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ステイ
家の窓に風が強く吹き付けている音が聞こえる。
昨日からのこととはいえ、そろそろいい加減に鎮まってほしいと思いながらカーテンを少し開けて外を確認する。
相変わらず窓から見える街路樹は強風で横になぶられていた。
どこかからビニール袋が飛んでくるのも見えれば、発砲スチロールの入れ物が分解されてそれぞれ舞い上がっているのも見えた。
こんな強風の中で外を歩いている人間も見える。
なんてもの好きな人間なのかと驚きつつも、直ぐに興味を失くしカーテンを閉める。
それでも風の音は変わらず耳に届いてくる。
少々うんざりして、AIスピーカーに音楽をかけるように指示を出す。
流れ出した音楽は、風の音に若干負けていた。
音量を上げるようにもう一度指示を出すと、ようやく風の音が気にならなくなった。
そのまま椅子にもたれかかると、どうしてかどっと疲れが押し寄せてくる。
何もしていないはずなのに、と頭の片隅で考える。
それとも何もしていないから疲れているのだろうか。
何もしていないわけではない。
でもはたから見ると何もしていないように映るだろうし、自分で今日一日のこと、前日のこと等を振り返ってみたが、やはり何もしていないように思えた。
生活習慣から外れたことをしていないので、何もしていないように思えるのかもしれない。
しかしそれの何が悪いというのだろう。
日々を振り返りいつもと変わらないことをしていて、それが何もしていないということであるならば別にそれでも問題ないではないか。
変わらないことは悪いことではないはずだし、変わろうとしないことも悪いことではないはずだ。
変わったことをすることが、変わることが正しいだなんて誰が決めたのだろう。
自分はこのままでいたいのだ、きっと変わることをしたくないのだろう。
疲れることを知っているから。
怠惰だと言いたい人間には言わせておけばいい。
その時ふと、外を歩いていた人間のことが脳裏に過った。
自分もこんな日に外出するような行動を起こせば、何かをしたことになるのだろうか。
そもそも自分は何かをしたいのだろうか。
また窓を風が揺らす音が聞こえた。
それを聞きながら、それでもと考える。
それでも自分はこんな日に外出などは絶対にしたくはないと、天井を見つめながら考えていた。