放出して、周囲に炎症反応を起こさせる。
肥満細胞は、異物を認識すると、ケミカルメディエーターを放出して、周囲に炎症・アレルギー反応を引き起こす。
その結果、血管が拡張したり、血管透過性が亢進する。
血管透過性が亢進することで、血管内にいる免疫細胞が、障害部位に辿り着くことができる。好中球はウイルスなどを貪食し、血管内の単球は、血管外に出ると、マクロファージに変換され、障害された組織を貪食する。組織の再生・修復の反応が起こる。
また、炎症部位では、血管が拡張するため、炎症部位が、発赤したり、熱感を生じる。また、血管透過性が亢進して、浮腫を起こすため、疼痛や腫脹につながる。
炎症の4主徴(4つの特徴的な症状)の、発赤・熱感・疼痛・腫脹である。また、機能障害を合わせて、5主徴とも言われる。
炎症を起こす物質
炎症反応では、炎症性サイトカインが引き金となって、炎症反応を引き起こす。いわば、起炎物質である。
それらは、体内で、リン脂質を原料にして、合成されている。
細胞膜の構成要素でもあるリン脂質を原料に、ホスホリパーゼという酵素によって、アラキドン酸に変換される。ここから、さらに、シクロオキシゲナーゼの働きで、トロンボキサン類やプロスタグランジン類が合成される。
また、リポキシゲナーゼの働きで、ロイコトリエン類が合成される。
特に、プロスタグランジン類が、炎症を引き起こし、発痛物質の作用を強めることで疼痛を起こしたり、体温調節のセットポイントをあげることで発熱を引き起こしている。
他にも、トロンボキサン類は、血小板凝集にも関与している。
炎症を鎮める薬とは、これら起炎物質の合成を阻害している。
抗炎症薬の薬理作用
抗炎症薬は、起炎物質の合成を阻害している。
大きく二つに分けられる。
副腎皮質ステロイド薬は、ホスホリパーゼA2 を阻害する。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する。
その結果、炎症反応を鎮めるため、炎症を鎮め、痛みを抑え、解熱する。「解熱・鎮痛・消炎薬」と言われる所以である。
また、血小板凝集を抑制して、血小板を固めにくくする作用もある。この作用から、低用量のアスピリンは、抗血小板薬として使われている。
抗炎症薬の分類
抗炎症薬は、ステロイドと非ステロイドに大別できる。
非ステロイド性抗炎症薬は、NSAIDs(エヌセイド)と呼ばれ、化学構造による分類や、作用機序による分類がある。
代表的な薬に、アスピリン、ロキソプロフェン(ロキソニン)がある。
また、炎症作用は持たないが解熱鎮痛作用を持つ薬に、解熱鎮痛薬がある。NSAIDs にも分類されない解熱鎮痛薬として、ピリン系や非ピリン系がある。
非ピリン系解熱鎮痛薬の代表的な薬に、アセトアミノフェンがある。
NSAIDs の特徴
炎症を引き起こすプロスタグランジン類を合成する酵素、COX には、主に2種類がある。
COX-1 は、全身に常時発現しており、生理的機能を果たしている。
COX-2 は、炎症が起こったとき、炎症部位で発現し、炎症反応に関与している。
そのため、COX-2 を阻害すると、消炎作用を発揮する。一方で、COX-1 を阻害することが、胃腸障害など副作用と関連している。
ほとんどの NSAIDs は、COX 選択性がなく、COX-1 も COX-2 もどちらも阻害するため、薬効も強いが、副作用の可能性も高い。
一方で、COX-2 選択的な NSAIDs (COX-2 阻害薬)は生理的機能に影響しにくいため、胃腸障害の副作用の可能性も少ない。ただし、薬効も穏やかであると言われている。そのため、慢性疼痛や胃腸障害の心配がある高齢者には、COX-2 阻害薬が用いられる。
COX-2 阻害薬は、NSAIDs のうち、コキシブ系、エトドラク、メロキシカムがある。
NSAIDs の副作用
アスピリン喘息
アスピリンとは、NSAIDs の一つである。
「アスピリン喘息」とは、アスピリンをはじめとする NSAIDs を服用した後に、強い喘息様症状や鼻症状を引き起こす体質を持つ人を、「アスピリン喘息」(解熱鎮痛薬喘息)という。解熱鎮痛薬全般に対して反応するため注意が必要。
発生機序としては、COX を阻害した結果、ロイコトリエン産生が増加し、気道過敏性を引き起こすためと言われている。
注意点としては、ほぼ全ての解熱鎮痛薬に注意が必要であること、である。NSAIDs の中でも酸性 NSAIDs は、どれか一つで喘息症状が出た場合、他の薬でも、同様に喘息症状が出る可能性が高い。
解熱鎮痛薬の中では、アセトアミノフェンや COX-2 阻害薬は、安全に使用できる可能性があるが、中には交差性がある場合もある(COX-2 阻害薬でも喘息症状が出る場合が、まれにある)。麻薬性鎮痛薬は、安全に使用できる。
過去に、痛み止めを服用後に、喘息症状がでたことがある場合、過去の処方歴や副作用歴を確認し、再使用を回避し、安全な鎮痛薬を使用することが重要である。
胃腸障害(NSAIDs 潰瘍)
プロスタグランジン類は、通常、体内で様々な生理的機能を発揮している。その一つとして、胃粘膜保護作用がある。
特に、COX-1 阻害作用を有する薬の場合、本来の胃粘膜保護作用を阻害するため、胃腸障害を引き起こす。これは、NSAIDs 潰瘍とも呼ばれる。
引き金になるリスク因子として、量・服用期間・胃腸障害の既往歴がある。
この対策として、胃が直接、高用量の薬剤にさらされないように、プロドラッグ化(吸収されたあとに、酵素で切られて活性本体になる)されている薬剤もある(例:ロキソプロフェン)。他にも、COX-2 阻害薬を使用するのも、その対策である。
臨床では、食後服用を推奨したり、多めの水での服用を推奨したり、胃粘膜保護薬を併用することもある。
また、重要なこととして、必要最小限を用いて治療する、ということもある。(炎症の強い時には分服するが、痛みが治ったら、頓服指示となる場合がある)
NSAIDs を長期服用している場合は、初期症状に注意する。
(薬剤の例)
ロキソプロフェン
COX 非選択的であるが鎮痛効果も高い
セレコキシブ
COX-2 阻害薬
鎮痛効果は穏やかと言われているものの、胃腸障害のリスクは低い
アセトアミノフェン
解熱鎮痛薬
消炎作用はないと言われているが、解熱・鎮痛作用を有する。中枢に作用して、熱のセットポイントを下げることで解熱作用を、痛覚閾値を上げることで、鎮痛作用を発揮する。
安全性が高い解熱・鎮痛薬として、小児科では特に重要な薬である。
アセトアミノフェンは、非常に安全性の高い薬ではあるが、もちろん、副作用が全くないわけではない。長期使用時には、注意が必要である。
肝障害
アセトアミノフェンは、複数の代謝経路がある。一つの代謝物は、肝障害の原因となる。①アセトアミノフェンを大量に服用したとき、②慢性飲酒習慣がある場合、③高齢者など代謝物を抱合して排出する能力が低下している場合、その代謝物が蓄積するため、肝障害のリスクが高くなる。
この解毒薬としては、アセチルシステインがある。有害な代謝物のグルタチオン抱合を促進して、排出を促進する。