見出し画像

11-6 女性ホルモン関連薬


エストロゲン受容体

エストロゲン受容体は、生殖器だけでなく、全身に存在しており、さまざまな生理作用と関連しています。

肝臓では、血液凝固因子の産生を促進します。また、LDL-コレステロールを増やし、HDL-コレステロールを減少させる働きもあります。

骨では骨吸収を抑制するため、骨密度を増加させる作用があります。

女性が閉経後、エストロゲンの産生が減少すると、これらのエストロゲンの加護がなくなるため、更年期症状だけでなく、脂質代謝異常症や骨粗鬆症のリスクが増大します。
そのため、減少したエストロゲンを補充するため、エストロゲン製剤が用いられます。低下したエストロゲンの作用を補うために有用ですが、一方で、血液凝固因子産生を促進することで、血栓症のリスクが増大する可能性もあります。

このように、エストロゲン受容体に関連する薬剤は、全身での影響を考慮することが重要です。


乳癌の内分泌療法

乳がんの 70% は、ホルモン受容体が陽性だといわれています。

早期の乳がんでは手術療法が中心であり、それに加えて、術後補助療法を行います。乳がんのサブタイプ分類で、ホルモン受容体が陽性であり、ホルモン感受性がある場合には、内分泌療法(ホルモン療法)が有効です。

乳がんの内分泌療法には、エストロゲン受容体に作用する抗エストロゲン薬、エストロゲン産生を調節する薬が用いられます。
化学療法と比べて、内分泌療法の特徴的な点に、”長期間にわたって継続する”という点があります。術後薬物療法として行う場合、5年間と長期間にわたって継続する(10年間継続する場合もある)ため、患者さんに長期間継続することの意味を説明し、正しく理解した上で、継続することが重要です。

内分泌療法の選択肢について

体内でのエストロゲン合成経路は、閉経前後で異なります。そのため、閉経前後では治療薬が異なります。

閉経前の場合、卵胞刺激ホルモン(FSH)の刺激により卵巣にある卵胞で分泌されるため、抗エストロゲン薬や性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストが用いられます。
閉経後の場合は、主な合成経路は、脂肪組織において、アンドロゲンから、アロマターゼという酵素の作用でエストロゲンが合成されます。そのため、閉経後に、エストロゲン合成を抑制するには、アロマターゼ阻害薬が使われます。
抗エストロゲン薬は、エストロゲン受容体レベルで作用するため、合成経路に関わらず、閉経前後ともに使用されます。

抗エストロゲン薬

選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)

(選択的エストロゲン受容体モジュレーターという場合もあります)

前述のように、エストロゲン受容体は全身に存在するため、すべての受容体を ON にすると、一部では好ましい作用をしても、他の臓器では、好ましくない作用を引き起こす可能性があります。そこで、エストロゲン受容体に対する作用が工夫されているのがこの薬です。
(臓器ごとに、エストロゲン作用が違う、とイメージしてもらえるとわかりやすい。副作用を防ぐために、開発されたもの)

SERM は世代ごとに、使用目的が異なります。
第一世代 SERM は、乳がん細胞が、エストロゲン刺激によって増殖するため、腫瘍細胞において、抗エストロゲン作用を発揮することで、腫瘍細胞の増殖を抑制する効果が期待できます。
第二世代 SERM は、骨粗鬆症の治療に用いられており、破骨細胞ではエストロゲン刺激により抑制されることで、骨吸収が抑制され、結果として、骨密度が上昇されます。骨に対して、エストロゲン作用を発揮することで、骨粗鬆症治療薬として使われています。

選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)

エストロゲン受容体のダウンレギュレーションを促し、受容体を減少させることで、腫瘍細胞に対する抗エストロゲン作用を示します。

副作用

抗エストロゲン薬の共通の副作用として、血栓症、ほてりなどがあります。

アロマターゼ阻害薬

アロマターゼ阻害薬はエストロゲン合成を阻害するため、閉経後乳がんの薬物治療に用いられます(ただし、GnRHアゴニストと併用することで、閉経前に使うこともあります)。
代表的な副作用に、骨粗鬆症や関節症状があります。

LH-RH アゴニスト

黄体形成ホルモン刺激ホルモン(LH-RH)は、脳下垂体から分泌されます。「アゴニスト」というとエストロゲン作用を強めそうな印象をもちますが、アゴニスト(作動薬)は受容体に結合しても、LH-RH としては作用しないため、結果的に、エストロゲン分泌を減らすことになり、乳がん細胞の増殖を抑制します。

骨粗鬆症

骨粗鬆症治療薬のうち、エストロゲンと関連する薬に、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)があります。
骨のエストロゲン受容体に対しては、アゴニストとして作用するため、エストロゲン作用による骨吸収抑制作用を示ます。
閉経後、エストロゲン産生量が減少することで起こる、閉経後骨粗鬆症に対して、SERM は、第一選択薬です。

骨に対しては、エストロゲン作用を発揮する一方、乳腺や子宮のエストロゲン受容体には、アンタゴニストとして作用するため、乳がん・子宮体がんのリスク上昇を一部抑制します。
代表的な副作用に、静脈血栓塞栓症があります。



応援やご意見がモチベーションになります。サポートを、勉強資金にして、さらなる情報発信に努めます。